筆者の住む町にも、近ごろはやりの「サードプレイス」的カフェがある。カジュアルで落ち着いた雰囲気、適度なボリュームのBGM、Wi―Fi環境、パソコンをつなぐコンセントもあるなど快適なので、筆者は休日にはしばしばここで仕事などする。本を読む人、打ち合わせをする人、おしゃべりする人などさまざまで、参考書やノートを広げて熱心に勉強する学生も多い。
この店のトイレは広く、男性用にも壁に折り畳み式のオムツ交換台が備えられている。洗面台のところには足踏み開閉式のゴミ箱が置かれていて、「おむつはこちらへどうぞ」の表示。赤ちゃん連れの親にはありがたいだろう。
コロナ感染が始まってから、ご多分に漏れずハンドドライヤーの使用を中止してペーパータオルを置くようになった。使った紙はこの足踏み開閉式のゴミ箱に捨てる。確かに、フタ付きゴミ箱の方が感染防止対策上も望ましい。
ところがあるとき、このゴミ箱の足踏みレバーが壊れてフタが開かなくなっていた。しかたなく手で開けて捨てたが、ちょっと嫌な気分…。じきに直すか、新しいものに取り換えるだろうと思っていた。
しかしその後何カ月かの間、ゴミ箱の故障はそのままにされていた。そして使うたびに、この「ちょっと嫌な気分」を味わうことになった。毎日掃除などしている店員は、この故障に当然気付いているはずだろうが、なぜか改善されない。この間、相当数の客が筆者と同じ「ちょっと嫌な気分」を「何度も」味わっていることになる。せっかく居心地よく整えられた店、接客応待もマニュアルに沿ってまぁ悪くないが、もしかするとこのことが、いくばくかの「客離れ」にもつながっているのではないかと想像される。
たまりかねて、ある日の帰り際、店員にそのことを話した。「早めに直した方がいいですよ」と。するとその店員―「あ、はい。申し訳ありません。そうなんです。ご指摘ありがとうございます」というような返答であった。やはり気付いてはいたようだ…。
次に行ったとき、ゴミ箱はしかし故障したまま。ただ今度はフタを開けた状態で置かれていた。「うーん、そう来たか」と複雑な思いで苦笑いした。それからさらに半月ほどたって、ゴミ箱はやはり同じ状態にある。
こうした問題を報告することがルールになっていないのか、店員に報告する気がないのか、はたまた報告しても本部(フランチャイズオーナー?)が取り合ってくれないのか…わからないが、いずれにしてもいろんな要素が絡み合って、この「小さな問題=客の小さな不満」は放置されている。
前々回、前回でお伝えしてきたことは…コンスタントに一定以上の品質レベルを保つためには、不備・不具合は早めに直すべきこと、「品質劣化の放置」は、感性(美意識)の欠落、見慣れ、規範の不在―の三つの要因で起こること、そしてこれらを改善するためにやっていくべきことの提案―であった。
まさにこうしたことを串刺し的に見るような、象徴的な事例ではある。全国に何百店とある、ノウハウも確立されているであろう有名チェーンでも、こういうことはあるのだ。もって他山の石としていただきたい。
(リョケン代表取締役社長)