コロナ禍で挑む第2開業期
クリンネス・ポリシー推進 箱根エリア誘客拡大へ地域共創
――「箱根・強羅 佳ら久」(佳ら久)は昨年10月2日の開業から1年がたった。
「本当に苦しい1年だった。佳ら久は、ORIX HOTELS & RESORTS(OHR)のフラッグシップブランドとして開業。コロナ禍で緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が繰り返される中、少しでもお客さまに佳ら久を知ってもらいたいとの思いで、安心・安全を第一に感染対策を徹底しつつ、ブランド力や認知度を高める運営を継続してきた」
――ブランド力向上のための取り組みとは。
「本部であるオリックス・ホテルマネジメント(OHM)ではブランディングチームを立ち上げ、ブランド力の向上を図っている。お客さまが佳ら久に何を求め、何をご提供すれば満足していただけるかを試行錯誤しながら実践し、今では口コミでの高評価を得ている。今後は約100人いるスタッフ全員のさらなる接客の向上、サービスの統一化を図り、もう一つ上のステージを目指していく」
――宿のコンセプトは。
「現在13施設あるOHRのブランドコンセプトは『また行きたい、と思っていただける場所。』。その中で佳ら久はラグジュアリー館として、お客さまひとりひとりが思い思いの時間を過ごしていただける空間を提供している。屋号には『めでたいこと、佳(よ)きことが、久しく続くように』という思いが込められている」
――客層は。
「偏りはなく、記念日や自分へのご褒美などでのご利用が多い。最近は、海外旅行ができない中、新婚旅行の代わりに来訪される方も多い。リピーターには連泊される方が多く、全体の1割を超えているが、もう少し上げていきたい」
――コロナ禍での感染対策対応について。
「OHRでは、全てのお客さまに施設を安心して利用いただくため、昨年6月には『衛生管理』『三密回避』『従業員の健康管理』を重点項目とする運営・サービス指針『クレンリネスポリシー』を策定。佳ら久では衛生管理推進責任者の常駐、客室清掃完了後の『クリーンステイ・ルームシール』の貼付、客室にタブレットを設置し、館内の混雑状況を確認できるなどしている」
――その他の取り組みについて。
「オリックスでは、サステナブルの取り組みを加速している。佳ら久でもアメニティは使い捨てにならないものを使用するなど、アイテムは持続して使い続けられるものを選んでいる。最近では廃棄削減の意識を高めており、食材廃棄のロスを減らすため、廃棄する部分がない状態の野菜や肉などを仕入れて調理を行うなど工夫をし、また工数の削減にもつなげている」
――今後、宿がさらに選ばれるようになるには。
「信用は日々作り上げていくもので、日々決めたことを確実に実践し、慢心なく目標に向かい取り組みを進めなければならない。同じ箱根にある『箱根・芦ノ湖 はなをり』(はなをり)でも同様の取り組みを進めてきた。また、箱根エリアを目的に足を運んでいただくことも大切であり、地域共創にも力を入れている。地元の観光協会や旅館組合、DMOとはコミュニケーションを密に行いながら、地域に対して何ができるかも常に考えている」
――地域との連携は。
「オリックス自動車が小田急グループと連携し、箱根エリアで海賊船やロープウェイをセットにしたプラン、はなをりではヘリコプター会社と連携したプランなどを販売している。地域での取り組みへの参画、新たな連携による新商品の開発など積極的に取り組んでいく」
――グループ内の施設間での連携は。
「OHRの旅館6館合同のGM会議では、売り上げ、FL(原価・材料費、人件費)の共有のほか、各施設の好事例を共有したり顧客の傾向などの情報交換を常にしている」
――インバウンドについてどう考えているか。
「コロナ感染拡大前の水準に戻るには3年ぐらいかかるだろう。箱根は中国、欧米からの来訪者が多く、はなをりではお客さまの2、3割が当該エリアからの来訪だった。今後を見据え、佳ら久でも、海外の富裕層の方を中心に、日本の文化や四季など、日本の良さを伝えられる施設として、インバウンドを受け入れる環境を整えていきたい」
――今年度末に向けて。
「行動制限が緩和された今を第2開業期と位置付け、安心・安全を第一に客室の制限なく稼働していく。一方でお客さまが増えた場合にスタッフの対応が散漫とならないよう、基礎固めを再度行い、他の高級旅館を上回るクオリティを実現していきたい」
――中長期について。
「箱根には歴史を持つ宿泊施設が多数あるが、『お客さまから一番支持を得られる宿』など、エリア内で佳ら久ならではの一番を作り上げていきたい」
※ふじい・なるお=京都のすし店で修業後、京懐石「吉泉」入社。1995年にオリエンタルホテル東京ベイに入社し、和食料理長、グループ内ホテルの総支配人を歴任。2017年8月からオリックスグループ初の新築旅館「箱根・芦ノ湖 はなをり」総支配人、20年10月から現職。
【聞き手・長木利通】