話を元に戻して、お客さまの「心」の取り込みを図る方法について考える。
(4)ダメ押しをする
例えば次のようなケースは、どこの旅館でも日常的にあることと思う。
・当館の料理やもてなしに、お客さまがとても喜んだ。
・お客さまから少々込み入った相談や問い合わせを受けて、どうにか対応した。
・お客さまに心配事もしくは危うい場面があったが、なんとか無事収まった。
・こちらの不手際により、お客さまにご迷惑をかけた。
このような時、対応している当事者がその場で喜びを表したりお詫びを言ったりするのは当然だが、こうした「異例」があったら、お客さまが館内に滞在する間、いやみにならない程度に繰り返しそれを使おう。時と場所を変えてお詫び、喜び、感謝の意を伝える―「ダメ押し作戦」である。
「先ほどはたいへん失礼をいたしまして申し訳ございませんでした」
「お連れさまも無事お着きになられたようで何よりでした」
「昨晩はありがとうございました。おかげさまで…」
たいていの人は、何度も言われているうちにだんだんいい気分になり、宿に非常に親近感を持つようになる。さらにこれらを別の人からも言うとなお効果的だ。ただしそれを可能にするためには、「起こったこと」をスタッフ間で共有する必要があるが、今どきはスマホのグループチャットなどを使えば簡単に実現できる。
お客さまの心が宿に最も接近しているのは宿泊当日の夜、もしくは出発の朝であり、その次に近いのがお帰りになった直後であろう。そこでもう一つのダメ押しとして、帰宅直後に届けるメッセージが考えられる。お客さまの「事情!」に忖度(そんたく)すべきことは言うまでもないが、問題なければここでも「ヒューマン性とパーソナル性」(本連載〈157〉参照)を盛り込みたい。お客さま個々の「パーソナルネタ」は、次の項目をヒントに拾うとよいだろう。
●ご本人の身なり●お連れの方●当日・翌日の行動●お住まい・出身地、●喜ばれた料理●お褒め・お叱りの言葉●その他、接客中の会話…。
メッセージの届け方には、ハガキなどの現物による方法と、eメールやSNSなどネットによる方法がある。ネットによる方法は手軽であり費用も掛からないが、相手の側も手軽に返せるし、「返信しなくては」という気持ちも働くので、「送信↓返信↓また返信…」と繰り返すことになるのは覚悟しておく必要がある。
コロナ禍の見通しはなお不透明である。さすがにこれだけ長引くと、「じたばたしても始まらない」とあきらめが先に立つのも無理からぬことだと思うが、少しでも事態の好転を図るなら、コロナ禍の今こそ、こんなことを始めてみてはいかがだろうか。それも単なる一時しのぎでなく、今後の顧客取り込み戦略の一環となる「仕組み化への展開」に取り組まれたい。例えば次のようなことを考え、ルール化していくことだ。
●住所(アドレス)の取得方法●宛名を手書き/システム出力のいずれにするか●文面のパターンづくり●何日後までに発信するか●文面を誰が書くか●どんな時間に書くか。
うまく軌道に乗れば、これも財産となろう。
(リョケン代表取締役社長)