宿泊事業は「総合文化事業」
安全・安心・便利を創造 非接触対応型アプリ開発
――宿泊施設関連協会(JARC)とは。
「宿泊事業を“総合文化事業”としてとらえ、宿泊施設に寄り添う幅広い業界や業種の皆さまが垣根を超えて集うプラットフォームの構築を目指して、2017年11月に一般社団法人として当協会を設立した。事務所は全国旅館会館の2階に置いている。宿泊施設と取引のある企業・団体や宿泊施設など約160会員が加盟している」
――JARCの具体的な目標は。
「『海外進出』『ラストリゾート』『宿泊業の地位向上』の三つを掲げている」
「第一の海外進出だが、海外で働く134万人の日本人に心の安らぎを与える場所を提供するために、日本の宿泊施設の海外進出の後押しをする。そのために、海外ホテルに負けない経営・運営手法や品質向上のための方法を模索している。日本型ホテルの海外進出は、日本文化の発信にもつながる。現地の外国人の方々に日本型ホテルを通じて日本を体験してもらい、いずれ日本を訪れていただくことも目指す」
「第二のラストリゾートは、国内外の日本の宿泊施設が、有事の際に、その土地の人々の避難場所や緊急病院となり、人々の安全が確保される場所となれるように努力していくという意味だ。コロナ鍋の中で、各都道府県がホテルの一棟借り上げを実施した。また、先日九州を通過した台風10号では『ホテル避難』が話題となるなど、既に現実のものとなりつつある。勝浦ホテル三日月が、1月29日に政府チャーター機で武漢から帰国した日本人191人を受け入れたのはまさにラストリゾートのお手本だ」
「第三の目標は、宿泊業の地位向上。宿泊業に携わる人々の意識を高めていくとともに、宿泊業に必要なスキルが向上できるよう、共に歩んでいく。JARCでは各種セミナーを定期的に開催している」
――「ウィズコロナ安全行動基準プロジェクト」を5月に立ち上げた。
「JARCはホテルや旅館に関わる企業・団体の集まりだ。このプロジェクトは、新型コロナウイルスによる宿泊業界の未曾有の危機に対して、ノウハウ・知見・英知を結集して、宿泊施設の『安全・安心・清潔・エコ・コンビニエンス』を創造していくことを目的に始めた。『安全行動基準・教育』『防疫対応商材・機材』『非接触テクノロジー』『設計・デザイン』『衛生監査・指導』『訪日外国人プロモーション』『ユニバーサルフード・SDGs』の7分野で構成している」
――特に、非接触テクノロジーは、国内外で脚光を浴びている分野だ。
「ニューノーマル時代に対応する非接触対応型・ホテル旅館向けアプリを、私が会長を務めるホテルシステム会社のタップが、JARC会員であるパナソニック、日立情報通信エンジニアリング、ソフトバンクなど数社と組んで共同開発している。宿泊施設の利用者が、予約からチェックアウトまでを自分のスマホで実現できる仕組みを提供する。具体的には(1)モバイルチェックイン・QRコードによるカードキー発行(2)モバイルチェックアウト精算・電子レシート発行(3)(宿泊約款のモバイルでの閲覧など)客室内ペーパーレス化(4)カフェ・レストラン利用時のモバイルオーダー(5)モバイル端末による飲食店や大浴場などパブリックスペースの混雑状況把握―などの機能を備えたアプリ『tap(テクノロジー・アンド・パーソン)』を2021年1月にリリース予定だ」
「衛生管理対策として、接触サービスの削減、3密回避、コロナ禍における感染症リスクの軽減を実現し、利用者と事業者の双方に安全と安心を提供したい。来年の東京五輪で来日する諸外国の方々にも、このアプリで日本のアンタクト(コンタクトに否定を意味する接頭語のアンをつけた造語)技術を体験していただきたいと考えている」
はやし・えつお=1950年、東京都生まれ。71年日本工学院専門学校電子計算機部ソフトウエアコースを卒業し、石川島播磨重工業(現IHI)コンピュータ部入社。81年コスモ・エイティ設立メンバーとして入社、社長室配属。87年トーワエンタープライズ常務取締役に就任、ホテルシステム創業。89年タップに社名変更、代表取締役社長就任。現在、同社代表取締役会長、宿泊施設関連協会会長、立教大学「ホスピタリティ・マネジメント講座」講師、日本工学院専門学校情報ビジネス科ホテルコース・テクニカルディレクター。
【聞き手・江口英一】