【新春特別座談会】国内OTAトップ座談会 楽天トラベル×じゃらん×一休×JTB


国内OTAが地方創生の要に

 自然災害の多かった18年。観光業界も大打撃を受けた。国内OTAは、西日本豪雨に対する「13府県ふっこう周遊割」、北海道胆振東部地震に対する「北海道ふっこう割」で、迅速な対応力と強力な販売力を発揮。ウェブ旅行販売が地域経済に大きく貢献できることを証明して見せた。一方、インバウンド需要の拡大などで外資OTAとの競争はますます激化している。国内OTA3社のトップとJTBのWeb販売部長に各社の現状と方向性を聞いた。(ロイヤルパークホテルで)

出席者(順不同)

宮本賢一郎氏(リクルートライフスタイル 執行役員 旅行領域担当)

榊淳氏(一休 代表取締役社長)

髙野芳行氏(楽天 執行役員 コマースカンパニー トラベル事業長)

盛崎宏行氏(JTB 執行役員  Web販売部長)

司会=本社企画推進部長・江口英一

 

18年の振り返り

 ――2018年はどうだったか。

盛崎宏行氏(JTB 執行役員  Web販売部長)

 盛崎 上期は、自然災害や悪天候の影響を受け、前年を少し割り込む形で終わったが、下期(18年10月~19年3月)は、復興施策などを各行政や法人営業部門と連携して取り組んだ結果好転しており、全体的に堅調に推移している。復興施策については、地域の情報を正確に伝えることに主眼を置いて取り組んできたが、今後も継続して、地域に貢献していきたい。6月から11月にかけてJTBホームページの刷新に取り組んだ。全体のデザインを統一し、国内宿泊や国内ツアー検索を中心に、お客さまから見て使いやすさを追求した。その結果、ページの表示速度も改善し、コンバージョン(閲覧から予約購入への転換)も良化している。

 ――JTB公式サイトとるるぶトラベルのサイト統合は。

 盛崎 サイト統合は行わない。JTBトラベルメンバーと、るるぶトラベル会員のID統合は6月末に実施した。

 ――11月にブッキングドットコムグループ傘下のアゴダと「国内宿泊オンライン事業拡大に向けた包括的業務提携契約」を締結した。アゴダは東南アジアからのインバウンド誘客に強いサイトだが、具体的に何をやるのか。

 盛崎 アゴダが持つテクノロジーとJTBの強みである日本国内のネットワークやコンテンツ力を活用して、宿泊販売を拡大する取り組みである。販売面では、るるぶトラベルとインバウンドサイトのJAPANiCANを刷新し、サービスレベルを引き上げていく。

 ――インバウンドの伸びは。

 盛崎 18年は2桁成長をした。

 ――18年の楽天トラベルは。

髙野芳行氏(楽天 執行役員 コマースカンパニー トラベル事業長)

 髙野 楽天グループ全体で会員向けに実施したマーケティング施策なども奏功し、業績は堅調に推移した。例えば、楽天グループのポイントアッププログラム、通称「SPU」に4月から楽天トラベルが参加した。これは、楽天市場でお買い物をするともらえる楽天スーパーポイントの倍率が、楽天トラベルを使うとプラス1%、楽天カードで決済するとプラス2%といったように増えていき、最大で15倍になるプログラム。楽天銀行や楽天証券も対象サービスに加わっている。このSPUの効果で、楽天グループ内からの利用が好調だった。7月の西日本豪雨や、9月の北海道胆振東部地震など自然災害が多く発生したが、OTAの機動力を生かして、宿泊施設の皆さまを応援するキャンペーンに取り組んだ。その成果、例えば北海道の地震直後は前年比約20%減と弊社の数字も大きく落ち込んだが、約2カ月後には同20~30%増まで回復させることができた。宿泊施設の皆さまの経営が元通りになるまでは、継続的に応援を行ってまいりたい。

 ――宿泊施設を担当する営業コンサルタントの人数が多く、細かいフォローもできる。

 髙野 北海道や広島には地元出身の地域限定社員もいる。彼らは地元愛が強く、復興にかける情熱も非常に高い。

 ――よく売れた方面、商品は。

 髙野 JALとANAの国内ダイナミックパッケージ(DP)が好調だった。パッケージのウェブ化が進んでいると感じる。DPの累計利用者数は19年に1千万人を突破する見込みだ。

