強く、しなやかにー。変化の時代の女将たち
インバウンド3000万人突破、外国人就労の拡大、民泊の伸長―。旅館を取り巻く環境は急速に変化している。そんな中、女将はどのような思いで旅館を切り盛りしているのか。東西の女将にお集まりいただき、日々の苦労や理想の女将像などを語っていただいた。(本社会議室で)
出席者(50音順)
小口正子さん(福島県磐梯熱海温泉・四季彩一力)
小幡美香さん(島根県さぎの湯温泉・竹葉)
川﨑禮子さん(山形県蔵王温泉・ル・ベール蔵王)
小林享子さん(新潟県越後湯沢温泉・ホテル双葉)
小林由美さん(群馬県草津温泉・草津スカイランドホテル)
迫間優子さん(三重県鳥羽温泉・鳥羽ビューホテル花真珠)
司会=本社論説委員・内井高弘
わが宿の特徴
――お宿の特徴、セールスポイントを教えてください。
川﨑禮子さん(山形県蔵王温泉・ル・ベール蔵王)
川﨑 山形県の蔵王温泉から参りました。元々は30年ほど前に実家で作ったリゾートホテルでして、売れ残ったところを会員制のホテルにして、さらに私が引き受けて20年になります。80室中、オーナーさんのいる部屋は使っておりませんので、実質40室です。引き受けた当初から全室にベッドがありますので、昨今のベッドの部屋を探されている年配の方のニーズにも応えていて、多くお越しになります。
お客さまは男性が多いです。女性の方はお友達と一緒にですが、男性の方は仕事に来て、1人で温泉に入る。おひとりさまから承っているところはセールスポイントですね。山形市内から20分くらいですので、山形で会議をされていらっしゃる方もありますし、山形で食事をされて、素泊まりや1泊朝食付きでお泊まりになります。
小林由美さん(群馬県草津温泉・草津スカイランドホテル)
小林(由) 当館は群馬県の草津温泉にございます。草津温泉といったら湯畑ですが、湯畑からは歩いて10分くらいの高台にあります。そのため静かですし、窓を開けると自然の風が入ってきて、全然草津らしくないんです。でもそれが逆に当館の売りである、「リゾート草津」なんです。静かな自然の中で、温泉を楽しみながら心身共にリラックスしていただけます。
元々は湯畑のそばで営業していたのですが、45年前に父が団体向けの旅館として今の館を建てました。私が戻ってきた2000年ごろは募集団体のお客さまが細々と来るような宿でしたが、団体から個人への転換とネット販売へのシフトを図り、今はほとんど個人客です。全30室のうち16室は昔ながらの10畳の和室、残りがリニューアルしたお部屋です。定員6人でツインの寝室と和室からなるラグジュアリーという部屋もあります。ラグジュアリーがあるおかげでいろいろなタイプのお客さまもいらっしゃるようになりました。
小幡美香さん(島根県さぎの湯温泉・竹葉)
小幡 私の宿は、島根と鳥取の県境に近い、島根県安来市にございます。客室数は7室です。山陰では唯一のミシュランの三つ星観光地である足立美術館が当館から歩いて30秒ほどのところにあり、山陰周遊、日本の芸術美術鑑賞を目的とした旅先として選んでいただいている傾向が強いように感じております。
宿の売りは大きく三つございます。一つ目は天然温泉です。以前から湯治目当ての方も多く、24時間源泉掛け流しで好きな時に何度でもお入りいただけます。二つ目は、島根県の伝統芸能であり、日本遺産に認定された「安来節どじょうすくい踊り」の体験鑑賞が可能な点です。宿の主、女将が自ら踊り、お客さまとご一緒させていただく宿泊プランは人気です。安来市ならではのご当地体験ですね。そして三つ目は食へのこだわりです。10年前からマクロビオティックを宿のメニューに本格的に取り入れました。マクロビは動物性の食材を極力控えますが、山陰の新鮮で豊富な海鮮も取り入れた、ゆるやかなマクロビオティックコースが好評です。ベジタリアンやビーガンの方にも即対応可能です。施設面で完全バリアフリー化が十分できていないので、食の面においては、多種多様化するご希望に添うよう心掛けております。
小林享子さん(新潟県越後湯沢温泉・ホテル双葉)
小林(享) 新潟県・越後湯沢温泉の高台にあります。昭和24年創業で今年70年目を迎えました。客室数は74室です。当館の特徴は多種多様なお風呂があることです。寝湯や洞窟風呂などのほか、ぐるぐるとお湯が出る「トルネードシャワー」や温かい石を抱いて体を温める「抱きっこ石」などの施設も合わせ28種類に上ります。
