【日旅連総会特集】日本旅行協定旅館ホテル連盟 白石武博会長に聞く


日本旅行協定旅館ホテル連盟 白石武博会長

 日本旅行協定旅館ホテル連盟(日旅連)の通常総会が3月6日、東京のホテルメトロポリタンで開かれる。開催を前に、白石武博会長(沖縄県・カヌチャベイリゾート社長)に2024年度の事業方針と会社との連携策、コロナ禍後の宿泊業と国内観光の本格的な復活に向けた思いを聞いた。白石会長は「会社と連携を深め、今年を宿泊増売が実感できる年に」と強調した。

日本旅行協定旅館ホテル連盟 白石武博会長

 

23年の業界と連盟事業

 ――(聞き手=本社・森田淳)昨年の国内旅行全般の振り返りを。

 新型コロナの5類移行から人流が一気に回復した。感染が増えると人流を止め、減ると規制を解除する、ということが約3年半にわたり繰り返されたわけだが、それがようやく終わった。

 しかし、3年半という時間はあまりにも長かった。お客さまの数は戻りつつあるものの、逆にわれわれホテル側の働き手が戻っておらず、受け入れ態勢が追い付いていない。ホテルだけではなく、交通なども含めて、お客さまを受け入れるインフラが整っていない状態で、マーケットだけが回復しているというのが今の状況ではないか。

 例えて言うならば、プロ野球選手がキャンプで体を動かさないうちに、いきなり公式戦に入ってしまったような状況。当社のホテルは毎日千人ほどのお客さまを受け入れていたが、今、500人のお客さまが来ると全員出勤でパニックになるほどだ。「以前はどうしていたのだろう」と、若手からベテランの社員まで、思うように体が動かない。以前のイメージで来られたお客さまがギャップを感じているのではと心配している。

 ――この3年半に国が行ったことを、しっかり検証すべきだとさまざまな場面で主張をされている。

 この3年半で50年分の利益が吹き飛んだと、ある宿泊団体が試算している。同業の皆さんは50年分かはともかく、大きな傷を負ったのは間違いない。

 私はこの宿泊業を、地域にとって必要不可欠な産業だと思っている。宿の経営にプライドを持って取り組んできた。しかし、私たちに責任があったわけではなく、外部的な要因で、今まで培ってきたアセットが全てなくなった。さらにコロナ禍でマイナスイメージを持たれていた観光業界のままでは「プライドを持ってしっかりやっていこう」と、次の世代を担う人たちに、言えないと思っている。

 なので、次に同じようなことが起きた時に備えて、今回のような対応が正しかったのか、必要だったのかと、しっかりと検証をする必要があると申し上げている。

 この3年半の対応を見ると、「とりあえず遊び。旅行は置いておこう」という意識がどこかにあったのではないかと感じる。産業としてしっかりと認められていない。日本が地方創生を進める中で、観光がこれだけ脚光を浴びているにもかかわらずだ。ある程度は分かっているはずなのだが、いざとなった時には、われわれのような業界は後回しになる。観光は決して遊びではない。わが国にとって重要な産業なのだとしっかりと理解をしてもらわねばならない。

 ――観光県の沖縄にいて、なおさらそう実感すると。

 沖縄の域内でGDPに占める観光の割合は20%にも達する。この20%を止めたら大変なことになると沖縄の政治や行政に関わる人には申し上げている。

 ――沖縄についてはハワイとの比較をよくされる。

 私も2年間住んでいたが、一つの目指すべきところだ。沖縄をハワイに負けないリゾートエリアにすることが私の生涯にわたる仕事だと思っている。

 追い付くためには負けているところを修正することだ。温度や空気、街並みを変えることは個人ではできない。だから、できることをやっている。ネクタイを外し、かりゆしウェアを着ることを30年以上続けている。リゾート感を演出し、「沖縄ってやっぱり違うよね」と、お客さまに言っていただけるように、意識を持って取り組んでいる。ちなみに6月1日を「かりゆしウェアの日」と定め、閣議で閣僚にウェアを着てもらえるところまで持っていったのが今の東京都知事の小池百合子さんと私らだ。「かりゆしウェアを世界に広める会」という組織も2007年に創設している。

