品質を常に一定以上のレベルに保つため、不備・不具合は早めに直すべきこと、「品質劣化の放置」は、感性(美意識)の欠落、見慣れ、規範の不在―の三つの要因で起こること、これら要因を改善するための方策、そして反面教師とすべき事例など、お伝えしてきた。
ところで、ここ数回にわたり取り上げてきたのは、主にハード面(施設・備品)の劣化をイメージした話であったが、ソフト面でも同様のことが言える。
(4)料理の品質
基本的な味の問題は調理人の方々にお任せするとして、提供される状態―温度、盛り付け、乾きといったことについて考えたい。「冷めていた」「硬かった」…などは、アンケートやクチコミで定番の苦言だ。
料理は「作りたて」が望ましいのは言うまでもないが、なかなか理想通りにはいかない。食事は一定の時間帯に集中するので、これに合わせて事前に用意しておく段取りが求められる。しかるべき状態で保存され、提供するために、冷・温蔵庫、固形燃料、ラップ掛け、濡れ紙、再加熱仕上げといった手段が用いられている。これらは品質と効率を両立させるための工夫と言える。
「作り置き」や「盛り付け置き」をどこまで是とするかは、旅館の事情によって異なるのでここでは論じない。ただ、「こういうやり方をしているから大丈夫だ」と安心し過ぎるのは、しばしば問題がある。
あるホテルのレストランで、昼にカレーライスをいただいた。ランチメニューにも載っているものだ。皿にはライスと福神漬けが盛られていて、カレールーは別のソースポットで提供された。ところがこのルー、残念なことに上面が少し乾いて、皮のように固まってしまっていた。あらかじめポットに盛り付けた状態で保存されていたか、あるいは盛り付けたところで他の作業に追われたか…。
出す前にルーをひとかき回ししてみれば分かることなのだが、出し手が最終的な状態を気にかけていなかった。また調理する人も、実際にこういうことが起こるとは思っていなかったと想像される。
似たようなことは、次のような問題として起こる。そばが乾いて固まり、箸でつまみ取れない、空調機の風の回り具合で固形燃料の火が通らない、ヒートランプで温めているが、外側に置かれたものは温まっていない、ある料理のための付け汁が、それだけ先に出していたために別の料理のものと勘違いして使われる、煮物碗のふたを取ってみたら、どう見ても反対向き…。
「…しているからいい」という思い込みが、料理人にも出し手にも、そして経営者にも「意識の緩み」をもたらしている場合があるので注意したい。仕組みや方法によって解決することはもちろん大事だが、それはそれとして、「もっと高い品質を」という意識=「ホスピタリティ的気合」を料理にこめること、そして最終的に提供され、お客さまに食される際の状態を見届けることが大切だと思う。
「なんだ、そんなことか」と思わないでいただきたい。そういうことをしていれば、おそらく料理への異物混入確率も下がるだろう。のみならず、上から下までそういう意識を大事にしていけば、それだけで料理の満足度はかなり高めることができると思われるのだ。
(リョケン代表取締役社長)