客室は露天風呂付き客室が29室、あとはひと部屋の広さが150平方メートルほどある、3世代が一緒にお入りいただける客室が3室あります。さらに2年前に改装して、新潟の小千谷縮(ちぢみ)や十日町絣(がすり)などの地元の織物をテーマにした客室などいろいろなタイプのお部屋を設けております。
時期によってバスの団体が多い時には年配のお客さまが多かったり、夏休みなどはお子さまが多かったりしますが、幅広い年代の方にお越しいただいております。関東から電車だと大変近いので、本当にありがたい立地です。
迫間優子さん(三重県鳥羽温泉・鳥羽ビューホテル花真珠)
迫間 三重県の鳥羽市にあります。1980年創業で、私で今3代目になります。客室は48室あります。当館は高台のところに建っておりますので、鳥羽湾が一望できる点が売りです。
08年にリニューアルしたときに、私の友人が出産ラッシュだったのをきっかけに、「子どもに優しい宿」を目指しております。キッズルームやおむつを用意したり、手厚いおもてなしをしたりするのが一番の特長です。若い方からお年寄りまで幅広い年代層のお客さまに来ていただいております。お子さまの年齢からいうと、0~3歳児が非常に多くて、夏休みなどは保育園かなと思うくらい館内がにぎやかで(笑い)。従業員にもお子さまには保育士さんになった気持ちで接しなさいと言っております。
料理も自慢です。元料理長が黄綬褒章を受章しており、今はその弟子が料理長として腕を振るっております。
小口正子さん(福島県磐梯熱海温泉・四季彩一力)
小口 福島県磐梯熱海温泉から参りました。磐梯熱海温泉は東北三大美人の湯の一つともいわれ、トロっとした化粧水のようなお湯が女性のお客さまにご好評いただいております。当館は市の温泉とは別に自家源泉を持っており、こちらはぬる湯になるのですが、これを使って温泉化粧水など温泉コスメシリーズを作っております。
宿としては1918年、大正7年の創業で昨年平成30年に創業100年を迎えました。磐梯熱海では一番古い宿です。客室数は75室です。5千坪の広さを誇る日本庭園「水月園」が一番のセールスポイントになります。猪苗代湖から流れる五百川の支流が庭園内を流れております。自然の流れる川を配備した庭園は全国でも珍しく、大事に維持保存に努めています。全室庭園に面しておりますし、庭園内も自由に散策していただけますので、四季折々のいろいろな表情を楽しんでいただけます。
最近の悩み
――最近の旅館経営の中で、一番腐心していることはなんでしょうか。
川﨑 人手不足です。今は本当に少なくて、料理長とすぐ来てくれる人5、6人を含め10人くらいで回しています。ですから予約を受ける段階で、夕食付きのお客さまの人数を減らすとか、素泊まりしか受けないとか調整しています。もちろんスキー客で忙しい時期はそうはいきませんが。私の知人などが働きたいと言ってくれるので、そういう人に登録しておいてもらって、その中からフレキシブルに、1、2時間からでも来てもらっています。裏方の仕事はそれでもできますから。でもなかなか大変です。
年配の従業員が多かったので、働ける分だけ働いてほしいと2年前に定年制を廃止しました。おととしから、冬は台湾の方に来てもらっています。昨年はベトナムからのインターンシップをお願いしました。そのほか山形大学の留学生に来てもらっています。モンゴル、ラトビア、ロシアなどお国はいろいろです。
あとは後継者の問題です。私は子どもが皆就職してからこの宿を引き受けたので、跡を継ぐ子どもはおりません。ですので、大学生などで旅館業をやりたいという人がいたら引き継いでもらえたらなあと思っています。
小林(由) 後継者については、娘が8月に結婚しまして、婿を連れてきました。中学から家を出ていたので戻ってくるのか心配しておりましたが、相手の方が商売をやりたいという人で、接客も経験があり本当にありがたいです。
働き手については草津も大変です。今はパートさんを入れて20人で回しています。10年くらい前までは小中学生を持つお母さんたちが、子どもが学校に行っている間にお掃除のアルバイトに来てくれていたのですが、そういう人が1人もいない。結局他の部署の人たちに手伝ってもらっています。
