30年来の友人が10年ぶりに上京するという。お互いに「遊び」が大好きだったことを思い出し、都内で開催されていた「芋フェス」会場で待ち合わせすることにした。「おっ、ヤッパ遊んでるなぁ」とどちらからともなく声を掛け合い、焼き芋を頬張った。
そこで思い出したのは「人間は遊ぶ存在である」と結論付け「遊びの本質」を徹底的に追求した「ヨハン・ホイジンガ」。1世紀前から活躍し、敗戦の年に亡くなったオランダの歴史家だ。その著書「ホモ・ルーデンス」の中に、遊びは単なる娯楽や暇つぶしではなく、文化や社会の発展に重要な役割を果たしているとある。
この考え方を旅館ホテル経営に生かすとすると。
(1)地元の伝統文化や祭り、芸術活動への参加プログラム。
(2)アート作品づくり体験、ワークショップなどの活性化と創造の提供。
(3)特別なテーマや歴史を感じさせる部屋を提供する。
(4)地元のアーティストやパフォーマーとのリアルな接触。その先にある顧客同士の交流。
(5)顧客とスタッフとの垣根を取り払う空間の提供。
(6)これらの非日常活動を表現した広告やプロモーションにつなげる。
(7)その先にある地域活性化や社会貢献活動に「遊び」を生かす。
「なんだ、頑張ってる地域や施設が当たり前にやっていることだ」と気が付いた。二番でも三番でも煎じてやればいいだけじゃないか。遊びなんだから。
「すごいおじさんがいたんだなぁ」と感嘆しつつ、もしホイジンガが今も生きていたらどんなことをしているかを想像してみた。きっと、バーチャルリアルやゲームが急速に進歩する中で、さらに新しい「遊び」の形態に注目し、そのことが社会や文化に与える影響を研究していたのではないか。著作だけではなくメディアでも発信していたのだろう。
(1)ゲームは「遊び」の不可欠な一部で、その社会的役割、とくに共同体形成や文化的表現、さらにはルールのある秩序の重要性の考察。
(2)拡張現実(VR/AR)が提供する非日常の遊びを探求したのではないか。物理的な制約から解放されたデジタル空間での遊びがどのように人間に影響を与えるかは重要なテーマになったに違いない。
(3)SNSにおけるハッシュタグやライブストリームなどを研究し、SNSが集団のアイデンティティや社会秩序を作ってゆくのかの研究。
(4)教育においても遊びの役割を追求し、ゲームやシミュレーションなどを使って学習することがどのような変化を生み出すのかを追求したのではないか。
(5)消費主義的な遊びと自己表現や精神的充実を目的とする遊びとの違いを問う議論。
(6)自然の中での遊びが環境保護意識を高める手段として重要であるとし、エコツーリズムやアウトドア活動などを通じて遊びと環境問題との相乗効果の考察。
「遊び」を考え追求することがこんなにも楽しく、そして実際に「遊ぶ」ことが生きてゆく上で欠くことができないということを再認識させられた。「ホイジンガ翁、ありがとうございます」。
(EHS研究所会長)
(観光経済新聞12月2日号掲載コラム)