3月22日に観光庁主宰のバリアフリー観光セミナーが開催され、各地の観光行政や旅行会社など、業界関係者が多数参加されました。私も「ハートフルな旅行」と題して話をしましたが、聴いてくださる方がみな真剣で会場の熱を感じました。
観光地や旅館さんへバリアフリー観光の促進を話す際に、かえって「バリアフリー」という言葉が最大のバリアになることがあります。施設が完全なフラットでなければという印象を与え、そもそも階段や段差が形状美を醸し出す旅館さんにとって耳が痛い言葉なのだと思います。ちょっとした気遣いやモノで対応可能となることは本連載でもつづりましたが、それらができる旅館さんを私は「ハートフル旅館」と呼んでいます。
「ハートフル旅館」になるためには、まず段差やドアの幅などの、旅館内でのバリアを正確に把握しましょう。お客さんが求めているのは、施設の完全なバリアフリーではないし、手すりの設置以上に、お客さまからの問い合わせがあった時に、玄関の段差や客室やトイレの入り口の幅などをきちんと伝えられるかが大切です。大浴場の形状の把握もお願いしたい事柄です。それらをウェブ上で公開しているのは小野川温泉登府屋旅館さん。伊東温泉青山やまとさんはバリアフリールームを動画で公開しています。
こうして旅館の形状情報を公開することで、お客さんの方で行って温泉に入れるのかを判断することができます。またこうした情報公開は、宿側の「歓迎」の気持ちも表すことになります。
モノですが、大浴場にシャワーキャリーがあれば、浴場内の転倒防止になります。湯船の縁に腰掛けるスペースがないお風呂なら、簡易移乗台の用意があれば入りやすくなります。また、車椅子の車輪カバーがあれば、お客さんの使い慣れた車椅子を畳の間でも使用することができます。
そして何か困っていそうな時に、すかさず「お困りですか」という声がけがあれば、お客さんにとってこんなにうれしいことはありません。最も大切なのは「何ができて、何ができないか」を予約の際にきちんと伝えることです。
先日取材した、男鹿温泉結いの宿別邸つばきさんのご主人がおっしゃった「仰々しいバリアフリーはお客さんにストレスを与える」という言葉が心に残りました。別邸つばきさんでは、ほとんど手すりはなく、柱や框(かまち)がつかまれるようになっています。浴場も手すりではなく、つかまりやすい岩が配されていました。機能的でありしゃれたデザインが印象的でした。またコンシェルジュ制度を取り入れ、必要なお客さんとは密に連絡を取られていました。
楽しいはずの旅に出ているのだから、「ありがとう」はいいけれど、お客さんに「すみません」と言わせない環境が理想なのだな、と、私は学びました。
(温泉エッセイスト)