【日本温泉文化を守る会 設立記念特集】日本温泉文化を守る会 名誉会長 佐藤好億氏 × 会長 佐藤和志氏


伝統的な温泉文化を守り、継承

 ――6月末に「日本温泉文化を守る会」が発足した。設立の経緯、会の意義は。

 佐藤好 温泉文化の存続が危うくなっている。単に国策として進む地熱の問題だけでなく、かつては湯治場として栄えた地域も限界集落となり、温泉、そして温泉を守る湯守がいなくなる恐れがある。インバウンドが急増し、温泉文化が世界から求められるようになったが、今こそ日本として地方が誇れる本当の魅力として温泉の在り方、その文化性を見直し、確立する必要がある。世界から見ると、日本の文化は京都と奈良が評価の基準となりがちだが、地方文化も草津や乳頭などで魅力に花が咲くなど、全国各地で頑張る地域がある。多くに日を当てることが、文化を守り、次世代に育てることにつながる。日本秘湯を守る会が発足した48年前から日本の温泉文化を見てきた者として、いまだに迷う姿が気になって仕方ない。失う前に気付きがなければ、存続は難しくなる。湯治文化は、日本独自の入浴文化であり、天地療養効果も含めた中身があるもの。大手旅行者から相手にされず、地方の山奥にある小さな宿が共生の理念の下に集った第1ステージ、バブル絶頂期に沸いた第2ステージ、そして今、コロナ禍となり第3ステージに入った。3部会を持つ日本温泉文化を守る会では、今ある温泉文化の中身を見直しながら、インバウンドを含めた次の時代に、どう生きていくべきかを考えている。

日本温泉文化を守る会 名誉会長(福島・大丸あすなろ荘)佐藤好億氏

 

 佐藤和 温泉旅館を事業として考えるのではなく、いかに旅をする人と気持ちを合わせ、共生できるか。日本秘湯を守る会は、あと2年で50年となるが、最初に10軒に泊まったら1泊招待を打ち出した際は、画期的なものとして注目を浴びた。そこから時が経てインターネットの時代に入り、ウェブが育ち、今がある。昨今は、情報化、効率化が社会で叫ばれるが、そこはうまく取り入れながらも流されてはいけない。周りから見れば、遅れている、古いと見えるかもしれないが、逆にそれが個性として売れることがわれわれの強み。広く言えば、温泉、文化を一番残しているのが日本温泉文化を守る会、そして3部会だといえる。会としては小さいが、われわれの手で残していくことが会の使命だと感じている。

日本温泉文化を守る会 会長(秋田・鶴の湯温泉)佐藤和志氏

 

 ――第3ステージでの取り組みについて。

 佐藤好 まずは効能効果の表示による、正しい温泉としての表示、発信に努める。温泉地はかつて、湯治場として医療行為の一環として寄与している。それが、温泉の提供の手法の多様化や、偽装問題が出るなどで信頼性が揺らいだ。今でも効果効能の分析は10年に1回あるが、年間の波がある中、信頼性には乏しい。昨今、温泉協会でも世話になる国際医療福祉大学教授で、医学博士である前田眞治先生に泉質の分析をお願いした。前田先生には、各旅館の分析表に基づきながら、自らの論文の1過程の中で、療養の内容を書いていただいた。本当の意味で、過去には源泉試飲に基づいた湯治文化というものは地域に確実にあった。正しい情報を提示することは、消費者による選択、温泉の利活用にもつながる。

 ――日本秘湯を守る会、日本源泉湯宿を守る会、日本文化遺産を守る会の3部会とはどう共に歩むのか。

 佐藤和 コロナ禍の中、本来は脱落するしかなかった小さな宿がここまで生き残ってきた。以前は、旅行業に頼るところもあったが、われわれ山奥の1軒宿は、自己完結できなければ、独り立ちできない。だが、個性だけでは生き残れない。心が通う仲間がいるからこそ生き残れる。この会の一番のポイントでもある。今は、山奥の宿がウェブである程度採算が取れるようにもなった。われわれには皆で補い、皆で生き残ろうという強い意志と行動力がある。

