そして、もちろん、地方(目的地)側での停留所設定についても、新しい挑戦をしないといけない。一言でまとめれば、パーク&ライド駐車場がある郊外の停留所、そして地方都市の繁華街、官庁街を経由して鉄道駅周辺のバスターミナルが終点、という現在の高速バス路線を、観光客の需要の大きい観光施設などへ延長する、ということになる。ただ、やみくもに全便を観光客向けに系統延長しろ、ということではない。
高速バス市場の「本丸」である高頻度運行の昼行路線では、時間帯により乗車率が異なる。大雑把に言うと、朝晩の便は満席となる確率が高く、昼間の便は空いている。また、多くの路線は「地方の人の都市への足」として定着しているから、早朝から午前中にかけて地方側を発車し都市へ向かう便と、夕方以降に都市側を発車し地方側へ帰る便の乗車率が高い。
逆に言うと、都市側を午前中に発車する便と、地方側を午後に発車して都市に戻る便、それも昼間に近い時間帯の乗車率が低いことになる。
これらの便については、いわば失うものは何もないわけで、より観光客取り込みに重点を置き商品性を変えていっていいのではないかと考える。もっとも、そういうことを言うとバス事業者からはさまざまな反発が返ってきそうだ。例えば、高速バス路線の多くは複数事業者の共同運行である。当該路線の運賃収入(売り上げ)をいったん合算し、運行回数(おおむねコスト負担と比例する)によって配分する「プール精算制」を採る例が多い。
特定の便だけ走行距離が長くなったり、経路上の観光地で立ち寄り観光の時間を確保し乗務員の拘束時間が長くなったりすれば、その分を売り上げ配分するロジック作りから始めないといけない。あくまで内輪の話であるが、お金がからむので調整は大変そうなことは確かだ。
いろいろ課題があることは理解している。だが、一つ一つその課題を乗り越えなければ、新しい市場に挑戦し結果を出すことはできない。
(高速バスマーケティング研究所代表)