フロントにはおととし、英語、中国語が堪能な台湾の男の子が1人正社員で入ったので、中国のお客さまも安心されるようです。今年入ったネパールの男の子も英語が上手なので助かっています。海外から来る子は大学も出ていて優秀な子が多いんですよ。でも日本人と同じ条件での仕事はなかなかないのが実情です。だからサービス業で働いてもらえるのは、お互いにとても良いと思います。ビザも最初の年は1年更新でしたから大変でした。海外の人は確実に労働の担い手になってくれるので、きちんとした法律を整備してほしいです。
小幡 いつもは正社員4、5人体制なんですが、週末の繁忙期には10人以上でやっています。そういう時には求人サイトとハローワークを両方使い、さらに発信力あるSNSでも呼び掛けると、お若い方や子育て中のママさんも来てくださいます。
人手不足という点ではもう少し時間と役割分担、効率化を目指したいです。経営者だけがやっている仕事も多々あります。ネット管理を日中できれば良いのですが、社長も私も調理師を兼ねており、ネット管理をはじめとした業務が深夜に及ぶことが多いです。おかげさまではございますが、週末は特に、お電話での問い合わせのほか、ネットからのアクセスが増えるのでピリピリしがちですね(苦笑)。社長や女将が兼ねている仕事が多すぎるので、あらゆる分野の生産性向上を目指し、小規模旅館ではございますが、現在ITシステム導入に工夫を重ねています。
小林(享) 私も人手不足を感じています。当館はだいぶ前から派遣会社に「この時期だけ3カ月間」などの形でお願いしている状況です。それゆえお客さまとのトラブルもたくさんあります。スタッフに「お客さまに喜んでもらいたい」という思いを持って働いてもらう、それが一番だと思うんです。ですが、人手不足で仕事としての接客、お料理を出すだけのような感じになってしまうと、お客さまとの会話ですとか心配りとかいう部分がなくなってしまうんですよね。今いる社員も含めて教育、育成の難しさを痛感しています。
あとは中国の大学と提携して、6カ月間、冬の時期と夏の時期にインターンとしてお仕事をしてもらっています。日本語を学んでいる皆さんなので日本語が流ちょうで助かっています。
迫間 私はこの問題、大得意なんです(笑い)。私が修業から戻ってきて旅館に入ったのは06年で、08年から毎年3人ずつ若い新入社員を採用していました。ですが16年に全員辞めてしまい、その1年間はほぼ全員派遣社員でした。売り上げが全部派遣会社に取られていくので、何のために商売をやっているのか分からない。派遣社員は宿にも地域にも愛着がないし、スタッフ同士のトラブルもある。それで一昨年は採用活動を強めにしたのですが、大手の就職サイトにかける費用はないので、合同企業説明会に死ぬほど行きました(笑い)。若い子たちはキラキラ輝いている人を見せれば結構来るんですよね。それで8人採用して、今は30人弱の正社員だけです。利益も確保でき、いい方向に転換できました。
ただやはり誰でもいいわけではなく、第一志望の子を取らないといい旅館は作れない。第一志望の子たちはやる気もすごいし、意欲もすごいです。ただ朝ご飯はパートさんだけで回すなどしないと若い子は長続きしにくいです。あとはシフト制で先々の休みを事前にきちんと示すこと。LINEなどで気楽に相談できるような環境作りも大切にしています。
小口 私も人手不足を感じています。毎年新卒採用をしておりますが、震災後は年々応募が少なくなってきて苦戦しています。東京五輪に向けて首都圏に若い世代が流出しているのかもしれないし、地元に残っても旅館業界に入ってくる人は少なくなっている感があります。
お掃除は外注していますので、正社員はルームさんとフロントと調理場で60人ほどです。ルームさんの中心は20代ですので、しっかりと朝からお休みが取りたいということで、1人のルームさんがチェックインからチェックアウトまでお世話する係制だったのを変えて近年はシフト制にしておりました。ですが、大震災後は通常の観光需要が激減したせいで、また係制に戻したりしながらも、他の部署のスタッフが応援したりして人数不足を補う対応をしております。