 ――DPの価格の方が、航空と宿泊を別々に購入するより明らかに安い。

 髙野 価格の安さに加えて、利用者が航空便と宿泊先を自由に組み合わせて予約できるという柔軟性も魅力だと考えている。最近、沖縄が好調だが、その4割強がDPでの予約となっている。

 ――18年の一休は。

榊淳氏(一休 代表取締役社長)

 榊 一休が主にビジネスを行っているラグジュアリー市場に関しては、活況が続いていると感じている。市場動向を最も端的に表す指標は、単価だと思うが、ホテルの宿泊単価は17年より上がった。過去5年の一休での販売単価でみると約40%上昇している。5年前は3万5千円だった東京のラグジュアリーホテルが今は5万円、4万円だった沖縄のリゾートホテルが今は7万円。こんな状況になっている。単価が上昇しているということは、稼働に余裕があるということ。外国人宿泊客も増えているし、日本人宿泊客も増えている。一休.comに提供されているラグジュアリー施設の客室在庫数は17年と18年でほぼ変わっていない。一方で一休.comビジネスの方は、客室在庫数が増えている。訪日外国人客数は基本的に伸びているので、それ以上に供給量が増えたのだろう。そして、このセグメントでは販売単価があまり上がっていない。つまりカジュアル市場では、市場が膨らんだが、宿泊施設数も増えた結果、単価は横ばい。ラグジュアリー市場では、急に施設を増やせないので相変わらず高単価で推移している。こんな印象を持っている。このような市場環境の中で、単価上昇の恩恵を受け、非常に高い成長をさせていただいている。

 ――一休はインバウンドをやっていないのに伸びている。

 榊 インバウンドには手を付けず、国内富裕層マーケットに主軸を置いている。一休は15年にヤフージャパンの子会社となった。一休の成長の半分はヤフーとのシナジー(相乗効果)から生まれている。

 ――18年のじゃらんnetについては。

宮本賢一郎氏(リクルートライフスタイル 執行役員 旅行領域担当)

 宮本 例年以上に自然災害が多い年で、その対応に追われた。ただ、じゃらん全体としては堅調に推移した1年だった。西日本豪雨に対する「13府県ふっこう周遊割」、北海道胆振東部地震に対する「北海道ふっこう割」など、私たちができるクーポン施策についてはスピーディーに対応した。結果として、一定程度の地域貢献はできた。18年度は新たに「360度トラベルパートナー」というサービスコンセプトを設定した。私たちが地域のこと、宿泊施設のことをしっかりと知って、交わって、新たな価値を創造していく。その価値を私たちのメディアを通じて伝えていくことで、国内総旅行回数を増やすという取り組みだ。同時に2年ぐらい前から開始している業務支援や経営支援といったサポートの提供範囲も広げていきたい。

 ――業務支援サポートとは具体的に何か。

 宮本 一例をあげると「トリップAIコンシェルジュ」。旅館・ホテルに対する旅行者からの問い合わせ、質問にAIがチャット形式で自動応答するものだ。全国の宿泊施設の公式サイトへの導入が進んでいる。

 ――11月の「じゃらんフォーラム」で、17年度の「じゃらんnet」国内宿泊予約流通取扱高を前年比2%増の8731億円と発表した。18年度の見込みはどうか。

 宮本 引き続き堅調だ。一定の成長を見込んでいる。

19年の取り組み

 ――2019年のJTBのウェブ事業の取り組みは。

 盛崎 「マーケットイン思考」「データドリブン」というキーワードを掲げて事業を推進している。当然のことではあるが、サイト運営、UI改善、マーケティングなど全ての判断基準をデータに置き、お客さまにとって魅力的な商品情報を必要なタイミングでお届けしていく。JTBが運営するサイトに来ていただいたお客さまの体験価値を高める取り組みを続けていきたい。

 ――ウェブで予約した場合、予約確認書を自宅でプリントしたり、スマホ画面に表示したりして旅行できる。わざわざ店頭にクーポン類を取りに来る人などいるのか。

 盛崎 最終的には店頭で話を聞いて、アドバイスがほしいというお客さまの期待感が、想像以上に高い。来店いただくお客さまの世代は、データで見ると20代から60代まで幅広く存在する。お客さまの旅行目的に合わせた手配はもちろん、周辺の観光情報やおすすめの食事などについて、しっかりコンサルを受けたいというニーズもある。JTBの強みであるオンライン、店頭、コールセンターなど複数の販売チャネルが連携し、1500万人以上のJTBトラベルメンバー一人一人に対して、価値を提供し続ける、そのような1年にしたい。

