【日本政府観光局インバウンド最新リポート 60】イタリアの訪日市場 JNTOローマ事務所 冨岡秀樹 所長


イタリア語での情報発信必用

 本稿執筆時点(3月5日)で、イタリアでの新型コロナウイルス(COVID―19)の感染者数は3千人を超え、死者107人と伝えられており、イタリア周辺の欧州各国でも増加している。SARSがまん延した2003年のイタリアからの訪日旅行客数はわずか3万5826人であった。その後16年を経た2019年のイタリアからの訪日旅行客数は約16万2800人で4.5倍以上に大きく成長してきたが、東日本大震災時の放射能と同様に目に見えない恐怖は旅行需要を大きく減退させ、感染症の世界的な広がりによる旅行業界への影響は計り知れない。

 イタリアでCOVID―19の感染が広がる前の2月7日、フランス領ポリネシアへの渡航には医師の健康診断書が必要という情報が出回り、イタリアで訪日旅行を扱う旅行会社から、日本のどこで診断書が入手できるかといった問い合わせを多く受けた。なぜタヒチなどのフランス領ポリネシアへ行くための健康診断書が訪日旅行と関係あるのかと思われる読者もおられるだろう。イタリア市場において日本は新婚旅行(ハネムーン)デスティネーションとして人気があり、日本に1週間ほど滞在した後、タヒチへ向かう旅行商品がイタリアでは売られているからだ。

 観光庁発表の18年の消費動向調査によると、ハネムーン目的で日本を訪問する率は、調査対象20市場の中でイタリアが最も高く、イタリアではハネムーンで日本へ行くという旅行のしかたが認知されているのだ。

 19年度当所が実施した市場調査で得られたイタリアから見た日本は、費用と旅行日数が長く必要となることがネックで、言葉も不慣れで自由に振る舞えない国と思われているが、最先端の技術と独特の歴史・文化が融合する珍しい国で一生に一度は行ってみたい国とされているようだ。

 もっと気軽に考えてもらえれば良いのにと思う半面、イタリア語の訪日旅行関連情報はいまだ十分とは言えず、日本との往復航空券も安い時では700ユーロ程度であるということもあまり知られていない様子だ。インターネット上のさまざまな映像や情報によって、イタリア国内での日本に対する興味は高まりつつあるため、訪日旅行に関する正確な情報をイタリア語で発信することが必要であり、さらに日本に着いた後にもイタリア語で情報が入手できるようウェブサイトなどの多言語化が望まれる。

 イタリア国家統計局が2月に発表したイタリア人旅行動向調査結果は、しばらく続いていた成長が19年にマイナスに転じたと報じられている一方で、訪日旅行客数は19年も増加、20年1月には2桁の伸びを示しており、さらなる成長を見込んでいたところであった。それだけに、このCOVID―19のまん延を懸念しており、本稿掲載時にはこの危機が少しでも終息に向かってほしいと願うばかりである。

 
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