【新春特別対談】外資OTAトップ対談 エクスペディア×シートリップ


外資OTAの日本戦略

 OTAの寡占化が進んでいる。世界3大OTAであるエクスペディアグループ、シートリップグループ、ブッキングドットコムグループの年間取扱額はそれぞれ10兆~11兆円規模だ。エクスペディアとシートリップの日本事業のトップに18年の振り返りと19年の戦略を聞いた。司会は本社企画推進部長の江口英一。(ロイヤルパークホテルで)

エクスペディアホールディングス代表取締役 マイケル・ダイクス氏  

 ――2018年はどうだったか。

 ダイクス 自然災害が多い年だったが、業績に大きな影響はなかった。エクスペディアで訪日需要がトップ5の地方となっている沖縄県、福岡県、千葉県、北海道、広島県では、訪日外国人の取扱数が前年比40%増となった。日本の訪日インバウンド全体の伸びを上回る実績を残せた。また、日本人の利用需要がトップ5の地方となっている沖縄県、千葉県、福岡県、北海道、広島県も前年比60%増となり、伸び率は訪日外国人客よりも大きかった。

 日本国内を旅行目的地とするエクスペディア利用者は、全体としては訪日外国人が圧倒的に多いのだが、国別利用者の内訳で見ると、実は日本人が一番多くなった。日本人利用客の伸び率は前年比50%増だ。日本人の利用を牽引(けんいん)したのは、宿泊施設と国内航空券を利用者が自由に組み合わせて購入できる「ダイナミックパッケージ」。このパッケージ販売がやはり50%増となった。

 地域で申し上げると東北が急激に伸びた。弊社では2年ほど前から東北復興支援のお手伝いをさせていただいているのだが、ようやく花開いた感じがする。私の母方の実家がある青森はなんと前年比180%増、また宮城は前年比80%増を記録した。

 ――青森のホテル客室数には限りがある。旅館が伸びたということか。

 ダイクス 旅館が伸びた。ここ数年間は、全国で旅館との新規契約を積極的に進めている。供給量が増えたことで、予約獲得も伸びている。

 ――外資OTAのプラットフォームは、1泊2食付きの旅館にとって決して適しているとは言えない。そもそものシステム、ユーザーインターフェースがホテル客室の販売を前提として設計されている。

 ダイクス それでも旅館の販売実績は伸びている。これも2年ほど前から始めたのだが、旅館の評価制度や表示形態を見直した。エクスペディアでも徐々に旅館販売がしやすくなってきている。

 ――具体的には。

 ダイクス スターレイティング(星の数による評価)は利用者がとても参考にする部分だが、元々がホテルをベースにした評価制度になっていて、高級旅館であっても低く表示される傾向があった。そこに「天然温泉」「歴史的価値のある重要文化財」などの評価軸を加えた。現在では、高級旅館には四つ、五つの星が表示されるように改善した。表示形態では、例えば以前は「近隣空港」しか表示していなかったが、今は「最寄り駅」も表示している。

 18年は2年ほど前から少しずつ準備してきたことが花開いた1年だったと感じている。

 ――ところでエクスペディアのグローバル(世界全体)での取扱額はいくらなのか。

 ダイクス 17年10月から18年9月末の1年間の最新公開数字は975億米ドル(日本円で約11兆円)。これは予約流通総額ではなく、キャンセル処理後のネット取扱額だ。

 ――エクスペディア、シートリップ、ブッキングドットコムの各グループの取り扱いシェアは全OTAの約8割に達するという試算もある。

 ダイクス 全世界の旅行市場の規模を考えれば、その中では各社ともおそらく1桁台のシェアに過ぎないと思う。

 

Ctripグループ(日本)グループ代表 蘇 俊達氏

 ――シートリップはどうだったか。

  同じく、自然災害が多い年だったと思う。弊社は17年に大阪観光局と連携し、中国人インバウンドでグルメをテーマに誘致キャンペーンを実施した。18年は台風の後、弊社のお客さまの戻りが一番早いと言われ、大阪の復興に一定の貢献ができた。9月3日に弊社と北海道庁、北海道観光振興機構との間で、中国人インバウンドの誘客促進の連携協定を締結したのだが、直後の6日に北海道胆振東部地震が発生した。北海道の復興のため、現地で撮影した映像を中国で放送したり、ホテルのキャンペーンなどを実施したりした。北海道ふっこう割でもインバウンド誘客のお手伝いをさせていただいた。

 ――エクスペディアでは、北海道ふっこう割の取り扱いは。

 ダイクス 国内とインバウンドの両方をお手伝いしている。

  確かに日本は自然災害の多い国の一つだ。そこで、弊社では予約アプリで24時間・365日無料の支援サービスを提供している。具体的には、近隣の病院案内サポート機能、通訳が必要な場合の代理通訳機能、貴重品の返送などだ。

 ――中国から日本に旅行する際にシートリップで予約した場合は、日本で何かあった場合に、中国語でのサポートが受けられるということか。

  はい。今回の北海道では停電などもあったが、緊急時にはシートリップのアプリから電話やチャットなどでサポートを行う。18年は日本だけでなく東南アジアでもさまざまな災害があった。シートリップで予約したホテルや団体ツアー、体験型商品などの予約には災害時に無料でキャンセルができる保険も付いている。