 ――19年の楽天トラベルは。

 髙野 19年は五輪開催前年に当たり、ラグビーワールドカップも開催される。日本がこれまで以上に世界からの注目を集めることを意識して、インバウンドを強化していく。楽天グループは、海外におけるブランディングを積極的に行っている。FCバルセロナやNBAのゴールデンステート・ウォリアーズといった海外のプロスポーツチームのスポンサーを務めており、ユニフォームに「Rakuten」のロゴが入っている。特にFCバルセロナのファンは世界中に数億人いると言われている。楽天のブランドを世界に浸透させていく中で楽天トラベルの利用者数も増やしていきたい。海外ではOTAに対して部屋売りのイメージを持つ方も多いが、楽天トラベルは日本発のOTAとして、1泊2食付きという日本の旅館文化そのものを積極的に発信し、販売していく。そこが外資OTAとの差別化にもなると考えている。楽天グループは19年に携帯キャリア事業に参入するために、着実に準備を進めている。楽天の携帯キャリアユーザーが増えることにより、新たに強力な顧客接点を持つことになり、トラベル事業の可能性もさらに拡大する。

 ――19年の一休は。

 榊 先ほどラグジュアリー市場が活況だと申し上げたが、引き続きこの状況は続くと考えている。19、20年とラグジュアリーホテルが次々と開業するため、一休としては大変期待している。19年だと「ハレクラニ沖縄」「パークハイアット京都」「エースホテル京都」、ホテルオークラ東京本館が建て替わる「ザ・オークラ東京」。20年には「リッツカールトン日光」「エディション銀座」「フォーシーズンズホテル大手町」。また21年には「Wホテル大阪」の開業も予定されている。

 ――外資ブランドのラグジュアリーホテルは、まず一休に客室販売提携の話が来るのか。

 榊 これらのホテルのターゲットは、一休の主要顧客層とも一致しているので、お声掛けはいただけると思う。その際には総客室数が最大のポイントとなる。ハレクラニ沖縄は360室と大型なので、販売チャネル拡大に貢献できると思う。一方で、旅館の場合は、開業前よりも開業後に話題になることが多い。例えば18年にニセコに開業した15室の旅館「坐忘林」は一躍、一休の人気旅館になった。17年に広島県尾道市で就航した19室の客船旅館「gantu」や、南霧島温泉「天空の森」、妙見温泉「雅叙苑」なども最近の人気旅館だ。ラグジュアリーホテルも高級旅館も、滞在自体が非日常体験。素晴らしい施設が続々と登場し、顧客に伝える機会が増えることにやりがいと楽しみを感じている。

 ――19年のじゃらんは。

 宮本 18年10月に宣言した「日本国内の総旅行回数を増やす」ことにチャレンジする。具体的には、会員ランクに応じた特典を付与するカスタマープログラムを導入し、中アクティブ会員を高アクティブ化、低アクティブ会員を中アクティブ化、非アクティブ会員を旅行ユーザー化することなどを検討している。会員ランクが上がるほどポイント付与率を上げるポイント増加キャンペーンなどを行い、アクティブ顧客の旅行回数全体を底上げする施策を検証する。宿泊施設の負担軽減にも取り組む。一つ目は、人材雇用問題への取り組み。新卒、既卒者の採用サービスである「リクナビダイレクト」と「じゃらんnet」を18年8月に連携させた。宿泊施設が、じゃらんnetの管理画面からリクナビダイレクト上での求人申し込みをできるようにした。二つ目はノーショウ(無連絡キャンセル)への取り組み。19年4月1日以降のチェックアウト分から2年間限定で、じゃらんnetから宿泊予約をして当日にノーショウをした宿泊予約者から規定のキャンセル料を回収できなかった場合、損害額の50%について、保険会社から保険金が支払われるサービスを提供する。

 ――ノーショウ保険はOTAとして画期的な取り組みだと思うが、そもそもOTAが旅行業法の枠内でビジネスを展開すれば、宿泊施設にノーショウリスクは発生しないのではないか。

 宮本 私たちのビジネスモデルの根幹は集客のご支援だが、ノーショウは宿泊施設にとって大きな問題なので、負担軽減プログラムの一環として始める。多重予約者に早期アラートメールを送付し、キャンセルを促すという取り組みも始めている。

スマホシフト

 ――次に予約のスマホシフトについて伺いたい。PCとモバイル(スマホなど)の閲覧比率、予約比率はどれくらいなのか。エクスペディアの場合、閲覧の50%、予約の30%がモバイルということだ。

