
ウェブ深度化、リアルの価値を向上
日本旅行の2025年度事業について、日旅連との関係も含め、主要分野の担当役員4氏に話を伺った。(聞き手=本社・森田淳)
――昨年1年間の回顧を。
岡本 国内の個人旅行における取り扱いは四半期ごとにかなり違う動きを見せた。1~3月、年初に起きた能登半島地震で北陸方面にかなりの取り消しがあったものの、3月の北陸新幹線敦賀延伸の話題性や、直接の被災地ではない温泉地への応援割の効果もあって、全体では前年並みまで回復。
4~6月はコロナ禍からのリベンジ需要の反動や、特にゴールデンウイークあたりから物価高騰に伴う旅行価格上昇の影響により、国内旅行受注はややペースを落とした。
7~9月はインバウンドの急増などに伴う観光地の混雑の報道や、台風、地震などの自然災害の発生、記録的な酷暑により、インバウンド以外のお客さまの旅行手控えが顕著となった。
10~12月は旅行素材の価格高騰も少し落ち着きを見せ、需要が徐々に回復した。年末年始は越年前後のピークではなく、その前後のショルダー期が人気となるなど、旅行代金に見合う価値を見極めるお客さまの動きが見られた。
昨年の振り返りとしては、JR各社や宿泊施設などサプライヤーの直販強化が進み、当社の強みであるJRセットプランも、他社とのより明確な差別化が課題となり始めた。方面別では、特にテーマパークの比重が高い京阪神と首都圏において、都市部に見られる宿泊代高騰のあおりを受け、旅行商品としては価格的に敬遠される動きが見られた。
一方で、ロング方面の北海道と沖縄はキャンペーンの効果もあり、復調傾向だった。
JRと宿泊のセットで新たに販売した「EX旅パック」「JR楽パック赤い風船」は新規顧客の開拓ができ、取扱額が順調に拡大した。
ウェブ販売のシェアが目論見通り全体の8割弱まで進行したことも特筆すべきことだと考えている。コロナ前の3割程度から大幅にシフトした。
――今年の旅行市場、特に国内を中心とした動きについて。
岡本 インバウンドの拡大が続き、宿泊施設の対応力を上回るケースの増加が予想される。受け地では泊食分離など、地域全体でのおもてなしを考える動きが広がるだろう。
ニューヨークタイムズが「行くべき場所」に選ぶような”B面的”な旅行先も注目されるだろう。
大阪・関西万博は、今は個人よりも団体旅行の問い合わせが中心だが、開幕日が近づくにつれ、個人旅行の関心も高まり、間違いなく旅行需要を促進する起爆剤になる。他地域への「プラスワントリップ」「もう1泊」につなげることで、国内旅行の広範囲での活性化が期待できる。
また、夏季の需要喚起策として、猛暑対策が重要となる。方面の分散、避暑的な要素を取り入れたプランが人気となるだろう。
働き方、休み方の多様化の進展により、従来の繁忙期、閑散期の概念が変化し、旅行時期の分散・平準化が進むと思われる。
――今年度の行動計画、販売目標は。
岡本 2025年度は「日本旅行創業120周年」という節目の年であるとともに、現行の中期経営計画の総仕上げ、次期中計の方向性と具体的な取り組みを検討する非常に重要な1年となる。
これまで進めてきた「ウェブを基軸とした構造改革」をさらに深度化するべく、各部に分散していた商品造成から販売までの諸機能を統合した「Web事業部」をこの1月1日付で立ち上げた。ウェブ販売に関する戦略の一元化や、意思決定の迅速化、インターネット上の広告を中心とした販売促進費の費用対効果の最大化を目指す。
ツーリズム事業のデジタル化を進める一方で、既にTⅰS京都支店で行っている、店舗におけるインバウンド対応機能や、各地の企画・仕入センターによる誘客事業と連動した店頭でのプロモーション強化など、リアル営業の価値向上についても引き続き取り組みを進める。
先ほど述べた「EX旅パック」や、「tabiwaトラベル」「グリーンジャーニー」などの取り組みを通じて、JR西日本をはじめとしたJRグループ各社との連携をさらに強化する。
また、能登半島地震からの復興支援の取り組みについても継続していく。
大阪・関西万博、山陽新幹線全線開業50周年、日本旅行創業120周年など、ビッグイベントや周年事業を最大限活用し、当社の国内企画商品「赤い風船」の販売目標としては、前年比でおよそ1割の上積みを目指す。
――日旅連の総会が開かれる。会員にメッセージを。
岡本 当社が創業120周年を迎えられたのも、これまでの皆さまのご支援のたまものであると、心から感謝を申し上げたい。
なんとかコロナ禍を乗り越えられたとはいえ、マーケットの変化が激しい中で、次々と顕在化する課題への対応に追われる日々が今年も続くと思う。
AIの急速な進化に伴い、観光業全体の事業モデルの変革が求められるようになったが、どのように付加価値を高め、適正な利益を確保した上で、お客さまに選んでもらい、ご満足いただけるサービスを提供できるかについて、業種の枠を越えた横断的な連携が必要だと感じている。
これまで培った日旅連の皆さまとの協力関係に磨きをかけ、次の10年を見据えたさらなる発展を目指していきたい。引き続きご協力をよろしくお願いします。
岡本ツーリズム事業本部長