【旅館経営 タテ・ヨコ・ナナメ 191】抜け出す経営への原理原則6 高付加価値化12 佐野洋一


 (6)特別感づくり

 高付加価値化とは、ある意味で「特別感を添えること」だと言える。普通でなく特別であること―こう言うと、すぐに「特別」とか「特選」といった言葉が冠に使われる。それが悪いわけではないが、問題はそれがお客さまに本当に特別なものとして受け止められるかどうかだ。

 旅館の食事で、「これは当館女将からの特別な一品でございます」と言って、献立にない料理が出されることがしばしばある。想定外のもてなしということで、一定の好印象に結びつく効果はあるだろう。しかし本当に特別なことをしてもらったと思うお客さまがどれほどいるだろうか。「誰にでもそうしているのだろう」とは容易に想像がつくことだ。過去に一度でも同じようなサービスを受けたことのある人なら、「ああ、この手ね」と片付けられてしまうであろう。

 「今だけ・ここだけ・あなただけ」という言葉(たぶん藻谷浩介氏による)がある。対象は少し違うかもしれないが、これが当てはまる。つまりこの場合も、なるべく「あなただから特別」という意味を付けるのだ。例えば―「地元の方なので」「おなじみさまなので」。

 逆に、「わざわざ遠くからお越しなので」「初めてのご宿泊なので、ごあいさつ代わりに」というのも考えられる。当然ながら提供物は、その趣旨に沿って使い分ける。また「今だけ」については言うまでもあるまい。ある宿で「今日は珍しくミンククジラが揚がったので」と出された刺身は、とても印象に残った。

 売店で、商品をただ同じように並べて置くだけでは、高い付加価値はまず望めない。お客さまの目には、どれも「観光土産物」というありきたりなものにしか映らない。そこで…例えばどれか一つでも思い入れのあるアイテムを取り上げて、それだけ価値を際立たせるような特別なディスプレイをしてみよう。あえて一部を特別扱いすることが、その商品の価値を高めるだけでなく、売店の陳列にメリハリを付けることにつながる。売店全体の「活き活き感」も、このメリハリの延長線上にあると言える。

 ちょっとグレードの高い旅館では、タオルは大浴場に備えられているが、ここでも高い付加価値を演出することができる。ふつうは平積みされているだけだが、旅館によってはこれを一枚ずつ円筒形に巻いて、薪(まき)のように美しく積み上げている。

 貸し切り風呂を時間枠で区切って有料販売する場合、次のお客さまが入る前に腰掛けや洗面器などの片付け、セットをするのがふつうだが、これも付加価値を意識するなら、単に所定のかたちに置くだけでなく、腰掛けの上に手ぬぐいのような布を掛けておくことが考えられる。トイレ掃除の後、トイレットペーパーの端を三角に折っておくのと同じような意味だが、おそらくそれよりもはるかに「わざわざしつらえ」として特別感が伝わるだろう。

 バーやラウンジで提供するウィスキー。オンザロックなら、グラスに大きな丸い氷を入れてみよう。その気になれば、これに類するアイデアやこだわりは他にもあるはずだ。「近ごろは飲み物が売れなくて…」などとぼやく前に、もう一度値段相応の特別感づくりを考えてみたい。

(リョケン代表取締役社長)  

 

 
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