(8)独自価値づくりの着眼点(続き)
(ⅱ)機会
「機会」とは、自社の周りに訪れる経営環境の変化と思ってよい。旅館さんで「機会」を挙げてもらうと、道路の開通とか、近くに新たなレジャー施設ができる、といったことがよく出てくる。これらも確かに機会に違いないが、独自価値作りという意味では材料となりにくい。では材料となりそうな「機会」にはどんなものがあるか?…大きく2種類ある。
(イ)動向、変化、趨勢(すうせい)
一つは、マーケットの状況や、そこで起きていること―動向、変化、趨勢といったものだ。
島根県松江市・しんじ湖温泉の「なにわ一水」さんは、何期かにわたる商品整備の中で、グレードアップと併せて「バリアフリー化」を進めてきた。
ベッドへの乗り移り、洗面、バスルーム、食事など、さまざまな面で車椅子の人にも使い勝手の良い部屋を造り、車椅子で利用しやすい食事会場、ユニバーサルトイレといったものも整備した。また筆談ボードや専用PHS、音声情報機器の配置、障がい者に対応した避難マニュアルの作成など、細かい面でも多岐にわたる取り組みを行っている。さらに勢いが高じて、車椅子リフト付きの送迎マイクロバスまで購入した。名刺やパンフレットには点字が入っている。
こうした一連の取り組みが認められ、「バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰」で、「内閣府特命担当大臣表彰優良賞」を受賞している。この事実は同館のブランド価値にもなっている。そして大事なことだが、肝心の業績も順調に伸ばしている。「バリアフリー」という社会ニーズを「機会」と捉え、それをもって独自価値を築いた例である。
「健康志向」が叫ばれてどれくらいたつだろうか。あまりに耳慣れてしまって、すでに新鮮さは失われている。しかしこのキーワードは、古く使いものにならないどころか、これからもますます存在意義を高めていくはずである。とすれば、例えば「健康」をキーとした展開で、これまであるものとは違う独自価値を築けないものだろうか。
同様に、癒やし志向、キャリア女性の活躍、ママさん応援、少子高齢化、セブンポケット、アレルギー、食事制限、一人旅(特に男の一人旅)の増加、ペットブーム、ちょい飲みスタイル、グランピングに象徴されるぜいたくなアウトドア志向、モノの所有から「借りる」へ、シェアリング、アニメ…こうした、一見ありふれた社会の動向やニーズを「機会」として捉え、そこで「当館の独自価値路線」を考えていくのも方法である。
また特に小規模の旅館では、書画、音楽、写真、俳句、囲碁・将棋、バイクなど、特定の趣味分野への特化で、その世界に関心ある人たちにとって「他に代えがたい強力な価値」を持つことも考えられる。ネットの時代は、以前とは比べものにならないほど、それらへのアピールとアプローチを可能ならしめているのだ。
独自価値は必ずしも日本一である必要はない。自社市場圏の中で一番が確保できれば上等なのである。平山旅館さんの「島茶漬け」などはそもそも「オンリーワン」であって、一番かどうかなど、比べること自体がナンセンスなのだ。
(株式会社リョケン代表取締役社長)