【日旅連総会特集 対談】日本旅行 小谷野社長 × 日旅連 桑島会長


日本旅行と日旅連、共創で持続的成長へ

 日本旅行は今年度から4カ年の新たな中期経営計画を開始するとともに、1月1日付で大規模な組織改正を行った。コロナ禍の終息が見えない中、かつてない変革で厳しい時代の生き残りを図る。事業パートナーの日本旅行協定旅館ホテル連盟(日旅連)も会社と歩調を合わせた取り組みを行うべく、新年度の事業を計画している。3月3日の日旅連通常総会を前に、日本旅行の小谷野悦光社長と日旅連の桑島繁行会長(北海道・北こぶし知床ホテル&リゾート会長)に「共創で持続的成長へ」をテーマに語っていただいた。

 

 

 ――(司会=本社・森田淳)コロナ禍2年目の昨年。観光、旅行業界は引き続き厳しい状況だった。小谷野社長はそうした中での新社長就任だった。

 

 小谷野 就任が昨年の3月26日。既に第1四半期の数字が壊滅的な状況下でのバトンタッチだった。

 どう手を打つべきか。待ったなしの断崖絶壁だったが、半分宿命と受け止めて、皆さまの力をお借りしながらここまで来た。これまで会社の中で営業と経営管理の両方のセクションを担当させていただいたことが自分としては役に立っている。

日本旅行 代表取締役社長 小谷野悦光氏

 

 ――昨年を振り返ると。

 

 小谷野 緊急事態宣言が長く続き、旅連の皆さまと直接お会いすることがなかなかできなかった中で、リモートなどでしっかりとコミュニケーションを取ることを心掛けた。これは社内に対しても同じで、グループ会社を含めた全国各地の社員とのコミュニケーションを相当意識した。

 一昨年秋口からのGo Toトラベル事業に手応えを感じ、時間の経過とともに改善に向かうだろうという回復への期待も大きかった。だが、年明け早々からの緊急事態宣言発出。現実は予想をはるかに超え、結果的には9月末まで緊急事態が続いた。年初の思いとは相当な落差があった。

 今、何をしなければならないかを考えたときに、旅連の皆さまとの会話を通じて、皆さまが現在、どのような思いを抱いているのかをまず確認した。それが昨年のわれわれの事業のベースとなった。

 

 桑島 2020年、21年と、コロナに翻弄(ほんろう)された2年間だった。

 日本の医療技術はどうなのか改めて疑問を感じた。国内のワクチンがなかなかできないし、経口薬もようやくという段階。日本は先進国と思っていたが、他国と比べて進んでいない分野もあるのだなと実感した。

 昨年年初に首都圏で緊急事態宣言が発出され、その後全国に拡大し、人流が止まってしまった。われわれは人に動いてもらうことで成り立つ商売であり本当に痛かった。旅館・ホテルだけでなく、関係するさまざまな業界の皆さんも本当に苦労をされている。

 休業や廃業する施設が増えている。休業を繰り返し、雇用調整助成金を受けながら、事業をなんとかつないでいる状況だ。しかし、資金繰りが徐々に悪化していることは確かで、国によるさらなる支援策が必要だと思われる。移動の自粛が叫ばれたが、特に気の毒に感じたのは学生の皆さんだ。学校生活の中で大きな楽しみの一つである修学旅行が多くの学校で中止になってしまった。これを繰り返してはならない。

 そのような状況下で東京オリンピック・パラリンピックが開催された。コロナ禍で無観客ではあったが、開催できたことは有意義であったと思う。日本人の“おもてなし”の心を世界の人に感じてもらえたのではないか。

 テレワークやオンラインによる事業が急進展した。コロナ禍の前もあったのだが、今ほど普及していなかった。このような状況だからこそだが、今後の仕事のあり方や事業活動の幅が広がったのではないか。

 昨年は残念ながら、本部総会、支部連合会の総会もほとんどが書面議決になった。コロナ禍の中、会費収入も大幅に減少したことから事業の縮小あるいは休止を余儀なくされた。今年はコロナ不安が払拭(ふっしょく)されることはないと思うが少しでも前に進めるようにしたい。

 

日本旅行協定旅館ホテル連盟 会長 桑島繁行氏

 

 ――緊急事態宣言が明けた10月以降は多少、客足が動いたようだ。

 