 シートリップが中国以外の国の方々向けに展開している旅行サイト「トリップドットコム」のブランドで、銀聯(ぎんれん)カードと三井住友カードの提携カードも発行した。日本人が持てば、中国の銀聯提携店舗などで使用できる。11月には東京に日本人向けのコールセンターを開設した。

 ――シートリップのコールセンターはどのくらいの規模で世界展開しているのか。

 蘇 中国国内のコールセンターの要員規模は約1万5千人。上海本社と南通に配置している。17年11月には英国のエディンバラに約130人のコールセンターを設けた。欧州のさまざまな言語に対応している。18年9月にはソウルに約30人規模で拠点を設けた。スタッフは全員韓国人。韓国のトリップドットコムだ。

 ――東京のコールセンターの規模は。

  10数人体制でスタートした。現状は24時間体制ではなく、営業時間外は上海のコールセンターに電話を転送して対応している。今後は100人、24時間体制へと強化する計画だ。

 ――中国内でのシートリップグループのシェアは約60%と聞いている。

  諸々含めると50%以上にはなると思う。

 ――16年にエディンバラに本社を置くメタサーチ「スカイスキャナー」を買収した。中国内の大手OTA、メタサーチも傘下に収めてきた。

 グループ内に3大OTAとして、Ctrip(シートリップ)、Qunar(チューナー)、eLong(イーロン)がある。

 ――チューナーはOTAではなくメタサーチでは。

  OTAの機能もある。

 ――シートリップにもメタサーチ的部分があり、エクスペディア、ブッキングドットコムとは機能的に少々異なる。

  私たちはシートリップをOTAではなく、OTP(オンライン・トラベル・プラットフォーム)という概念でとらえ、展開している。

 ――契約している日本の宿泊施設の数は何軒くらいあるのか。直契約とサプライヤー経由の軒数を教えてほしい。

 ダイクス 18年5月時点で、直契約の旅館・ホテル数は1万1千軒となっている。エクスペディアのCEOは「21年までに倍増させたい」と表明している。

 ――サプライヤー経由の契約施設数は。

 ダイクス 重複も多いので、全体でプラス2千軒程度だ。ただ直接契約が一番良いと思うので、そこに注力している。

 弊社の場合は、直契約に加えて、サプライヤー経由の商品も販売している。多くのお客さまがご利用できるように、さまざまな商品を提供していく。

 ――19年の取り組みは。

 ダイクス 3本柱で考えている。1本目は未登録施設の直契約を進めること。2年前に専門チームを立ち上げて進めている新規開拓をさらに広げる。2本目は「世界水準の観光産業を目指す」そして「それを手伝う」。これをさまざまなレベルで行う。ホテルのレベルで言うと、従来通り、販売戦略を聞いた上で、弊社サイトでそれが実現できるベストな方法を提案する。また世界の水準と日本の標準が乖離(かいり)している部分を可視化して、ホテルレベル、自治体レベル、国レベルでも共有してもらい、日本の観光産業の底上げに協力したい。3本目は現地決済の推進。エクスペディアの主流は事前決済で、それが長年の強みだったのだが、時代が変わってきた。

 世界的にみると、事前決済と現地決済の両方をサポートするというのが主流になりつつある。現地決済との混合モデルを採用することで、宿泊施設への送客をより拡大できると考えている。現在の新規契約はほとんどが混合モデルだ。既存の契約も1軒、1軒お話しをさせていただき、半数以上は混合モデルに切り替わっている。

 ――現地決済モデルのブッキングドットコムの最大の問題点がノーショウリスクだ。

 ダイクス ユーザーの求めるものに対応する必要がある。エクスペディアは事前決算が主流で現在も70%が事前決済だ。残り30%の層をご送客したい。予約受付時に正確なクレジットカード情報を入手しているので、キャンセル料のチャージはできる。

 ――シートリップは。

  2点ある。1点目は宿泊施設向け管理システムの改善。「HE」という新システムを稼働する。客室在庫管理だけでなく、データ分析、口コミ管理などさまざまな機能を付加する。弊社が持っているビッグデータも提供し、ターゲットを絞ったプロモーションにも活用できるようにする。2点目は、エクスペディアさんと同様に弊社も地方自治体との連携を積極的に進めているので、地方誘客の強化。弊社も18年は青森、飛騨高山、ニセコなどへのリピーター率が上がっている。中国人インバウンドの地方分散化をさらに進めるお手伝いをする。

 ――プライベートについてうかがいたい。休日の過ごし方は。

 ダイクス 元々旅行が趣味なのだが、今は普段の仕事が出張三昧なので、休日は自宅でのんびり過ごしている。実は、飼い猫が5月に亡くなってしまい、6月にシェルターから2匹引き取った。長い出張から帰宅するたびに癒やされている。

 蘇 私も出張が多いので、休日は自宅にいる。料理が好きでよく作る。先日は、東京・上野の中国食材スーパーで生きたすっぽんを仕入れ、すっぽんスープを作った。私の出身地の上海料理だ。

 

 

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