スポーツによる観光振興
2019年に「ラグビーワールドカップ2019日本大会」、そして20年には待望の「2020年東京オリンピック・パラリンピック」が開かれるなど、これからスポーツのビッグイベントが目白押しだ。大勢が参加するスポーツは観光との親和性も高く、全国各地で「スポーツツーリズム」が推進されている。司令塔であるスポーツ庁の鈴木大地長官にスポーツによる観光推進についてうかがった(聞き手=編集部・板津昌義)。
スポーツ目的の外国人旅行者 2021年度に倍増、250万人へ
――スポーツ庁が設立された経緯を教えてほしい。
「スポーツに関する基本事項と基本施策を定めた『スポーツ基本法』が11年8月にできた。それから20年のオリンピック・パラリンピック東京大会の開催が決定した。スポーツ環境がダイナミックに動いている中でスポーツの所管が分散されていたことから、中心になっていく省庁が必要だという理由でスポーツ庁が15年10月に発足した。外務省や経産省、国交省、厚労省、あるいは地方の大学や民間企業などいろいろなところから職員を派遣してもらっている。ありとあらゆるスポーツに関する施策を職員が一丸となってやっているところだ」
――主な施策は。
「特に重要な点は、スポーツの価値を高めていくということ。スポーツというとオリンピックやパラリンピックで金メダルを何個取るかということを皆さん想像しがちだが、われわれスポーツ庁は、スポーツを通じていろいろな面で『スポーツっていいね』と言ってもらえるようなことをしなければならない」
「その一つは『地方の活性化』。そして『スポーツビジネス』。この二つはスポーツ庁になってからやるようになった施策だ。以前の『スポーツ・青少年局』の時代はあまり考えてこなかった。スポーツビジネスや地方の活性化は非常に重要な施策と位置付け、関係者や関係省庁と連携を図りながら強力に前に進めている。そのほか、選手の強化はもちろんだが、スポーツを通じた国民の健康増進や国際協力、国際貢献を目的とした施策にも取り組んでいる」
――スポーツツーリズムにどう取り組んでいるのか。
「スポーツと言ってもいろいろな種類のスポーツがあって、都会ではできないスポーツがたくさんある。広い場所を必要とするスポーツや自然が相手のアウトドアスポーツは地方が適している。山、川、海、湖、ダム、森林、これらは地方が圧倒的に有利だ。17年6月に『アウトドアスポーツ推進宣言』をしており、18年以降も引き続きアウトドアスポーツツーリズムを強力に推進しているところだ」
「スポーツツーリズム関連消費額は16年度は2204億円だった。スポーツ庁では、22年3月までの基本計画の目標の中でこれを21年度は3800億円にしようと言っている。スポーツツーリズムは、スポーツ分野の中で成長分野であり、力を入れていきたい」
――訪日外国人観光客が爆発的に増えている。外国人客に対してのスポーツツーリズムの取り組みは。
「訪日外国人は特にアジア地域からが多い。東南アジアを含めたアジア地域にないものを日本は持っている。一つには『ジャパウ』(JAPOW)と呼ばれるジャパンのパウダースノーだ。日本海の水を含んだ風が日本の山を通る時に雪を降らせることでパウダースノーができる。これは世界に誇れる日本の宝だ。ジャパウに特にアジアの人があこがれている。こういう非常に良質な天然の資源を生かせるのがスポーツと観光だ」
「『スポーツ目的の訪日外国人旅行者数』という指数があって、15年度の138万人を21年度は250万人にする計画を立てた。20年の東京オリンピック・パラリンピックを契機に大勢の外国人客が日本に来るが、スポーツ立国として世界に名を馳せるために21年以降もスポーツツーリズムに力を入れていきたい」
――新しい施策は。
「18年3月から『武道ツーリズム』というものに力を入れている。外国をいろいろ回って関係者と話すと日本の武道に対する憧れがあると感じる。柔道、剣道、空手、合気道、弓道など、武道の精神の神秘的なところにもひかれるのだろう。武道を見たい、体験したいという願望が強い。これも東京だけにとどめず、外国の皆さんに地方に行ってもらい、あたかも築地のセリを見るように各地で盛んな武道をどんどん見学して、併せて体験もしてもらえるようにできないかと考えている。本物の武道に触れてもらえる機会を提供する。われわれの新たなキラーコンテンツとして武道ツーリズムを普及させたい」