 小谷野 10~12月は、「赤い風船」をはじめ個人型商品の動きが、Go Toの突破力には及ばないが、活発になった。さらに春に実施予定だった修学旅行が延期となり、10~12月に集中し、例年の2~3倍の規模になった。久しぶりに旅行需要に上向きな動きが見られ、12月決算のわれわれとしてはありがたかった。旅連の皆さまにもある程度の送客ができたのではないか。

 

 桑島 Go Toまではいかなかったが、9~11月は地域によって差はあるものの例年の70~80%まで客足が回復したと思われる。
象徴的事業だったGo Toがあまりにも強烈だったため、われわれは再開を大いに期待しているのだが、いまだにストップしている。早く再開してほしいというのが業界みんなの願いだ。

 旅行が感染の原因の一つになっていると、われわれに厳しい目が向けられている。メディアでも旅行との関係について盛んに報道された。これもGo Toの再開延期に影響を与えているのではなかろうか。

 

 ――旅館・ホテルの感染対策は相当厳しく行われている。

 

 桑島 施設の規模により、かかる費用は違うだろうが、どこでも同じように厳しく対応している。ロビー、フロント、食事会場、大浴場と、設備、装備も含めて感染対策に万全を期している。私のホテルも数千万円単位の経費がかかっているが、国や自治体の支援がなければここまでできなかった。

 

 ――新年度の事業について。

 

 小谷野 今回発表した新しい中期経営計画では、旅連を含めたサプライヤーの皆さまとのコミュニケーションを通じた高い価値の共創。これが今年の最大のテーマだ。

 われわれは日本で最も歴史ある旅行会社の矜持(きょうじ)として持続可能でより良い社会の実現を目指すSDGsの目標達成を目指しており、日旅連の皆さまとは、この推進に向けた「日本旅行×日旅連SDGs共同宣言」を今回の本部総会において行わせていただく。

 SDGsは美辞麗句を並べるだけでは意味がない。実行と結果が重要だ。今回旅連との合同委員会を新設したい。旅連の皆さまにおかれてもそれぞれに取り組みを進められていることと思う。横断的な事例共有や個別具体的なプラン設計などのサポートを約束させていただく。さらに、それぞれの地域や施設での取り組みを表彰する賞も創設したい。この場におけるSDGsに関する共創は、回って必ず地域経済の活性化に資することにつながることになる。

 旅行消費がどのように地域社会に影響するのか、旅行者にもそんなサステナブルツーリズムの視点がますます拡大する。今後、インバウンドが復活した際も、この切り口はマストになるだろう。

 

 桑島 今年が観光再生の年になることを期待している。コロナ禍3年目。早く元の生活に、何の気兼ねもなく旅行ができるように、戻していかねばならない。3回目のワクチン接種を早く進めることなどで経済を回していかねばならない。

 インバウンドはコロナの収束が見えてもすぐに100%回復することはないだろう。せいぜい70から80%ではなかろうか。

 売り上げが少しぐらい下がっても経営を続けられるよう、労働生産性を上げていかねばならない。さらに今回経験したように、インバウンドは重要なマーケットではあるが、過度に依存することなく、国内需要とのバランスが大事だ。国内観光のさらなる振興に取り組んでいかねばならない。
温泉が人の免疫力を向上させる効果があると、メディアが伝えている。温泉の効能を改めて訴えることも有効ではないか。

 国民の心が静まり返っている。みんなの心を湧き立たせるような施策を国には期待したい。

 

 ――会社が昨年暮れに発表した新しい中期経営計画と、それに伴う組織改正について、さらにお聞きしたい。

 

 小谷野 今までの法人営業、個人旅行営業から、ソリューション事業、ツーリズム事業という体制に移行したのが大きなポイントだ。
ソリューション事業は、国や地方自治体、地域や企業、学校などの抱える課題に対して、これまでの旅行業の事業領域からもっと広義に、課題解決策のトータルコーディネートを提供していくものだ。

 今、法人に団体旅行の営業をしても、ニーズはほとんどない。これまでならば「そうですか。やれる時期が来たらよろしくお願いします」と言ってケースクローズ。そうではなく、顧客や地域の抱える課題全体を俯瞰し、その解決につながる取り組みを旅行に限らず多面的な切り口で提案する。旅館・ホテルに対しても、ただ施設に送客するのではなく、地域全体の魅力を高めるためのコンサルティングなど、社会視点を持った提案をする。これがソリューションビジネスだ。

