収益性確保の出発点となる「高料金化政策」―その実現を図るため、四つの戦略方向を提案してきた。「品質重視経営」「個客重視戦略」「ターゲット転換戦略」、そして前回、「コンセプト転換戦略」である。またこの戦略にまつわる作戦として、前回は「イメージチェンジ作戦」を提案したが、今回は、その残る二つの作戦をお伝えしていきたい。
(ⅳ)コンセプト転換戦略(何を)…続き
●理想をかなえる作戦
「お客さまの・・・をかなえる、実現する」という切り口から、お客さまが憧れるような商品づくりをして高料金化を図る。近ごろは「オールインクルーシブ」というスタイルがはやりだが、これなどもその一つといえよう。その他に、例えば次のようなものはどうだろうか―「シニア夫婦が若かりし頃の気分にたっぷり浸れる」「友人との親交をとことん深める語らいの場となる」「女王様気分になれる」「旅館に泊まりながらアウトドアの野趣も楽しめる」「朝寝坊してゆっくりブランチがとれる」…。
自館の外にあるコンテンツの取り込みや、外部との連携も視野に入れて考えてもよいだろう。また中小規模の旅館なら、宿そのものをこのような特定のニーズに特化したものとする戦略も考えられる。
●テーマ作戦
単なる「客室」とか「料理」「サービス」ではなく、そこに何らかのテーマ性を盛り込むことによって、価値を全く別の次元に押し上げてしまう作戦。宿全体ないし一定の部分を「そういうテーマを帯びた商品」と位置付け、デザイン表現などコンセプトの統一を図る。
テーマとしては、例えば…陶器や染物などの工芸品、デザイン的に洗練された家具・調度品、特定の時代の特定の国の文化、アニメやキャラクター、鉄道、バイク、クルマといったものが考えられる。なるべく独自性あるもの―他の旅館では得られない、まねのできないものが望ましい。
なおここでは、ネーミングやキャッチフレーズも重要な意味を持つ。またサインや案内物、そこに用意する小物などにもこだわりたい。そしてそういうものにも(そういうものにこそ)お金をかけよう。
これらを、あくまでも「高料金化」を目指すための戦略、ないし作戦として考えることが大事だ。「それは面白い」というアイデアが浮かんだとしても、果たしてそれが高料金化戦略に結び付く方策となるかどうかは吟味していただきたい。気を付けないと、単なる自己満足となってしまう可能性もある。
またそれとは別の意味でより重要なのは、それが自館の「らしさ」とミスマッチなものにならないか、という吟味である。へたに面白半分だけでやると、これまで大事にしてきた価値が損なわれることにもなりかねない。
以上、「高料金化を目指す戦略方向」として、3回にわたり四つの戦略を掲げたが、これらを組み合わせていく方向も、むろんある。むしろ組み合わせた方が、成功する可能性は高くなるかもしれない。
消耗戦となる価格競争から脱し、「あるべき旅館経営」を目指すために、「高料金化」を戦略に掲げ、それを可能にする方策をぜひお考えいただきたい。
(リョケン代表取締役社長)