香港のトラベルバブル
香港における新型コロナウイルスの1日当たり新規感染者数は、5月初旬現在、おおむね1桁台で推移しており、昨年11月から続いた「第4波」と呼ばれる香港域内の再流行は収束に向かっている。香港政府は飲食時の人数制限などの規制は継続しているものの、並行して、香港居民へのワクチン接種プログラムの整備を進めており、4月23日には16歳以上の香港居民は無償でワクチンを接種可能となった。これは香港居民の88%が、ワクチンを接種できる環境になったことになる。
香港政府は「ワクチンバブル」と呼ばれる、ワクチン接種者の優先的な行動制限緩和施策を発表しており、市民のワクチン接種と経済活動の再開を促進させたいものとみられる。旅行に関する施策は現時点で2点あり、1点目は「ガイド等のワクチン接種を条件に30名までのグループツアー催行を許可」、2点目は「シンガポールとのエアトラベルバブルの再開」である。特にシンガポールとのエアトラベルバブルは、昨年11月に実施が決定していたが、第4波の影響を受け、直前で中止となっていた(5月17日現在、5月26日開始予定だったシンガポールとのエアトラベルバブル開始日は再調整となった)。
香港居民のワクチン接種率は5月5日に100万人を超えたとの発表があり、人口の約13.3%に相当する人数が第1回目の接種を完了したことになるが、ワクチンに対する香港市民の反応は拮抗している。3月下旬に香港のウェブサイト上で行われたオンラインアンケートでは、ワクチン接種を旅行の条件とすることについて、反対意見がやや賛成意見を上回る状況であったが、他の報道で見られる意見の中には「日本や韓国へのトラベルバブルが可能になるなら接種も考える」という意見も見られ、ワクチンの安全性を見極めたい考えと旅行に対する期待の複雑な思いを感じる状況であった。
今回のエアトラベルバブル再開にあたっては、(1)過去14日間に香港またはシンガポールに滞在(2)出発前72時間以内のPCR検査の陰性証明(3)2回目のワクチン接種から14日以上経過(4)指定のフライト利用―の4項目を満たす必要があり、観光目的の利用にはまだハードルが高いように感じられるが、当地新聞「明報」の報道によると、シンガポールとのトラベルバブル発表当日の4月26日にワクチン予約数が約40%上昇したとのことである。
感染再拡大などにより常に状況が変化する困難な環境下ではあるが、訪日旅行再開を待ち望む香港市民は多い。当所にて3月末に400人を対象に行ったウェブ調査では、コロナ前後で訪日旅行に求めるものは変化するかという質問に対し「温泉・リゾートなどリラックス志向が強まる」「自然・アウトドアなど健康志向が強まる」との回答選択がそれぞれ全体の約45%程度に達した。当所では今後もトレンドを踏まえた前向きな情報発信を継続し、着実に訪日意欲を育み続ける計画だ。