現実問題としては、高速バス事業にピックアップ・サービスを持ち込むには課題が多い。
まずは法令の問題。高速バスは、「乗合(路線)バス」という扱いであるから、運行計画(運行ダイヤ)を事前に国に届け出る必要がある。
だが、多数のホテルをピックアップ・ポイントに設定し、予約のある場合に限りホテルに立ち寄るサービスでは、運行ダイヤは日によって変わるため届け出が難しい。過疎地の路線バスで活用されている「デマンド運行」の制度を準用するなど工夫が必要である。
次に、停留所の設定である。大都市部では、高速バスの停留所が圧倒的に不足している。路上停留所での高速バスの乗降が新たに認められることは少なく、一方で「バスタ新宿」や民間のバスターミナルのような路外の専用スペースにも限界があるからである。
私有地内に車寄せがある大型ホテルは問題ないが、そうでないホテルの前の路上に停留所を新設することなどは、便数や時間帯など条件付きで構わないので柔軟に認めてもらいたい。そもそも発着枠が限界に達している「バスタ新宿」などの救済の意味も含めて、思い切って郊外に乗り換え拠点を整備するといった挑戦も必要かもしれない。
バス事業者らの「権利」関係の調整も大変だ。大都市部における高速バスの停留所は、新設が簡単に認められないがゆえに、事実上の既得権益となっている。
大都市側事業者は、新宿や梅田などターミナル駅に停留所を持っているから、現在の(「地元の人の大都市への足」としての)顧客を握る地方側事業者の共同運行先としての価値が大きい。ピックアップ・サービスという新しいモデルが定着すると、主要ターミナル周辺の停留所の価値が流動化してしまうリスクがある。
また、バス事業者によって座席管理システムが別々であるので、複数事業者が共同で都心部のホテルのピックアップ・サービスを行うには、座席管理のオペレーションとシステムを開発しないといけない。
(高速バスマーケティング研究所代表)