
日本旅行協定旅館ホテル連盟(日旅連)の通常総会が3月5日、滋賀県大津市の琵琶湖グランドホテルで開かれる。日本旅行が今年、創業120周年の節目を迎え、その創業者、南新助氏の出身地であり、会社の創業地である同県での、創業時に思いをはせる総会となる。メモリアルイヤーとなる今年、会社と旅連はどう連携して国内旅行と宿泊を増売するのか。小谷野悦光社長、白石武博会長(沖縄県・カヌチャベイリゾート社長)に語っていただいた。(東京の日本旅行本社で)
新たな市場開拓へ共にチャレンジ
旅連と共に次の時代へ新中計策定
――(司会=本社・森田淳)昨年の国内旅行と自社の振り返りを。
小谷野 まず、触れなければならないのが年初の能登半島地震。多くの方が現地でお泊まりになっていたが、的確な避難誘導がなされ、幸い当社の取り扱いにおいては人的な被害がほとんどなかった。旅館・ホテルの方々の日頃の訓練の賜物だと思う。一方で、われわれ社員の住居や実家もあり、家族が避難生活を一時余儀なくされたケースもあった。
さらに8月には南海トラフ地震に関する臨時情報の発出、9月には能登半島の被災地に追い打ちをかける集中豪雨。夏の暑さも尋常でなく、自然との向き合い方を変えなければならないと強く感じた1年だった。
また、われわれの業界を取り巻く環境は、こうした自然災害だけではない。世界的な経済の動きにも大きく影響を受ける。長く続く円安により海外旅行需要がコロナ前に戻るということはなく、パスポート保有者数も伸び悩んでいる。一方で、インバウンドは過去最高の入国者数・消費額を記録した。この需要を取り込むべく、観光地の入場料の二重価格の設定やオーバーツーリズムに関する議論が記憶に新しい。
会社としては、一昨年に起こしたコンプライアンスの問題について、相当な対策を講じた。コロナ禍を経て、次の段階へ飛躍を遂げるために、研修を含め社員の理解を深め、二度と同じ過ちを起こさないための具体的な取り組みを進めた年だったと捉えている。
同時に、「顧客と地域のソリューション企業グループ」の企業ビジョンのもと、地域課題の解決に注力してきた。2022年から自治体・地域との連携協定の締結を加速させており、昨年も福井県、長野県茅野市、三重県いなべ市、静岡県湖西市、石川県中能登町の5地域と連携協定を締結した。地域の皆さんとともに課題に向き合うことで、地域経済の活性化に貢献していく。
小谷野社長
白石 コロナが明けた2023年、お客さまが急回復したのだが、当社では受け入れ態勢を整えきれずにバタバタしたところがあった。24年はまず、それを組み立て直した。
そして年初の能登での地震。危機管理について、改めて考え直す1年となった。
南海トラフの臨時情報は、付近の地域だけではなく、西日本一帯に大きな影響を与えた。お客さまを相当失ってしまった。地震の予知は難しいのだが、起きてしまうとわれわれの商売にも大きな影響を及ぼす。日本旅行も夏の販売をかなり落としたという。風評被害と言われるが、そのような簡単な言葉で片付けられない。情報の発出の仕方について、しっかりと研究をしていただきたいと考える。
われわれ日旅連は、正副会長会議を北陸で開催するなど、まずみんなで訪問して、被災地の現状を知るところから始めた。
直接のダメージを受けたところと、そうでないところがあったが、ダメージを受けていないところも風評でお客さまが相当減っていた。どう仲間を支援できるのか。会社とともに何ができるのかを考えて取り組んだ。
言い方は難しいが、災害はこれで終わったわけではない。私の地元の沖縄は、9・11、SARS、MERSと、度重なり風評被害に見舞われている。
旅はもはや人々にとって必要不可欠といえるが、その時、その場所でなければいけない、というものでは必ずしもない。危機が顕在化すると、その場所から意識も足も遠のいてしまう。旅はリスクに弱いという特性がある。
危機はいつ起きるか分からない。危機管理体制を、個々の施設も旅連も会社も、真剣に考えなければならない。
