企業再生の仕事を始めた20年前、元同僚の金融マンやその後転じた旅館ホテル業界仲間とこんな話をしたことを思い出す。「このままだと旅館ホテルの数は限りなく今の半分に近づいてゆくんじゃないか」「そこまでは減らないだろうけど厳しいことは事実だよな」「全旅連の加盟数だって1万軒なんてことにならないか」「縁起でもないこというなよ。みんな頑張っているんだからさ」。
観光庁の統計によると2000年に約7万3千軒あった旅館ホテルの数は、2020年までの20年間に約5万軒へと減少した。旅館ホテルの3軒のうち1軒近くが消滅したことになる。当然、その後も減少傾向に歯止めがかかったとの実感はない。
昨今のウイルス騒動中には緊急対応ということで、債務超過の状況でも融資が行われたり、債務返済のリスケジュールが行われたりしたが、一時しのぎとの様相はぬぐえないまま観光業界の活性化には程遠い現状だ。しかし、本気で経営改善に取り組もうとする経営者にとっては正念場ではあるものの、正面から逃げずに取り組む者には道が開けることもまた事実だ。そこでこれまでの実体験に照らしてこんなときに経営者が絶対にやってはならないことを七つ挙げてみる。
(1)私利私欲をぬぐえず、自宅などの個人財産へのこだわりを捨てられない。経営権や株式などに対して過剰に執着する。
(2)経営判断に神仏占いなどをとりいれる。
(3)現状が非常事態との認識がない。この期に及んでも財務データの把握などを他人任せにしている。
(4)会社を自分の所有物だと思っている。
(5)自社の不調を環境のせいにしている。
(6)債務さえ減ればうまくいくと思っている。
(7)自分や身内に甘く、従業員に厳しい。
そんなことと思うかもしれないが、この20年こんな経営者をたくさん目にしてきたし、今もたくさん存在するのも事実だ。ということは、気が付いて実行する経営者にとっては苦境から脱出するチャンスでもある。
この七つに加え危機に陥った経営者がはい上がってゆくための心得として、私が駆け出しのころお世話になった再生支援会社の社長の言葉はとても的を射ているのでここに紹介したい。
「三つのことをかかなければいけないよ。一つ、汗をかくこと。二つ、恥をかくこと。三つ、義理と人情をかくこと。三つそろって初めて再生は可能なんだよ」。
再建がかなうその日まで早朝から深夜まで先頭に立って汗をかき続けること。金融機関や取引業者、場合によっては従業員にまで迷惑をかけるかもしれない。その恥を忍んでこそ、すべての面目を失ってこそはい上がる本当の力が湧いてくる。体裁にこだわらず後ろ指を指されることを恐れず、事業の継続と雇用の確保にまい進する。
倒産の危機にひんしながらも勇気をもって己を捨てて見事にはい上がってきた経営者を何十人も見てきた。必死にはい上がろうとまさに奮闘中の経営者が数多く存在するのも事実だ。勇気ある中小企業の経営者や個人事業者に明日の光がふりそそぐことを心から願う。
(EHS研究所会長)