個人旅行者が公共交通を乗り継いで周遊型の旅行をよりストレスなく楽しむためには、「旅行前(旅行先をアイデアとして想起する段階から、細かい旅程作成、そして予約手配)」「旅行中」の二つのステップで改善が必要である。
前者では、交通や宿泊の予約自体こそウェブで簡単に行えるようになったものの、それより前のステップ、つまり漠然とした旅行者の希望を具体的な旅程に落とし込む段階のソリューションがまだ生まれていない。
後者では、停留所の設定など高速バス自体の商品造りにおいて、より観光客を意識しなければならない。
「移動(高速バス)と旅行(バスツアー)の中間」に当たる新しいジャンルの商品造りも必要だろう。手荷物託送サービスなど地上サービスを充実させる余地も大きいが、全国まんべんなく投資するのではなく、成長が見込める「観光回廊(コリドー)」に集中することが賢い方法だろう。
これまで、バス事業者は地域住民のために安定して安全にバスを走らせる「運輸」屋だと自己を認識してきたが、これからは観光集客の一翼を担う「観光」屋の中の1人でもある、と自画像を上書きする必要がある。
これらの変化を実現することができれば、わが国のツーリズム産業が今日求められている「マス・ツーリズムからの脱却」という課題をクリアしつつ、高速バス業界にとっては新たな成長分野を手に入れることができると確信している。
本紙をお読みの方はツーリズム産業に関わる職業が中心であろう。ツーリズム産業にとって「バス」と言えば、これまでは募集モノや団体旅行向けの「貸し切りバス」が中心であったが、個人旅行化が進む中、高速バスや空港連絡バス、定期観光バス(および着地型ツアー)の存在感が大きくなるはずである。
ツーリズム産業に関わる皆さまがこれら個人向けバス商品について理解を深め活用してくださることを期待する次第である。
(高速バスマーケティング研究所代表)