観光庁がまとめている「旅行・観光消費動向調査」を見ると、2016年の日本人の宿泊旅行消費額は4~6月期が前年同期比9・0%増の4兆503億円、7~9月期が同2・7%増の4兆8808億円で、4月から9月までは伸びている(いずれも速報値)。宿泊旅行の人数も4~6月期が同7・6%増の8028万人、7~9月期が同1・6%増の9610万人と前年を上回っており、宿泊旅行は消費額、人数ともに好調な状況だ。
しかし、宿泊客を受け入れる旅館の側に回ってみると、経営の内情は決して良好とは言えないようだ。
観光経済新聞社は、日本旅館協会などに属する旅館に対して毎年、経営アンケート調査を実施している。本号の紙面で発表している最新の調査結果では、16年の業績が「伸びる」、または「やや伸びる」と回答した旅館は全体回答の39・0%だった。前回の調査で聞いた15年業績のこの回答の割合は64・6%であり、その差である25・6%の旅館が16年に「横ばい」あるいは「落ち込む」「赤字」に回ったことになる。
2017年は、観光需要を促進するような大きなイベントや話題が乏しいと言われている。旅館独自に、あるいは、温泉地などの地域、さらには広域で、新たな旅行需要を開拓し取り込んでいかなければ、旅館の業績はこれからジリ貧になりかねない。誘客については地域の魅力でもって旅行客を呼び込む施策が重視されており、特に地域単位での取り組みが重要だ。
「OTAは顕在需要を取るだけだが、われわれは需要を作り出す力を持っている」。大手旅行業4社の社長が集まった座談会。JTBの髙橋広行社長は、OTA(ネットエージェント)が旅行市場を席巻しているなか、既存の旅行会社(リアルエージェント)とOTAの違いについて語り、旅行需要創造機能をアピールした。
旅行へと誘う材料の少ない17年。旅行需要の創造という共通の目的のために、今こそ旅館業と旅行業が力を合わせる時だ。
【板津昌義】