【旅館経営 タテ・ヨコ・ナナメ 193】抜け出す経営への原理原則6 高付加価値化14 佐野洋一


 (8)手軽にできる高付加価値化

 高付加価値化には、必ずしも多額の投資をせずともできることがある。そのヒントをいくつか挙げたい。

 (ⅰ)BGM

 BGMがあるかないか、またどんなジャンルのBGMであるかによって、その場のムードとお客さまの気分はガラリと変わる。特に食事会場での効果は大きい。また玄関・ロビー周り、浴場脱衣室など、ある程度お客さまが滞留するような場所は一通り検討してみよう。「ここには音響設備がなくて…」といった声もよくあるが、なければミニコンポを買ってきて、調度品の陰にでも隠して置けばよい。

 (ⅱ)照明・明るさ・ライトアップ

 満遍なくどこも明るくしておくのは、あまり上手なやり方ではない。宿のコンセプトや場所にもよるが、今はどちらかと言うと、薄暗さがグレード感の表現につながる。あえて全部の照明をつけず、照度を適当に落とした上で、ポイントとなるオブジェをライトアップすることだ。庭のあるところなら、その木々をライトアップするだけで、価値は2倍、3倍にもなり得る。

 一つの空間の中で、照明の「球」の色が不ぞろいになっているのをしばしば見かけるが、これはこちらで思っている以上にイメージダウンとなっている。「切れたら替える」ではなく、今すぐそろえよう。

 (ⅲ)館内サイン

 サイン(部屋名・誘導などの表示物)は施設の印象を支配する重要アイテムである。センス良いデザインで統一されていると、それだけで整った上品さを生む。よくあるのは、建物の改修が行われた場所ごとに、サインのテイストが時代を映してマチマチになっているケースだ。それなりにお金のかかる話だが、一度全体を見渡してリフレッシュしてはいかがだろうか。またその際、材質にこだわることをおすすめしたい。

 (ⅳ)テーブルクロス・のれん

 「食事会場にどうも今一つグレード感が足りない」という場合、テーブルクロスをかけるのは効果的な手である。当然、コストや手間が余計にかかるし、そもそも日本食ではそういう文化はないが、欧米などでは街角の大衆的なカフェでもテーブルクロスがかけられており、それが一定の品格を醸している。クロスの色によって、食事会場に独特のムード感をつくり出すことも可能だ。

 「のれん」は目隠しやボロ隠しのためだけにあるのではない。「結界の具」として簡便かつ効果的である。例えば廊下の途中などに、「ここから先は別のゾーン」という見せ方をすることができる。つまりのれん1枚で、空間の価値を高めることもできるということだ。

 (ⅴ)香り

 足を踏み入れた瞬間、「あ、いい香り!」と感じる施設がある。良い香りは、良い宿に来たという第一印象となりやすい。好き嫌いもあるので注意が必要だが、用い方次第だ。例えば、ほのかに香る「お香」やアロマを、どこか特定の場所で使うなら上品であろう。

 大事なのは、お客さまに心地良い場や時間を提供しようとする繊細な心を持つこと、そして少しでも高い価値を生むための工夫をすることである。決して「お金がないから」と、今の状態をあきらめないことだ。

(リョケン代表取締役社長) 

 
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