夏の暑さが尋常でなく、夏休みだから家族で旅行に行く、という歳時記的な動きがとりにくくなった。従来の経験則的なやり方が通用しなくなった。新たな動きに合わせて、受け入れの仕方も再設定をしていかなければならない。
昨年は毎月300万人と、インバウンドが相当動いた。今、日本が割安という意識が世界のスタンダードで、当然、受け入れ側も値段を上げることになるが、その動きに日本人のお客さまがついてこられないという問題もある。
昨年のインバウンドが3678万人。小泉首相が1千万人を目指すと言ってから、だいぶ時間がたって達成したのだが、今は3千万人を超えて、絵空事といわれていた4千万人がもう目の前だ。
世界には80億人の人口がいる。この大きなマーケットを取り込むために国を挙げて取り組み、この数字になったが、片や一極集中の問題も発生している。4千万人から、当面の目標の6千万人にするということは、受け入れ側に今までの1・5倍の負荷がかかることになる。
沖縄は空港周辺でレンタカーによる渋滞が起き、住民の生活に支障をきたすという問題が起きている。
訪日客を全国の津々浦々に分散させることが喫緊の課題だ。
白石会長
小谷野 沖縄では、その地理的な位置関係や観光産業の占める割合の大きさから、全国で起こり得る課題が先行して表面化するように思う。白石さんに会長になっていただいたことで、われわれだけでは見られなかったこれらの問題が可視化され、今後の取り組みに生かせるということは非常に意義深い。
お客さまも多様化し、お客さまごとにさまざまな要望がある。割高だが付加価値を求める方から、閑散期などを選び、できる限りお値打ちな方法を探すお客さまもいる。混雑や人手不足など、旅館・ホテルの皆さま、施設の皆さまの状況を考慮して、お客さまの要望とうまくマッチさせる必要がある。そのコントロールの機能を磨き上げることがわれわれには必要だ。
白石 去年のREN―CUP(連盟と会社の親睦ゴルフ大会)は旅連とともに、観光施設と運輸の方々にも初めて参加をいただき、福岡県の糸島で開催した。
旅を作るにはわれわれ宿泊施設だけではなく、旅行会社、観光・土産施設、運輸と、さまざまな方々と連携をしなければならない。そんなメッセージを込めて、初めて拡大型で行った。皆が目線を一つに合わせて前へ進めたことが昨年は大きな成果だった。
小谷野 先に述べた自治体・地域との包括連携しかり、地域を活性化させるために、業種・業態を超えた連携は改めて重要だと考えている。令和6年能登半島地震の後、3月には北陸では新幹線の敦賀延伸があった。それに合わせてわれわれは風評被害対策として、効果が見込めると思われることを最大限やった。特に福井県と、われわれの親会社でもあるJR西日本とは多面的な連携で多岐にわたる事業を行った。全国の高校生を福井へ招待し、地元の高校生とともに開催した地域について考えるシンポジウムも盛況だった。地域の課題解決という意味でも、今後のモデルケースとなる取り組みとなった。
この事業モデルは、秋、「森の芸術祭 晴れの国・岡山」の開催に合わせて県北の津山市でも実施し好評を頂いた。
実現した連携は地域とだけではない。「グリーンジャーニー」という、環境に優しい旅の提案を日産自動車と、貨物を含めたJR7社などとの連携で取り組み始めた。まずは伊勢志摩と熊本の2地域で商品化をしたが、ほかの地域にも今後スポットを当てて取り組む予定だ。
昨年はインバウンド事業に関しても強化を進めた。ヨーロッパでの国際交流イベント「ジャパンウィーク」は、今までのアウトバウンド事業から、インバウンド誘致という側面も一昨年のスペイン開催から打ち出し、昨年のフランスでも一層双方向交流イベントであることを明確にした。
JR京都駅にあるTⅰS京都支店は、インバウンドのお客さまを意識した店舗にリニューアルし、京都に限らず、日本全国の観光を知っていただくための機能を追加した。もちろん、地域のプロモーションに限らず、われわれの販売に結び付ける取り組みも必要で、今後は各エリアの高付加価値なインバウンド向け商品を販売する予定だ。
