インセンティブを日本語で言うと「誘因」。いろんな貢献を引き出すための誘い水となるものである。ハーズバーグの分類(連載〈94〉モチベーション【1】)に示されるように、給与、職務環境、福利厚生なども、広い意味ではこれに当たるが、ここでは狭義のインセンティブ=ご褒美として捉える。
代表的なものとして、表彰制度、報奨金、ご褒美旅行などがある。賞与は、今では月々の給与と同等に生活給の一部となっている会社も多いが、元来はこれもインセンティブである。会社によっては、利益が一定のラインを上回ったら、その成果を分配する仕組みを取っているところもある。
これらはいずれも、約束した給与とは別の「臨時報酬」に当たる。成果が上がったとき、あるいは貢献があったと認めたときに出せばよいので、経営サイドとしては便利なツールといえる。会社がそれによって恩恵を受けているのだから、相応の報いがあってよい。それがまた次の貢献につながるのなら安いものだ。
しかし、インセンティブにも功罪両面がある。「功」の面ではむろん、やる気を引き出す効果が期待できることがあるが、一方で拝金主義とまではいかないまでも、「見返りがなければ興味を示さない」といった風潮を生む可能性もある。
また経営者がインセンティブのつもりでやっていても、社員にそう受け止められないケースが二つ考えられる。
一つは、インセンティブが魅力に乏しいケース。「この程度では『その気』にならない」ということがある。貢献内容に相応の見返りを用意することを考えたい。もう一つは、何度か繰り返しているうちに慣れっこになり、「もらえて当たり前」の雰囲気になってしまうケース。こうなるとインセンティブとしての効果も薄れてしまう。
これには、例えばインセンティブを「2階建て(3階建て)方式」とするのも方法である。2階建て方式とは、例えば一定の成果なりレベルに達したところで、それなりの一次褒賞を与える。さらに二次褒賞として、より高い特別な褒賞を用意するというものだ。与え方には、「審査方式」…一次褒賞の中からの選考、「認定方式」…より高いレベルの到達、「累積方式」…一次褒賞の累積回数により定める、といったものが考えられる。
大事なことは、「もらえてうれしい」というムードをいかにつくり上げ、また保つかである。そのためには、制度に「重み=権威」を載せることが大切だ。次のようなことを意識したい。
褒賞の理由を、本人にも周りにもしっかり伝えること。できれば数値など、客観的な根拠が明確であればなおよい。
適度に用いること。やたらに乱発するのでなく、褒賞の対象をあえて適度に絞って「希少価値」を保つ。
授与に当たってはきちんとした場を設けること。少々大げさと思えるくらいの儀式を演出するのがよい。
獲得に意欲を燃やすような働き掛けを日頃から行うこと。「○○賞取れるように頑張れ!」といった激励も効果的である。
インセンティブは「鼻先ニンジン」のようなものだが、やり方によっては「栄誉」と一体化し、「動機付け」とすることもできる。
(株式会社リョケン代表取締役社長)