 一方のツーリズム事業は、DXを活用した「地域産業振興事業」へと進化する。デジタルを活用し、個人のお客さまへの新しい価値の提供など顧客体験の向上を目指す。その中においては発地から着地中心の事業運営に転換し、各地域との密接な連携を軸に着地商品の造成を強化していく。
時代の進化により、ソリューション事業、ツーリズム事業を問わず、旅行業の機能だけでは全ての対応が追い付かない。補完関係になるパートナーが必要となる。そこで、他社とのアライアンスを機敏に行うことも中計で標ぼうした。

 当社はご承知の通りJR西日本グループの一員だ。グループの一員としての強みを生かしていく。特に沿線エリアのさまざまな課題解決に、より迅速により積極的に取り組む。他のエリアに関しても、西のエリアで培った実績や経験値を必ずや還元していく。

 新しい体制においては今まで以上に利益確保にこだわりたい。従来の旅行業はあまりにも薄利だ。働く人やその家族の皆さんのため、観光産業が社会から大きな信頼を得るため、社会における旅行業の価値を向上させるべく、一定水準の利益を確保できる会社にしなければならない。

 旅行業の潜在能力は高いものがある。私は「覚醒」と呼んでいるのだが、社員にはそれをいち早く具現化してもらいたい。旅行という範疇(はんちゅう)にとどまらず固定観念を外し、高く広い視座を持ち、われわれの潜在能力を発揮したい。

 旅連の皆さまには、単なる送客という関係性にとどまらず、地域全体の課題解決など、さらにアップデートした取り組みを強力に、より具体的に推進してまいりたい。

 

 ――中計最終年の2025年にソリューション事業の売上総利益がツーリズム事業のそれを上回ると計画を立てている。旅行の取り扱いが減り、旅連への送客も減るという心配はないか。

 

 小谷野 ソリューション事業が従来の旅行業では全くないと解釈すれば、そう思われるかもしれない。だが、決してそうではない。旅行業を超えたソリューションはさらなる送客を誘引できる可能性が高く、トータルで考えれば、旅連を含めた地域の皆さまに大きく貢献できる。これは旅行業の可能性を拡張する挑戦であると捉えていただきたい。旅連の皆さまへ必ずやプラスアルファの恩返しをするとの思いで取り組みを進めていく。

 

 桑島 コロナによって旅行環境が大きく変化した。日本旅行がどのように変わっていくのか、興味があるところだったが、社長の話を聞いて方針がよく理解できたし、より心強く感じているところだ。

 日旅連は日本旅行と連携を強化し、宿泊販売の拡大に貢献するという基本的な考えは変わらない。車の両輪として歩んでまいりたい。

 

 ――日旅連の今年度事業は。

 

 桑島 日本旅行の取り組みに呼応する組織でありたいと考えている。

 社長が強調されているSDGsの取り組みは、社会において、今後さらに重要視されるテーマだ。日旅連は日本旅行と連携、連動し指導をいただきながら共に取り組んでいきたい。先ほど社長が話をされた通り、今期の総会で旅連としても日本旅行とのSDGs共同宣言を行う予定だ。

 会員の皆さまがどのような考えを持ち、どのような取り組みを行うべきなのかを考える必要がある。既に取り組んでいる施設もたくさんあるだろう。さらに進め、それを知らしめることで企業イメージの向上により、自社の発展とお客さまの満足度アップの両方につながるのではないか。

 旅連活動の中核をなす営業推進委員会は、この2年間コロナ禍で活動が制限された。今年は今までの経験を生かし、さらにパワーアップした活動を望みたい。

 

 ――会社から旅連へ、旅連から会社へ、それぞれメッセージ、要望を。

 

 小谷野 われわれは社会の求めに応じ、旅連の皆さんとともに変化、進化をしていかねばならない。

 そこではコミュニケーションが何より大事だ。お互いが膝を突き合わせて生き残るための取り組みをしっかりやっていく。

 具体的な取り組みは先ほど来、申し上げているが、ベースとなるコミュニケーションがしっかり取れていれば、目的は同じなので、必ず良い形につながっていく。

 

 桑島 コロナ禍において、マーケット環境が時々刻々と変わっている。直近の誘客から将来を見据えた取り組みまで、どう連携すべきかを模索しながら事業を進めたい。会社の各部門との情報、意見交換をさらに深度化させ、ともに高め合っていきたいと考えている。

 

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