【日本政府観光局インバウンド最新リポート 118】中国の訪日旅行市場 団体ツアーの再定義が必要 JNTO上海事務所 薬丸裕所長


 2024年の訪日中国人数は約698万人。過去最高の約959万人を記録した2019年比では約3割減となるものの、香港・マカオを除く中国人のアウトバウンド目的地でタイを抜き、既に第1位を獲得するに至った。

 2025年に入ると、低調気味だった小中高生を連れた家族旅行も力強い回復を見せ、1月の訪日中国人数は、98万人を超える勢い(単月の訪日中国人数で史上3位)で、ピークの2019年超えも予感させる好スタートとなっている。

 訪日旅行市場全体としては盛り上がりがある一方で、上海の伝統的な旅行会社からは、「コロナ禍を経て社会も市場も劇的に変わった。元の形には戻らないだろう」という声が聞こえてくる。2000年の訪日旅行解禁以来、主力で稼ぎ頭でもあった団体ツアーの需要が縮小し、顧客のニーズも大きく変容しているのだ。中国からの団体客を受け入れてきた日本サイドにおいても「団体ツアー」の定義を改め、団体客のイメージ像もアップデートすべき時を迎えている。

 中国人団体ツアーの再定義のポイントは、訪日慣れした消費者の多い上海とその他地域では差異やタイムラグがあるものの、おおむね4点が挙げられる。

 (1)少人数化 ガイドに先導される20~30人での大型バス利用ではなく、6人~十数人でのミニバン利用が急増。

 (2)家族・友人グループ化 見知らぬ人たちが集まり催行される募集型よりも仲の良い家族同士や友人が集う「団体」を形成して楽しむスタイルが主流へ。一方、募集型ツアーの参加者は、大半がツアー好き世代の50代以上でシニア化が加速し先細り感。

 (3)セミオーダーメイド化 団体の家族・友人グループ化に伴い、東京―大阪を結ぶ定番ツアーでも旅程を全て旅行会社が指定するのではなく、ルート上での行き先や滞在時間、宿泊・食事のグレード等、各グループの希望をできる限り反映。

 (4)目的重視・独自路線化 中国人客で混雑していない地方を巡るツアー、個人ではアクセスしにくい/予約困難な施設やサービス等を楽しめるツアー、シニア向け旅行ブランドの立ち上げ等、各社が独自の商品開発に注力。

 コロナ前後の団体ツアー割合の推移は図の通りで、現在は回復途上にも見えるが、コロナ禍を経た決定的な変化を考えると元の水準には戻らないと見るべきだ。

 団体ツアーを取り巻く環境は、旅行会社主導で効率重視のマス向け売れ筋商品をつくれば労なく稼げる時代から、消費者ニーズに合わせた小規模・独自商品・高単価のビジネスモデルでの勝負が求められるステージにシフトしたと言える。

 これらの変化は、日本サイドでも旧来ツアーに依存するビジネスモデルには逆風となるだろう。一方、効率優先で「定番ルート」から足を延ばすのが面倒というだけで敬遠されがちだった魅力ある地方や中小規模の施設の方々は、新たな商機・商流の到来と考えてほしい。


(観光経済新聞2025年3月31日号掲載コラム)

 
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