【岐路 バスと観光 新たな関係69】高速バスと観光7 成定竜一


 実は「高速バス事業者向けのコンサルです」と名刺を出すと、相手の表情が突然パッと輝くことがある。自治体で観光行政に関わる方や旅館の経営者の方が多い。「ぜひ、うちの街、宿まで高速バスを走らせてください」という話になる。

 また、地方立地の貸し切りバス事業者から、大都市や国際空港から地元への高速バスを運行したい、というご相談をいただくこともある。おおむね、その地で歴史のあるタクシー事業者、運送会社らで、2000年の規制緩和後に貸し切りバス事業にも進出した会社のオーナーのご子息(従って役職は「専務」「常務」など)である。

 地元の企業経営者やそのご子息らの間では、地元の活性化のために観光への期待は大きいようで、「人口減少に苦しむ地元のために、大都市や海外から観光客を招きたい。そのために高速バスを走らせたい」と熱心だ。

 彼らの頭の中には、大型バスが、満席の観光客を乗せて地元の街や自分の宿に到着する映像が浮かんでいるに違いない。玄関先にバスが横付けされ、宿のスタッフが駆け寄って床下トランクから荷物を降ろしているシーンが、繰り返し流れているのだろう。

 だが、そのシーンは、高速バスではなく、貸し切りバスを使うバスツアーのものだ。

 バスツアーが、日にちを限定して催行されるのに対し、高速バスは原則として毎日安定して運行される。もし、前述のような「観光客で満席のバス」が、毎日、それも1日に何往復も乗り入れてくれれば、地元の街や自分の宿には大きな貢献となるだろう。

 再三ご説明したように、現実には、高速バスは観光客を取り込めていない。

 残念ながら、「安定して毎日運行」する高速バスの特性と、「いつも観光客で満席」というイメージが強いバスツアーの高乗車率とは、なかなか両立しないのだ。

 高速バスとバスツアーのビジネス(収益)モデルの違いを認識していなければ、「都市や空港から高速バス路線さえ引けば、個人旅行者がどんどんうちの街、宿に来てくれる」という過大な期待を高速バスに抱いてしまうのである。

 (高速バスマーケティング研究所代表)

 
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