【焦点課題】奈良県ビジターズビューロー 専務理事 中西康博氏に聞く


中西専務理事

先進DMOとしての展望

TXJで地域商社として自立 「人」が魅力の奈良を売り込む

 ――奈良県ビジターズビューロー(VB)の概要は。

 「18年に観光庁から地域連携DMOの認定を受け、今年度は重点支援DMOに選定された。県庁からの出向者など含め20人強の職員体制で運営している。荒井正吾知事が理事長、県内市町村の首長らが理事を務めているが、東大寺などの社寺も名を連ねている。奈良は社寺文化が色濃く残り、それが魅力でもある。春日大社の夜間貸し切りなど独自の観光コンテンツを打ち出していく上で、互いに理解、協力できる関係を育んできたのは強みだ」

 「県内市町村の70%が40年までに消滅する可能性があるといわれている。われわれが目指すところは観光をフックにした地域経済の活性化と、地域誘客による移住定住の促進だ。そのための中核事業が、旅行事業、MICE・商社事業、受け入れ環境の整備の三つ。それぞれ外部専門人材の助言を受けながら進めている」

 「旅行事業では、奈良ならではの体験コンテンツを組み込んだ、訪日オーダーメイド旅行の販売などを行っている。コロナ禍の前から少しずつ予約が入り手応えを感じていたところだ。お客さまのリクエストには柔軟に対応し、特別感ある高付加価値商品をどんどん売っていく。旅館の1棟貸しなども手掛けたい」

 「超富裕層向けの旅行も手掛ける。県下では高級宿泊施設の開業が続いている。2年後には、日本財団の支援を受けて春日大社に宿泊・文化体験施設ができる予定だ。期待に応えられるサービス、コンテンツ提供ができるよう準備を進めている」

 「MICE・商社事業では、地域の商工会等と連携し、農林産物のオンライン販売や海外輸出も手掛ける。実際にアメリカで吉野杉などを使った家づくり事業にも着手している。MICEでは、橿原市や大和高田市に技術力のある中小企業の工場がたくさんあるので、アジアの工場関係者などをターゲットに視察旅行なども誘致していく」

 「受け入れ環境整備は、ホテル誘致のほか、地域人材の育成、移住定住の促進などだ。橿原市の『かしはらナビプラザ』の指定管理をしており、ここを拠点に外国人技能実習生と地元の中高生、お年寄りとの交流パーティーも企画している。母国で将来富裕層になるかもしれない彼らとつながりを深めることは重要だ」

 「旅行で地元のお年寄りの人柄に触れたのをきっかけにリピーターとなり、十津川村などに移住、起業する若い人や外国人も出てきている。地域おこし協力隊では任地の市町村に活動が限られる。VBで雇用した職員が各地域に入り地元の産業と関わりを持つ中で、起業、移住をする場合にはそれを支援するような仕組みも考えている」

 ――VBが運営する県の観光サイト「あおによし なら旅ネット」に流通オンラインプラットフォーム「ツーリズム・エクスチェンジ・ジャパン(TXJ)」を導入した経緯は。

 「なら旅ネットは年間300万人がアクセスする観光情報サイトだ。宿泊予約機能を持たせるなどして『稼げるサイト』にしたいと考えていたところ、TXJのシステムを知り、導入を決めた。TXJにより予約・決済サービスを持たせ、最終的には地元産品の購入のほか、飲食店や宿泊施設、体験コンテンツの検索、予約ができるようにする。宿泊予約は年内にAirbnbとGoogleトラベルとの連結を予定している。サイトコントローラーとも接続する予定だ。MICEについても、参加者専用の予約・購入ページを案内できるようにして、参加者限定の特別の土産物や体験コンテンツ、宿泊などを提供できるようにする予定だ」

 「TXJのマーケティング機能にも期待している。あらゆる商品の購買データが一括して閲覧、分析できる。売れている商品の情報を出店者にフィードバックすることで、売れるためのノウハウを共有し、商品ラインアップを充実させる」

 ――自立経営の見通しは。

 「現状、県からは人件費として9千万円程度補助を受けているが、事業とひもづいているものもある。現状、サイトの売り上げは物販収入がメインだが、高付加価値の旅行商品の販売などで4億円程度を売り上げ、自立経営を確立したい」

 ――人材確保も急務だ。

 「現在VB職員の平均年齢は30代前半と若い。地域に入り込み、地元の人とひざ詰めで話しながらコンテンツを作り上げていくにはまだまだ経験不足。アフターコロナの観光は、『光を観る』のではなくて、『光』を支えてきた『人』との触れ合いがカギだ。奈良は味わいある人柄の田舎のお年寄りや、本物を語れる職人など人の魅力に満ちている。そういった人に何度も会いに行きたくなるようなコンテンツを作って売れる、地域愛があり専門性の高い人材の育成を進めていきたい」

 

なかにし・やすひろ=1979年奈良県庁入庁。2011年奈良公園室長、16年観光局理事・まちづくり推進局理事など観光関連部局を歴任。17年から奈良県VB業務執行理事を兼務。18年から現職。京都府出身、64歳。

【聞き手・小林茉莉】

 
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