【日本政府観光局インバウンド最新リポート 36】マレーシアの訪日旅行 JNTOクアラルンプール事務所 大内大輔 次長


中華系誘客からムスリム開拓へ

 マレーシアと聞いて「ムスリム」「ハラル」などのキーワードが頭に浮かび、受け入れのハードルが高いという印象を持ってしまう方々も多いかもしれないが、訪日市場においてはまた違った側面が見えてくる。

 旅行業界へのヒアリングによると、マレーシアからの訪日客の約半数はムスリムであるマレー系マレーシア人で、残りの半数が中華系マレーシア人であると推測される。

 多民族国家として知られるマレーシアは、国民はマレー系、中華系、インド系民族により構成されており、考え方や興味関心は民族別に異なる。

 今回は意外に知られていない中華系マレーシア人の訪日市場を中心に紹介したい。

 中華系は人口比では約23%だが、前述の通りマレーシアからの訪日客のおよそ半数を占めていると推定される。民族別の世帯収入でも他民族よりも2~3割程度高く(マレーシア統計局2014年)、高い経済力を有している。

 一般的な訪日団体ツアー費用は6泊7日で約20万円と、当地において決して安価な旅行商品ではないため、必然的に経済力のある中華系の占める割合が大きくなる。

 また、中華系マレーシア人は中国語と英語の両方を操ることから、旅行先でのコミュニケーションが容易であり、海外旅行に慣れている人が多い。

 マレーシアからの訪日旅行者の約8割が個人旅行者である(観光庁「訪日外国人消費動向調査」2016年)が、2016年度にJNTOが実施した調査によると、中華系の個人旅行者の多くは、香港や台湾などの中国語圏のブログやSNSなどから情報を収集していることが分かった。考え方や興味、関心も、温泉やラーメンが好きである点など香港や台湾の旅行者に近い。すでに香港、台湾からの個人旅行者の誘客に成功している観光地は、そのプロモーション内容を参考に、中華系マレーシア人も誘客できる可能性が高いと考えられる。

 さらに訪日旅行者の残り2割については、そのほとんどが中華系旅行会社を利用する団体旅行者となっている。旅行会社は近年、北海道、東京、大阪などの定番の旅行先だけではなく、個人旅行では訪れにくい中部、沖縄などの地方への旅行商品を新たに造成し、訪日旅行のバリエーションを広げている。

 今行くべき日本の旅行先トレンドの形成に旅行会社が一定の役割を果たしていると言えることから、観光地の認知度を上げ、旅行商品造成・販売促進を図るためには、現地旅行会社との連携や情報提供は効果的な方法の一つであると言えよう。

 一方で、人口の7割弱を占めるムスリム市場の誘客も非常に重要である。マレーシアは、ムスリム人口の多い他の国よりも比較的日本から近く、かつ英語でのプロモーションも可能であるため、ムスリム市場へのアプローチに適した国の一つである。

 マレーシア市場については、中華系に重点をおいた取り組みから始めていただき、その先に広がるムスリム市場開拓への扉を開いていただくことを勧めたい。

 
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