これまでは新卒採用中心でしたが、中途採用も積極的に受け入れていかねばならないと考えています。私どもはまだ踏み出せずにおりますが、福島県でも学校と提携してインターンシップで留学生の雇用に取り組むお宿も増えてきました。
理想の女将像と従業員との関わり方
――女将さんは接客だけでなく経営も人の教育も考えなければならない、大変なお仕事なわけですが、理想的な女将というのはどのようなものですか。
川﨑 やはり温泉にいらっしゃるお客さまは心を癒やしにお越しになるんだと思うんですね。なので女将さんに求められるのは愛情、それだけだと思っています。愛情を持っていろんな言葉をかけてあげる。それによって「ここに来たらホッとするなあ」って感じてもらう。「女将の顔を見たらホッとした。また来るね」という具合にできればいいと思いますね。旅館はもうけは少なく苦労は多いと言われますが、私はお客さまと接することが大好きなので全く苦になりません。先日かみのやま温泉の旅館の女将さんが、「従業員への愛、家族への愛、お客さまへの愛」とおっしゃっていましたが、私もその通りだと思います。今は褒められてもいない、叱られてもいない、そういう人が多い。だから褒めるとすごく喜ぶんです。ちょっとでもいいところがあったら、「ありがとうね、お客さま喜んでいたわよ」と伝えてあげます。
小林(由) 川﨑さんのおっしゃる通り、「また来るよ」って言っていただけるのが一番大事だと思っています。また来たくなるようなところにしていかなければ、続かない。それは根本的には愛情がいかに表れているかだと思います。時には理不尽なクレームもあります。ですがうちの旅館を良くしようと言って下さっていて、こちらがきちんと対応させていただくと、リピーターになってくださるんです。そういう方は大事ですし、私たちはそうやって育てられているなと強く思います。
――従業員教育はどうですか。
小林(由) 草津町は旅館組合主催の「観光学院」があって、4月に一斉に新入社員向け研修をしてくれています。ただ草津はいろいろな旅館を何軒も渡り歩いている人が本当に多いので、仕事の仕方について「あそこの旅館は違った」とか言うわけですよ。そちらが合理的なこともあれば、こちらのやり方でやってもらわなければならないこともある。それで納得できず辞めてしまう人も結構いる。働いてもらうというのは本当に難しいです。ですが、これも結局は働いている人への愛情なんでしょうね。いくつになっても褒めて伸びますよね、若い子だけでなくて(笑い)。接客はベテランが何人かいてくれて、その人が指導してくれるときちんといきますね。
小幡 従業員さんに対して、皆さんが仰っているように、まず褒めて個々を伸ばそうとしています。週末は学生バイトの比率が高いので、最初の指導は細やかにしますが、長く働いている人に後輩の指導などを任せて、私は様子を見るようにしています。その方が軽やかに伸びやかに働いてくれますし、指導する側の先輩も、後輩に教えることで自主性や主体性が上がり、能力、個性を発揮してくれます。現場が良い雰囲気の中で良い仕事ができているかどうかを確認しています。
それから、宿を空けている時に何かが起きたとしても、その時にその場で見届けてあげられなかったという思いがあるので、報告を受けた時に、まずは怒らないと決めています。「いつもありがとう。不在にしているけれど女将として経営者として頑張るからね」という気持ちを前面に出して、宿に戻ったら一緒に走る感じです。
小林(享) やはり先代の女将が私の目指す理想像ですね。朝から晩までずっと、お客さまと社員に気配りしながら働いていて。今でもお客さまから「前の女将さんって本当に偉大だよね」というお話をいただきます。私はまだまだ未熟なので、お客さまの方がいろいろなところの旅館を回ってこられていて、「こういうところはこうだったよ」などと教えてくださる。女将だから上に立ってというよりは、現場に出て、お客さまから勉強させていただいております。
従業員教育については、嫁の私よりもずっと長く働いている社員はたくさんおりますし、そういう社員に会いに来るお客さまもいます。そういう人たちに逆に支えてもらっていると思っています。亡くなった先代の女将はきちっと叱り、それにみんながついてきた感じですが、私の場合は一緒の目線でお客さまの方向を見ながらというのを日ごろから心掛けています。
