人に関する課題のうち、「配属人事」の延長上にある「抜擢(ばってき)人事」について考えてみたい。
抜擢の対象として考えるのは、言うまでもなく「若い人を」ということだ。能力のある人材はどんどんリーダー職なり部署長なりに登用するのが望ましい。あるいは、比較的小さな部門の長を務めていた人を、より大きな責任ある部門の長として横すべりさせることが考えられる。その人の統率力や部下を育てる能力が、より枢要な組織において発揮されることは、会社にとっても有益なはずだ。しかもそうすることで、その人物の能力育成スピードをアップさせることにもなる。
ただしこれは、大げさに言えば日本企業の伝統的な「年功序列主義」の枠組みを外すことを意味する。想定される障害は次のようなものだ。
(ⅰ)若いリーダーに部下がついてくるか?
若いリーダーなればこそ若い人がついてくるということもあるが、それだけではなかなか難しい場合も多い。言い換えれば、その人に組織を統率していけるだけの十分な力が備わっているかどうか、である。
(ⅱ)よりキャリアの長い人の反発
「われこそはここで一番経験が長い」と自負する人が、どこの部署にもたいてい存在する…。
こうした課題をクリアするためには、それなりの注意と配慮が必要である。
まず抜擢人事を行う前に、その人物の現場での働きぶりや、周りの人たちとの関係などをよく確かめておくことをお勧めする。というのも、上からは有能に見えるが、周囲からは疎んじられていたり、現場での仕事ぶりや人間関係において思わぬ問題を持っていたりする場合がしばしばあるからだ。これに気付かず、そういう人をうっかり長に就けると、後で修復にたいへん苦労することがある。
これらのことを一通り見極めた上で、「よし」ということになったら思い切って抜擢しよう。ただしその場合も、その人事についてトップの考えを社内にしっかり示し、当人のポジションを担保してやることが必要だ。彼(彼女)の指示、命令に従うことを、部下となる人に承知させてほしい。
さらに、リーダーシップ(組織統率)の在り方について当人にマンツーマンで教え、悩むことがあれば相談に乗るといったアシストも大切である。
ところで、前任者の勇退などでポストに空きができた場合なら、抜擢人事も比較的無理がないだろうが、そうでない場合、当人の登用そのものよりも、これまでそのポストにあった人をどう処遇するかが、むしろ問題となる。いくつかのやり方があるだろうが、一つの穏当な方法として、ラインとなる管理、監督職ポストとは別に、職務ベテランであることを表わすなんらかの職位(称号)を与えることが考えられる。
若い人材の抜擢には、周りの若い人たちが「自分もああなりたい、なろう」という将来目標イメージが描けるようになる、という重要な効果がある。また同時に、そのような人材として認められるにはどうあるべきか、というモデル(お手本)にもなる。だから若い人材の確保や定着が課題となっている今日、こういう意味も含めて大いに検討されてよいと思う。
(株式会社リョケン代表取締役社長)