「スポーツ庁ではスポーツツーリズムを推進するための動画を作成し、18年12月にYoutubeなどで国内外に配信した。『アウトドアスポーツツーリズム編』と『武道ツーリズム編』の二つがあって、どちらも良くできているのでぜひご覧いただきたい」
地域の活性化を応援
――観光庁とはどのように連携している。
「スポーツ庁が発足して半年たって、観光庁、文化庁と3庁で包括的連携協定を締結した。20年東京オリンピック・パラリンピックなど世界的なイベントの開催を控え、各地域のスポーツと文化芸術資源を結び付けて新しい日本ブランドを創出し、観光振興と地域振興を推進するために3庁で協力体制を築いている」
「3庁連携で『スポーツ文化ツーリズムアワード』という表彰を毎年やっている。スポーツ文化ツーリズムの優秀な取り組みに対して表彰を行うことで地元の人の誇りが生まれ、スポーツ系のイベントの知名度も上がる」
――19年のスポーツツーリズムに関する話題は。
「大きなイベントでは『ラグビーワールドカップ2019日本大会』がある。20年東京オリンピックの前に、まずこちらを成功させなければいけない。オリンピックよりも開催期間が長い。1カ月半の間、外国の富裕層の人たちが長期滞在するため消費額も注目されている。ビールも試合の前に1人4リットルぐらい消費されるという。まずビールのストックをたくさん作っておかなければならない(笑)。試合会場は全国12カ所。さらに合宿地などいろいろなことを考えると日本全体のイベントになる」
――そして20年には東京オリンピック・パラリンピックが開催される。
「多くの外国の選手と関係者が日本にやってくる。日本各地に散って事前合宿をしてもらうことで、地方にも20年大会の恩恵が行き渡るようにしていきたい」
「さらに、われわれが推奨しているのは『事後キャンプ』だ。せっかく日本に来てくれたのだから、大会を終えた選手たちをただでは帰さない。選手が日本の地方を回りたいと思っているのであれば、大いに行ってもらおうと考えている。選手は試合前にはピリピリしたり緊張したりしているが、終わった後はリラックスして、日本の地域を回ってくれる時間もあるのではないか。メダルを獲った選手が地方に行って、子どもたちにメダルを見せるといったパフォーマンスをする。そういったことで地域の人たちと交流をしてほしいと思っている」
――あと1年に迫って期待感が高まっている。
「スポーツツーリズムを含めたスポーツ庁の目標は、20年で全てゴールというわけではない。そこからが勝負だ。20年が契機となってさらに観光目的の人も含めて大勢の人が日本に押し寄せて、またリピーターになってもらえるよう尽力していきたい。21年も関西を中心にスポーツ愛好者の競技大会『ワールドマスターズゲームズ2021関西』、あるいは福岡で行われる『世界水泳選手権2021福岡大会』があり、その後も大きな世界大会やアジア大会が開かれる。これからはスポーツで多くの外国人が日本に訪れる。われわれはこの動きを加速するために力を入れていく。ますます昇り調子になっていくので、観光関係者の皆さまにも各地での受け入れにご協力いただきたい」
――地域の活性化を進めているスポーツ・観光関係者をどう支援しているのか。
「国の立場では一企業をなかなか応援できないので、地域で自治体、観光業界、スポーツ業界などを含めた推進組織を作ってほしい。それは『地域スポーツコミッション』という組織なのだが、スポーツ庁はこの組織を応援している」
「この地域スポーツコミッションも17年1月には56団体しかなかったが、18年10月には99団体まで増えた。22年3月までに170団体にする目標があり、あと倍ぐらい作っていかなければいけない。幸いにいろいろな地域から『スポーツで活性化していきたい』というご希望をいただいているので、そのご希望に一つ一つ応えて、目標を達成していきたい」
――19年の年頭にあたって旅館・ホテルや旅行会社、観光行政担当者など観光関係者にメッセージを。
「日本のスポーツを考える時に地方の存在は大変重要だ。日本中の人たちの協力がないとアウトドアスポーツツーリズムや武道ツーリズムなどわれわれの考えている地域活性化は実現しない。国はスポーツツーリズムを強力に進めていくので、ぜひ皆さんにご協力いただきたい。一緒に頑張りましょう」