著者の山本志乃・神奈川大学国際日本学部教授は、長年、近畿日本ツーリストや近畿日本鉄道から支援を受けていた文化研究機関「旅の文化研究所」に在籍。本書は、団体旅行の歴史と文化を時代背景とともにさまざまな角度から掘り起こし、再評価すると共に、日本の観光文化史に新たな視点を投げかけるべく、山本氏が同研究所時代に携わった、「旅と観光の年表」(河出書房新社、2011年)の編集プロジェクトと、戦後の高度経済成長期の旅行業の実態などを調査したプロジェクト「戦後日本における旅の大衆化に関する研究」の成果を基にまとめた。
団体旅行の始まりともいえる江戸時代の伊勢参りに始まり、鉄道網の発達により盛り上がりを見せた「団参(団体参拝)」、勃興期の修学旅行といった戦前までの団体旅行について、膨大な資料をひも解きながら整理、解説。
戦後本格化した修学旅行や、メーカーの招待旅行、海外団体旅行などについては、近畿日本ツーリストのOB、OGや地方の旅行事業者として実務に携わってきた人から聞き取り調査を実施。当時の社会背景などと照らし合わせながら、旅行企画や集客、添乗、顧客との結びつきなどについての実態を丁寧にまとめた。
「一般に『団体旅行』は、日本人の特徴とされながらもどこか悪癖であるかのような印象で捉えられがちだが、誰もが安全に旅することができる『旅の大衆化』の具現化のひとつであって否定されるものではない。江戸時代に始まり、旅の仲介者の活躍と近代的な交通手段の登場と普及によって花開いた、数百年にわたって培われてきた日本の文化的所産であり、多様化した現代の旅も、団体旅行のノウハウなどを応用することで成り立っている」と著者は指摘する。
定価は3520円(税込み)。A5判ソフトカバー、336ページ。9月15日発行。問い合わせ先は創元社TEL06(6231)9010。