白石 コロナ禍で苦しい状況の中、会社は旅行以外の別の形で生きていかざるを得なかった。そのため私が会長就任して2年目の昨年は、コロナ禍が明けて、「とにかくまず会おう」と、切れかかっていた会員と会社のコミュニケーションを復活させようということに最も力を入れた。
それに続いて実際の売り上げに結び付く行動を一つ一つ具体的に、営業推進委員会(営推)の皆さんを中心に積み重ねていった。
営推の皆さんは宿泊券の増売に燃えている人たちばかりだ。その行動範囲を広げることにわれわれは尽力した。
旅連と会社が共同宣言をしたSDGs達成への取り組みには、営推で特に力を入れた。
法人需要創造、個人需要創造の各委員会では、新たな商品をアウトプットした。世界の恵まれない子供たちに食事を提供する資金として、代金の一部を寄付する団体向け商品などを利用し、31の企業や学校から受注ができた。これはさらに横展開していきたい。
訪日需要創造委員会は、インバウンド向け商品「レッドバルーン」について、さらに付加価値を付けて販売を強化した。
インバウンドに関しては、私は海外3事業と呼んでいるのだが、先ほどのジャパンウィークと台湾での観光物産博・商談会、昨年から日旅連としても参加するようになったバンコクでのジャパンエキスポ、それぞれが貴重な経験となった。
これから国内マーケットが漸減していく中で、新たなマーケットが必要だ。その開拓へのチャレンジがこれら3事業だ。われわれの最大の課題である宿泊券の増売に向けて、プロモーション活動を今後もさらに進めていく。
国内での活動に関しては、日本旅行の社員との商談会「ワークショップ」を東日本、西日本の両地域で行っている。昨年は東日本で79施設、256人、西日本でも79施設、140人の会員に参加をいただいた。連盟側と会社側、双方から好評のため、それ以外の地域で行うことも含めて、さらに強化をしていきたい。
追い風にどう乗るか、試される1年
万博の開催効果を日本全体に波及
――今年の旅行市場について。
白石 まずは大阪・関西万博。4年前の東京オリンピックは無観客で、全国に外国人が訪れることが期待されたシャワー効果がほぼゼロとなった。去年、フランスに行った時に、パリオリンピックはもう終わっていたが、熱気がまだ残っていて、日本でそうならなかったことに悔しさを感じた。
万博はおよそ半年間行われる。その効果を最大限に生かすための取り組みを今後は進めたい。
小谷野 万博については、多面的に関わることが大事だと考えている。白石会長が言われる通り、全国から、あるいは海外から万博を見に来られた方々に、いかにもう一足二足、足を延ばしていただけるか。
万博に限らず、例えば東京を訪れたインバウンドの方々に沖縄や北陸まで足を延ばしていただく。地方分散の取り組みをわれわれはいい意味で商売につなげていきたい。
インバウンド事業に関しては、去年までの取り組みを続けながらより高付加価値商品の強化を課題としていく。旅連の皆さまと行ったSDGs宣言に基づいた商品や、地方との連携によるチャーター機を使ったイン/アウト双方向の商品の造成。地域目線でしっかりと取り組む。
今年のジャパンウィークは50回目の節目。開催地のマンチェスターは万博が開かれる大阪市と姉妹都市だ。情報の露出を含めて双方向の交流を一層進めていきたいし、過去の開催地も含めて、ほかの諸外国とのつながりもこれを契機に一層進化させたい。
愛知県が先陣を切り、多くの自治体が導入を検討している「ラーケーション」の取り組みも重要だと考えている。私が委員長を務めているJATA国内旅行推進委員会を中心に業界を挙げて各自治体への働き掛けを行っている。
――白石会長の地元、沖縄県に新しいテーマパーク「ジャングリア」もオープンする。
白石 地元のトピックなのであえて触れなかったが(笑い)、国内旅行のフォローウインドには当然なる。
小谷野 国内の方もそうだが、本州に来た外国の方が沖縄まで足を延ばすきっかけになるだろう。
白石 運営会社は、既に近隣のアジア諸国に相当アプローチをしていると聞いており、インバウンドもかなり期待できる。