 ――沖縄県への観光入域客数が年間1千万人となり、ハワイを超えたと一時話題になった。

 売り上げベースでいくと、まだ4倍ぐらい差がある。ホテルの宿泊単価が違うのだ。客数も重要な指標で関係ないとは言わないが、人数だけにこだわるのは違和感がある。ベンツを1千万台売ることとミニカーを1千万台売ることが同じと言っているようなものだ。

 量とともに質が大事だ。売り上げを上げるために単価を上げなければいけない。お客さまに満足のいく商品を提供し、しっかりとフィーを頂くという流れを作らなければならない。

 ハワイへの旅行は1週間や10日間が当たり前だが、沖縄は連泊しても3、4泊。そこでも3倍ぐらいの差が開いてしまっている。

 ターゲットをどこに置くか。沖縄は8割が国内客で、2割がインバウンド。その2割の中でもほぼ90%が近距離のアジアからで、国内旅行の延長線上になっている。一方、ハワイは約半分がアメリカ西海岸からで、その他が日本を含めたほかの国々からだ。ロングになるから当然、消費単価も高くなってくる。

 遠方からお客さまを呼ぶことについては、昨年、スペインで行われた日本旅行が関わる国際交流イベント「ジャパンウィーク」に合わせて、本部として初めて参加、視察する試みを行った。私が日旅連の会長に就任した後、小谷野社長と話し合って実現したものだが、スペインの旅行会社との商談会も行った。現地から22名、日旅連から20人ほどが集まって商談をしたが、日本のことをどう思っているのかや、どんなニーズがあるのかなど、フェイス・トゥ・フェイスの商談で知ることができて、大変有意義だった。沖縄についてはゴルフやダイビングに興味を持っていただいた。

 私は日本ゴルフツーリズム推進協会の会長も務めており、ゴルフ場というアセットを利用したインバウンドの促進を考えていたところ。日本旅行を交えて、効率的に受け入れできるいい仕組みができればと考えている。

 今年のジャパンウィークはフランスでの開催が予定されている。今年も昨年同様の機会が持てればいい。

 

24年の国内旅行を展望

 ――このほか昨年の日旅連事業について。

 コロナ禍の3年半、私たちはまともにお客さまに向き合うことができなかった。そのため旅を作り、売るという従来の機能が劣化したのではないかと危惧をしている。私は日旅連の会長に就任して以降、「本来の事業、旅を思い出しましょう」というメッセージを日本旅行の皆さんにも送り続けているところだ。

 昨年、沖縄県が「感謝の集い」というイベントを3年ぶりに行い、われわれはこれに合わせて日本旅行の東京と大阪の広域営業部を訪ねたのだが、開催した懇親会では久々に顔を合わせた社員の皆さんとの距離が再び大きく縮まったと感じた。

 このような原体験があり、「とにかくリアルで顔を合わせよう」ということを昨年の事業では意識した。連盟会員と日本旅行の営業担当者との商談会「ワークショップ」を東京、大阪で行ったほか、台湾での現地の旅行会社との商談会、先ほどお話ししたジャパンウィークに合わせたスペインでの商談会など、リアルに人と会うことにこだわった。

 販売は店頭からウェブへと移行しているかもしれないが、車の両輪として両者が意識を合わせるためには最低限必要なことだろうと、リアルの事業に取り組んだところだ。

 ――今年について。元日早々の震災で会員施設も直接、間接の被害を受けている。

 被害の状況や今後の営業について、お聞きするのもはばかられるところで、悩ましい。ただ、会社とともに、仲間の窮地に対して最大限のことをしなければと思っている。

 被災者の受け入れについても、沖縄県は短期受け入れのスキームを作り、われわれ宿泊業界は協力をしている。宿仲間の復興へのお手伝いと、被災された地域の皆さまの復興のお手伝いという二つについて、できることを最大限行う。

