2024年元日の能登半島地震から1年が経過しました。9月には豪雨災害も重なり、JNTでは被災地の方々の生命、生活再建が第一と考え、各地の文化財の被災状況については主に情報収集に努めてきました。輪島市は、観光資源保護調査「能登・三井 茅葺き民家調査報告書」(1992年)、「名勝『白米の千枚田』保存管理計画策定調査」(2001～02・06年)、「輪島市文化的景観保護推進調査」と関連業務(2008～14年)等JNTとの関わりも多く、近年も「輪島市文化財保存活用地域計画」の作成業務(2019～21年)で指定・未指定、有形・無形の「文化財」活用のあり方を提案していました。そのため、JNTでは現地調査を検討し、本年11月に実施しました。今回の調査には事務局1名に加え、上記の既往調査に取り組み、文化財保存活用地域計画の委員でもある安藤邦廣先生(筑波大学名誉教授)に同行いただきました。
震災後の「白米の千枚田」。地震で隆起した海岸線に岩場が見える
重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)の門前町黒島地区では「かぞく會舘」(旧森岡家住宅) と2棟のゲストハウスを運営している黒澤卓央様、恵三子様にお話を伺いました。「かぞく會舘」はゲストハウスのフロントとして運営されていますが、現在はまちづくりに関する説明会や修理・復旧等に関する相談会、住民の集会等に使用されています。「重伝建の町並みは、輪島の昔の風景を思い出せるところ。再建が町並みづくりの見本になれば」と語る黒澤様は、同年4月「黒島みらい会議」を設立。今は市外に避難している住民も含めて、再び黒島地区に住めるよう活動を行っています。
「かぞく會舘」内部の様子
三井地区では山本亮様にお話を伺いました。山本様は茅葺民家「茅葺庵」指定管理者として「里山まるごとホテル」を運営し、被災後は「のと復耕ラボ」代表として民間ボランティアセンターの運営や、半壊等の民家から古材を搬出しアップサイクルを目指す古材レスキュー、そして自伐林業の森づくりに取り組んでいます。「茅葺庵」はじめ輪島市所有の茅葺民家は未指定文化財で、震災によるダメージを受けているため今後のあり方を検討中とのこと。登録・指定文化財の復旧、再建だけでも大きな課題を抱えている中、未指定文化財修復の道筋を立てるのは困難ですが、茅葺民家の再生を通し、現在ボランティアとして復興に関わる方々が今後も茅葺民家と里山づくりに関わっていけるよう検討している、とお話しくださいました。また、輪島市教育委員会文化課の皆さまはじめ、多くの方にお話を伺いました。
黒島地区にある倒壊した重要文化財「旧角海家住宅」の屋根の上にはシートがかけられている
未だに大変厳しい状況下にある地域の皆さまが、この難局を乗り越えるために一歩一歩前に進んでいこうとする力強さに感銘を受けました。復興への道のりは長く険しいものですが、貴重な地域遺産が次世代につながれていくよう共に考えていきたいと思います。
日本ナショナルトラスト「報」No.565 掲載記事
（2025年1月1日 公益財団法人日本ナショナルトラスト 発行）
日本ナショナルトラストとは
日本のすぐれた文化財や自然の風景地などを保全し、利活用しながら次の世代につなげていくことを目的に活動する、1968年設立の団体です。
現在は、京都市指定文化財・駒井家住宅、東京都指定名勝・旧安田楠雄邸庭園、北茨城市指定史跡・天心墓地及び天心遺跡記念公園（旧日本美術院五浦研究所跡）、白川郷合掌造民家等を所有し、公開・活用するほか、国指定名勝・旧大乗院庭園（奈良市）の保存・管理・公開やトラストトレインの動態保存（静岡県大井川鐵道）、巻機山植生復元活動（新潟県・群馬県）などを行っています。
また、2024年度から新たに「地域遺産支援プログラム（愛称：トラスト・エール）」を開始し、自然・文化遺産を保存・活用する地域の活動を公募し、支援しています。
ウェブサイト http://www.national-trust.or.jp/
★現在、入会金・初年度年会費が無料になるキャンペーン実施中
詳細はこちら http://www.national-trust.or.jp/news/index.php?c=event_view&pk=1736409068