――会社は今年の11月に創業120周年を迎える。
小谷野 周年ということもあり、創業の精神を、さまざまな場面で社員に伝えている。
昨年、会社の行動規範を見直したが、今年は次の時代に向けての新たな経営理念を社員参加のもとに作るつもりだ。
――新たな中期経営計画の策定は。
小谷野 2022年からの中期経営計画は今年が到達点。今年は新たな計画を策定する年となる。
ポイントはいくつかあるが、一つは世界各国とのネットワークを通した双方向のビジネスの拡充。そして日本にいらした方々を、広く地方へと誘致する取り組み。旅連の皆さまにも資する取り組みを進めることが新たな計画のポイントの一つと考える。いずれにしても、旅連の方々とわれわれの実となる販売にどう結び付けるかだ。
白石 昨年、ヨーロッパに行き、現地の人々がSDGsを生活の基本とすることを目の当たりにした。アメリカがトランプ政権になり、どうなるのだろうという話もあるが、われわれがこれらの人々を受け入れるのならば、当然、その志向に合わせていかねばならない。インバウンドは今年、4千万人プラスアルファが見込まれ、その流れは続くだろうから、真剣に考えなければならない。
片や、オーバーツーリズムがさらに深刻化すると思われる。この問題にも対応しなければならない。
日旅連は今年、営業推進委員会の体制を変える予定だ。従来の訪日需要創造委員会の機能を法人需要創造、個人需要創造の各委員会に包含させて、2委員会体制とする。訪日部門については、それに特化したコアメンバーによる委員会を設ける。
その上で、増え続けるインバウンドをいかにわれわれとしてマネタイズしていくか。その体制を実装し、成果を上げる1年としたい。営推の若い委員の皆さんはねじり鉢巻きで頑張ってくれると思う。
日本旅行と歩調を合わせて、われわれ組織の最大の目的である宿泊販売の拡大へ、徹底的に進めていく。
――ほかの日旅連事業は。
白石 日旅連塾は、地域誘客拡大に向けた新たな商品・プラン開発のヒントを営推メンバーで共有し、切磋琢磨していいものを作り上げてもらおうという目的がある。
会社の営業担当者との商談会「ワークショップ」も含めて、今後も活発な活動を進めたい。
海外における商談会も引き続き力を入れる。情報発信にとどまらず、いかに宿泊販売に結び付けるかに重点を置く。
今年は日本旅行の創業120周年。そして万博の開催と、追い風が確実に吹いている。その風にどう乗るか、試される1年となる。そして追い風が吹き終わった後も、そこで培ったレガシーをどう使っていくかだ。
今年の総会は日本旅行創業の地、滋賀県で開催する。原点に返り、創業時の精神をもう一度思い出そうというメッセージを込めた総会になる。
さらに今年は同じ関西で万博もある。万博は大阪だけのものではなく、日本全体のものだと私は思っている。日本全体に効果を及ぼすために、日本旅行とともに頑張ろうという共通の意思を持てるような総会にしたい。
――最後に会社から旅連、旅連から会社に一言ずつ。
小谷野 旅館・ホテルの方々とは当社の創業時から共に仕事をして、宿の固有名詞も当社の古い資料に載っていたりして、本当に長い間お世話になっている。120年の間、いろいろと浮き沈みがあったが、変わらずお付き合いをいただき、本当に感謝している。
これからもパートナーとしてお付き合いをいただくためには、われわれ自身がさらに価値を上げていかねばならない。特に若い営推の方々とは新たな時代への対応について議論を重ねながら、しっかりとご期待に添えるようにしていきたい。
旅連の方々は皆、地域を背負っていらっしゃる名士だ。それぞれの地域の活性化に向けて、旅行部門と、それ以外の部門の両面で、連携をして取り組んでいきたいと考えている。引き続きご指導をお願いします。
白石 「ここ数年苦労したけど、いい1年になったね」と、来年のこの特集号で語り合えるようにしたい。
会社には期待しているし、われわれ旅連も汗をかいて取り組む。とにかく売り上げを上げていきましょう(笑い)。
宿泊のさらなる増売へ、固い握手を交わす両氏