迫間 目指す女将像ですが、女将会の会長を去年まで7年間やらせていただいて走りまくってきましたので、今度はおとなしく旅館にいる女将になりたいなと。ちゃんとごあいさつして、お部屋回りして―とやっていた時代もあったので、また原点に戻り、お客さまと向き合いたいと思っています。そして営業も再度回り直ししているところです。
従業員教育は、外部研修を年2回入れています。私も子どもを産んで、ようやくちゃんと「褒めて」「ありがとう」と言えるようになってきました。あとは一人一人個別に話を聞く面談形式を取らないと、今の子たちは意見が潜ってしまっていることがあるので、3カ月に1回くらい、1時間ほど話を聞くようにしています。
小口 スタッフに対しては、やはり個別に話を聞くようにしています。そして何か問題が起きた時には決して叱らず、当事者たちから話を聞いて、まずは事実を確認して、正確なところを整理、把握してから対処するようにしています。必要であれば、女将にも声を掛けて間に入ってもらったりもします。昔は先輩のやっていることを見て覚えなさいといった指導もあったのですが、今はそんなことをしていては誰もついてこない。褒めながら、「一緒にやろう」「どうしたらいいかな」なんて感じですね。
うちの女将も私も嫁なのですが、母は嫁いでから自分でいろいろと新しいことを切り開いてきた行動派の人なので私も母を羅針盤にしてまいりました。それで私も何か新しいことを始めたいと思い、03年にブライダル部門を立ち上げ、和婚という言葉が定着する以前から「旅館おもてなしウエディング」を広めています。私もウエディングプランナーとして最前線で現場に立っております。私どもで婚礼を挙げられた新郎新婦、そのご親戚やお友達など、「ご婚礼から始まる一生のお付き合い」としてリピーターさまになっていただいています。
インバウンドと日本の文化発信
――旅館は日本の伝統文化を伝える場だと思うのですが、これから外国人が増えてきて、文化を外国人に伝えたいという思いはありますか。
川﨑 インバウンドのお客さまには体験型がいいと思います。一番簡単なのは、折り紙。和風柄の折り紙の模様からも話が広がりますし。蔵王の場合はこけしの絵付けがあるのでぜひやってもらいたい。それで分からないところは教えてあげる。もう景色を見せるだけでは駄目だと思います。ただ、インバウンドは何かあった時に来なくなる。それよりかは地元の人を一番大切にしなければならないと思います。蔵王の場合は本当に最初は湯治のお客さまだったのですが、スキーにシフトして地元の人を全然顧みなかったので、地元の人が離れてしまったんです。地元の人を大切にしていれば、宣伝なんかしなくても「親戚の人が来たから蔵王に行こう」となるし、地域が元気になります。自分のところだけが良ければいいのではなく、地域が一丸となって活性化しないといけないですよね。みんなが仲良くできるよう間を取り持つことを私はこれからやっていきたいですね。
小林(由) うちはいつも色浴衣を100枚くらい置いてあるんですけれども、日本人、外国人問わず大変喜んでいただいています。特に外国人のお客さまには、記念日と言われて下手にケーキを出すよりは、着物を着せてあげて記念写真を撮ってあげると大変喜ばれる。やっぱりモノより思い出なんですよね。
草津まで来るお客さまは、やはり3回目、4回目の日本なので温泉の入り方も知っているし、一応全部のお部屋に「浴衣はこういうふうに着ます」というのを入れてあるので、それを見ながら上手に着てくださる。草津にはお茶をたててお点前をする旅館もあったり、いろんな日本文化を表したりするところが何軒かあるのですが、みんなそれぞれができることをやればいいと思うんですね。
草津温泉はこの5年間で湯畑周りもガラッと変わりました。うちは湯畑から離れていますが、お客さまには「どんどん湯畑の方に出てくださいね」と。草津中の旅館はみんなそう言っているんですよ。うちには5人しかお客さまはいなくても、湯畑に行けば100人いる。「草津って本当ににぎやかですよね」と言ってくださる。イベントなどをやっていれば、SNSで発信してくださる。そういう効果がものすごくあって、やはりそういう中心になるところがあるという点で、本当に草津はありがたいなと思っています。