 ――全国には日本温泉文化を守る会に入会したいという宿はたくさんあると思われるが。

 佐藤好 大手旅館はこの2年、従来の団体型から、個人客向けに改装に力を入れている。新たな個性として会に入りたいという声は、決して間違いではないが、住む場所は分けるべきだ。以前は、観光立国の名のもと、大量送客、販売が行われてきたが、時代は変化し、今後は観光には中身、独自性が求められるようになった。われわれには単なる個人的な利得の案件に費やす時間はない。会には全ての会員を補完する本当の仲間がいる。われわれと付き合ったからといって金もうけをした人はいない。

 佐藤和 日本秘湯を守る会は、オーナーの顔が見える宿が基本。人の集まりが温泉文化そのものである。日本の観光には、それぞれに持ち場がある。仮に知名度があるところと組んでも一過性で続かないことは明白だ。われわれは48年の間にさまざまなルールを設け、これが組織の存続につながっている。われわれが今あるのは、売り上げありきの商売ではなく、お客さま、仲間とのコミュニケーションがあるからこそ。外からは、効率が悪い、人手がかかると見えるかもしれないが、ここがわれわれサービス業のポイントである。大型旅館ができない隙間産業かもしれないが、それは個性、差別化の部分であり、決して大型化を目指す会員であってはならない。

 佐藤好 家業である。家業の中で管理、運営できるものを限度としている。親父と話をし、息子は別のことを考えていても50歳になると一緒になる。ツールはいろいろなものがあっていい。家業という世界の中で、唯一地方文化を担ってきた仲間であり、そこを誤ってはならない。

 ――事業承継が今後課題となる。次世代に向けて。

 佐藤好 自然界から与えられた特化した強みを、次の世代を担う人は大いに生かしてほしい。宿を営む上でも、親会では会計事務所や弁護士事務所などを抱え、おのおのの宿が抱えずとも専門性を共に活用できる。山奥の宿でも安心して経営できる環境を整えており、大いに力を発揮してもらいたい。

 佐藤和 経営が成り立たないと給与の話も出てこない。経営を安定させることが全てにつながる。また、昔は建物を建てる際、床柱はこうだとか物語があった。本来、利益は満遍なく回さないと戻らない。このような考え方、雰囲気を若い人に伝えていきたい。

 ――最後、読者に一言。

 佐藤和 さまざまな法律があるが、例えば消防法は新宿の雑居ビルで火事が起きれば全国一律に法律が変わる。山奥の一軒宿とは大きく環境が異なり、ある程度幅を持って考えてもらいたい。そうでないと、文化財、文化は残らなくなる。また、温泉は掘削でストレートに掘った湯ではなく、条件の違う場所で自然に湧出し、地下をくぐる中でいろんな成分をつかんで出たもの、それこそが本物の温泉、源泉だといえる。私は、規模を拡大することは考えておらず、源泉を持つ温泉、昔からの生活の中にある温泉を維持し、伝えるためにも、皆同じ気持ちを持った中で続けていくことが全てであると思っている。

 佐藤好 人生の多くを会と共に生きてきた。次の世代を見据える中、いわゆる地熱との闘いはやむなく続く。世界から見て温泉湧出量が高く、労働電源としてのポテンシャル量が高いと言われるが、私は疑問を持っている。今年は、「温泉資源の保護に関するガイドライン(地熱発電関係)」の5年に1度の見直しが行われる。限りある温泉資源の保護とエネルギー政策との共生が必要になる。本当の意味で観光立国として温泉をどのような形で地方の経済の中で使っていくのか。補償の問題もある。今、温泉文化を守る人たちが、頑張らなければ明日はない。互いに共生の心を持って第一歩を踏み出そうではありませんか。これが第3ステージの第一歩にもなる。

 

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