【日本茶インストラクターが勧める 素敵なお茶生活 55】旅館とお茶 繁田聡子


温泉に漬かり、ゆったりとした気分を満喫できる旅館。工夫を凝らしたおいしい料理の数々。日本酒、焼酎、ビール、ワインと、飲み物にもこだわりの品ぞろえ。上げ膳据え膳も主婦にとっては極楽。ただ残念なのは出される日本茶。ほとんどの旅館と言えるくらい毎回、失望してしまいます。日本茶は当たり前過ぎて空気みたいに気にならない? いえいえ、空気清浄機の存在感、相当なものですよ。

先日訪れた大人限定の旅館でも、素晴らしい晩御飯の締めのお茶はまるで色付きのお湯。「お茶だけが残念でした」との感想をアンケート用紙に記して宿を後にしました。

旅行に出るときは、毎回、普段使っているお茶を小さな缶に入れて持参します。残念ながら部屋にあるお茶の質に期待できないことが多いからです。それさえ飲めないことがあります。なぜなら急須が部屋に置いてありません。あるのはティーバッグのみ。急須を拝借したい旨をフロントに連絡する羽目に。

ティーバッグを否定するのでは、決してありません。良質な物ももちろんありますし、便利なときも確かにあるからです。私どもの店でも品ぞろえの大切な一品です。でも、ゆったりとした時間とくつろぎを提供する日本旅館にはぜひ、良質なお茶の葉と急須の常備を願いたいものです。

しかし、ここで問題が一つ。「常備するお茶の鮮度をいかに保つか」です。「お茶は野菜や果物と同じように生鮮食品です」とは、店頭販売の際、お客さまによくお伝えすることですが、保存方法には注意が必要です。空気、温度、湿気、光、匂いなどの影響を受けやすいので、客室のお茶は、急須1回分の量をアルミ製の小袋に入れて密封し、用意するのが、最適なのではと考えています。包材費が割高になるのは否めませんが。

このところ、枕や布団の質にも気を配る流れのようです。日本茶にもぜひ、お気遣いを。商売っ気からだけの提案ではないつもりですが…。旅館の格もさらに上がるのではないでしょうか。

 
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