小幡 島根は訪日外国人客数が47位、最下位なんです。おかげさまで伸びしろがすごくある(笑い)。「ご縁の国しまね」というくらいですから、皆さまとのつながりの力や、観光地の魅力を可視化するために非常に有効であるのがフェイスブック、SNSだと思っており、フル活用しています。当館は地域に生かされており、地域と共に歩む旅館という認識から、地域の経済が元気でなければ潤うことが難しいと考えています。ゆえに地域と自社は両輪だという意識で島根県情報を外に発信していますし、同時に地元の方々に共感を得る発信を心掛けることで私たちの生きている島根県、日本に自信を持っていただきたいとの思いを込め、情報を出しています。どんどん、もっともっと今の日本を知ってほしいですね。
また、日本の伝統や魅力を伝える上で、旅館は特に女将さんを尋ねて来られる方が多いように感じておりますので、お知り合いになれた女将さんやそのお宿を紹介したいです。国内外問わず知人の紹介は安心しますよね。海外からのゲストならばなおさら紹介は安心かと思います。
SNSをうまく活用し、日本に親近感を持って、安心して旅していただければと思っています。
小林(享) 越後湯沢はありがたいことに立地も良くて、雪もたくさん積もりますし、温泉もあるということで、中国、台湾、韓国などいろいろなところからお越しいただいております。2、3年前までは入浴中に写真を撮るなどのトラブルもありました。旅館としてマナーについての注意表示を出さなければいけなかったのですが、それができていなかったというのが正直なところです。ですが最近は旅慣れた方も増え、外国人、日本人双方から指摘をいただいて館内案内なども改善しつつあることで、以前のようなトラブルはなくなりました。
越後湯沢の若女将で3カ月に1回情報交換の食事会をしているのですが、そこでオリジナルのクッキーを手掛けようとの話になっています。まずはそういったところから、女将として発信していける部分が少しずつできてくるのかなと思っております。
迫間 当館でもお抹茶を出す、色浴衣を出すといったことは昔からやっておりました。人手の問題もあって鳥羽でやっているのはうちくらいになってしまいましたが、私たちはやはりそれを楽しみにして来てくださっているお客さまのためにも続けていこうと頑張っております。
小口 日本の伝統文化でもある日本の宿を守ろうとの思いは前々から強いので、建物の中にも、木と紙など自然の素材も大事にしながら建物を造っております。対外的には母が、日本旅館の文化を国際的に広く紹介し、海外からのお客さま拡大促進のためとして「日本旅館国際女将会」の設立を機に、旅館業界の国際化を目指してきました。福島県は震災で外国の方にもたくさんお世話になったので、その恩返しで福島からも外国に出掛けて感謝を伝えようと。あちらの文化を知らなければ日本の文化も伝えられないですよね。
外国からのお客さまも日本人のお客さまも同じと思っておりますので、全てのお客さまに抹茶のお呈茶をしております。外国人のお客さまは目の前で撮影されて、皆さんSNSでお料理などもタイムリーにすぐに発信なさるので日本文化の発信にはありがたく、全館Wi―Fi対応にしています。
迫間 実は女将という職業をもう少し広く知ってほしいと、今年から「OKAMI」をPRするポスターを作って活動しています。私たちの仕事を外国の方にもちょっとでも知ってもらって、OKAMIが世界共通語になれば、私たちに会いに来てくれる外国人のお客さまも増えるのかなと熱意を燃やしています。
小幡 女将が憧れの職業になってほしいですよね。「これからはCAじゃなくて女将さんよね」と言われるぐらいに。
迫間 大変なイメージばかり付いていますけれど、女しかできないし、自分が仕切れればこんなに面白い仕事はないと思いますね。
小幡 旅館に嫁いでからこのおよそ20年は、「女将とはこういうものだ」という固定概念、職業観があり非常につらいことも多かったです。でもいろいろな女将がいても良いと今は思っています。働きながらにして自分たちの遊びも感じられるような、ライフスタイルを選べるような職業になってほしいですね。