 盛崎 閲覧の60%強はスマホ。予約は50%弱というデータだ。商材にもよるが、国内宿泊予約に限ると、若干PCの方が多い。

 髙野 スマホ比率は閲覧、予約ともに高い。閲覧は多い日で80%を超える場合もある。

 榊 トラフィック(閲覧)は65~70%くらい。予約は40~50%。コンバージョン(閲覧から予約への転換率)は、PCの方が高い。EC(電子商取引)の一般論としても高単価商品はPCでの購入率の方が高い。1泊12万円の旅館をスマホで予約する方もいるが、やはりPCが多い。先ほど申し上げた予約の40~50%というのは金額ベースなので、件数ベースだと良い勝負かもしれない。

 宮本 じゃらんnetスマホ比率も、閲覧、予約共にエクスペディアより高い。私たちは、モバイルファーストやPCファーストなどと決めてサービス展開をしてはいない。マルチデバイスとして捉えている。モバイルユーザーにはモバイルに最適なUX(ユーザーエクスペリエンス。ユーザー体験)が必要だし、PCも同じだ。

地方創生

 ――OTAが地方創生(地域活性化)で果たす役割についてどう思うか。

 盛崎 JTBは18年から、事業ドメインを「交流創造事業」と定めた。47都道府県を網羅するDMC(デスティネーション・マネジメント・カンパニー)としての視点で、法人営業、リテール販売、ウェブ販売など、オールチャネルを活用し、観光立国推進に貢献したいと考えている。特に日本文化そのものである「旅館」の魅力を、グローバルマーケットに対して、これまで以上にアピールし積極的に販売していく。JTBは総力を結集して、地方創生、地域活性化に取り組んでいく。

 髙野 楽天トラベルは宿泊施設担当の営業コンサルタントを全国に数百人配置し、日々サポートをさせていただいている。また、地域振興チームが全国の自治体を担当しており、瀬戸内DMO、北海道観光振興機構、箱根DMOには出向者もいる。楽天グループのミッションは「エンパワーメント」。楽天トラベルは地域のエンパワーメントを常に意識している。自然災害後のふっこう割にも積極的に取り組んだ。

 榊 皆さんと違って小さい会社なので、大それたことはやっていない(笑)。良い旅館があるのは地方なので、日本人富裕層や、富裕層ではなくても旅行が、旅館が大好きな一休ユーザーを日本全国のお宿にご紹介することが地域経済活性化の一助にはなっているかなと考えている。

 宮本 地域経済が活性化されることが、地方創生につながる。つまり、地域消費額を上げることが大事だ。地域消費のど真ん中にある宿泊需要を大きくするサポートをすることが最大の貢献になると考えている。宿泊を中心とした地域誘客をこれからもしっかりとやる。現地滞在時間を延ばし、現地消費額を増やす仕組みづくりのお手伝いもしている。

休日の過ごし方

 ――最後に皆さんのプライベートについて伺いたい。休日の過ごし方は。

 盛崎 春夏秋のシーズンは、国内の山に登っている。登山を始めた5年前は、富士山をはじめ3千メートル級の山々をテントをかついで登っていたが、最近は八ヶ岳を登り、お風呂にも入ることができる人気の山小屋に泊まった。標高2100メートルにある白馬鑓温泉も良かった。一人では危険なので、会社のメンバーと一緒に行くこともある。

 髙野 休日はたまにバイクに乗っている。レンタルで毎回違うバイクに乗る。15年くらい前まではバイクを所有していたのだが、処分して一時期は乗るのをやめていた。3年前くらいから、「リターンライダー」としてまた乗り始めた。仲間と温泉ツーリングに行くこともある。

 榊 普通にゴルフもするのだが、ロードバイク(自転車)にも乗る。一休の親会社のヤフーと河北新報が、東日本大震災の復興支援のために13年から始めた「ツール・ド・東北」というロングライド型式の自転車イベントに出場している。一休ジャージを着て、被災地を走っている。

 宮本 休日は基本的にゴルフ、テニス、旅行だ。そして、冬はスキー。年末年始は、いつも雪山に行って滑っている。2月いっぱいまでは、時間が取れればスキーに行く。野沢とかニセコとか、雪山が好きだ。高校時代はラグビー部だったので、今年のラグビーワールドカップは本当に楽しみにしている。日本戦のチケットをはじめ、多数のチケットを入手して準備万端だ。

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