 事業を長期にわたって止めざるを得ないと雇用の問題が出てくる。コロナの時のような雇用調整助成金の特例措置も出ているが、復興まで長引くならば避難先で仕事をしてもらうことも考えられる。私たちが仕事をする場所として、避難をする人たちを受け入れることも考えられるだろう。東日本大震災の時は約1500人を受け入れた。沖縄の漆器は輪島の漆器と深い関係にあり、沖縄の人たちはほぼ必ず輪島に研修に行っていたほどだ。このような関係からも、われわれとしては何かをしなければいけないと考えているところだ。

 ――直接被害を受けていない周辺地域も風評被害を受けている。

 相当のキャンセルが出ていると聞く。私たちができることとして、まずは自分たちの体を持って行くこと。遅滞なく全力で行いたいし、日本旅行も同様と聞いている。

 ――被害は決して他人事ではない。

 沖縄は米国の同時多発テロがあった時、風評被害を受けた過去がある。

 実際にリスクがないにもかかわらず、風評でわれわれの業に影響を与えることについては、毅然として立ち向かう必要がある。

 

24年とその先の日旅連

 ――このほか連盟で力を入れる取り組みは。

 来年の大阪・関西万博を視野に、引き続きインバウンドの誘致、受け入れ対策を会社とともにしっかり行うこと。

 旅連と会社が共に進めるSDGsの取り組みも引き続き行う。環境配慮型など、さまざまなプランを企画しているが、作るだけにとどまらず、販売で実績を上げなければならない。環境問題について意識の高い人たちが旅行マーケットにも増えている。これらのプランは修学旅行に合うし、海外に向けても販売できる。ニーズを先取りしてプランを作り、しっかりと成果を収めることだ。

 昨年の「日旅連塾」で、営業推進委員会のメンバーがこれらのプラン開発について事例を発表した。日旅連塾は昨年、初めて参加をしたが、単なる発表の場ではなく、参加者同士が情報交換をしたり、同業者同士のネットワークを作る場となっており、良い取り組みだと思った。

 SDGsに関わる取り組みとして、日旅連の沖縄支部連合会は沖縄バリアフリーツアーセンターとの連携事業を考えている。日本旅行が各地で「いいことプロジェクト」を進めており、一昨年は同センターの那覇空港の案内所に車椅子を寄贈した。これをきっかけに日本旅行とセンターとわれわれの3者で高齢者や3世代家族向けのツアーが造成できないかと考えている。

 来年、団塊の世代が全て後期高齢者になるという日本の高齢化の象徴的な年になる。車椅子の利用者など、体の不自由な人たちが旅行に行く機会がますます増えると思うし、そのような人たちにも気軽に旅行を楽しんでいただけるようになることが、インバウンドの誘客を増やすことと同時にこれからの国内旅行の活性化に必要と考える。

 沖縄で取り組み、そして成功のあかつきには、その体験をほかの地域にも横展開していきたい。

 ――障害者差別解消法が改正され、宿泊など民間事業者も体が不自由な人への「合理的な配慮の提供」が法的義務となる。

 マーケットを広げるためにも、法律に押されて行うのではなく、ポジティブに向き合った方がいい。いわゆる障害者だけではなく、日本語を話せない外国人はコミュニケーション、ベビーカーを押しているヤングカップルは移動における障害を持っているとも言える。私たちができる限りのお手伝いをすれば、お客さまからの印象が良くなり、マーケットの拡大につながるはずだ。

 ――来年は日本旅行が創業120周年。

 大阪・関西万博の年でもある。次の新たな時代を築くスタートの年になる。今年は会社とともに、その準備を進めたい。

 ――3月6日に総会が開かれる。会社と会員に向けてメッセージを。

 昨年はコロナ禍からの復活、復興の始まりの年。事業を段階的に再開させているが、24年はこれらを一つ一つ実績にする年だ。会社と連携を深め、今年を宿泊増売が実感できる年にしたい。

 そして何より北陸・能登。私たち日旅連も最大限のことをするので、日本旅行の皆さまも同様にお願いしたい。

 

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