日本旅行、新社長の経営ビジョン
コロナ禍でも生き残りへ コーディネート力に磨き
日本旅行の社長に今春就任した小谷野悦光氏に、同社の今後の経営ビジョンを聞いた。
――コロナ禍の厳しい中での就任。就任当初と現在の心境を。
「社員とその家族の生活を背負っているという責任の重さを改めて痛感している。みんなが夢と希望を持てる会社になるよう、しっかりとかじ取りをしなければと、今も肝に銘じているところだ」
――就任会見では「抜本的構造改革をスピード感をもって行う」と述べた。
「確実に歩を進めている。経営陣はもちろん、社員みんなが各自行ってきたこと、社内では『覚醒』と呼んでいるが、それぞれが持つ価値や能力を見つめ直している」
「われわれの力を発揮できるフィールドが、非旅行業も含めてもっとありそうだと認識している。今後に生かすべく、今はさらに検討を進めているところだ」
「今春から新型コロナのワクチン接種事業について、全国140超の自治体と10カ所超の大規模接種センターで運営のサポートをしている。ワクチン接種は観光産業はもちろん日本経済全体の復活にとって、ゲームチェンジの象徴だ。現在、グループ全体の力を結集して取り組んでいる」
「先日、ある地方紙が、ワクチン接種のコールセンターで奮闘する旅行会社の社員にエールを送る記事を掲載していた。社名は書いていなかったが、当社グループ社員のことだった。われわれとしては非常に励みになった」
「旅行業で培ったヒトやモノ、コトをワンストップでつないで価値を提供するコーディネートのノウハウが生かされているのだと思う。さらにその力に磨きをかけて、今後の業務にも生かせるようにしたい」
――本業の旅行業はどうか。同業他社がドラスティックな動きを進めている。
「それぞれ事情があると思う。われわれも生き残りを懸けている。今までも大きな固定費をかけず、“コンパクト”な経営を行ってきた。引き続き、需要を見極め徹底していく」
「店舗は単に廃止や縮小をするのではなく、機能を見直す。今はリモートなど非接触の接客にニーズが高く、社会の求める方向にシフトしている」
――伸長するウェブ販売への対策は。
「単純な移動や宿泊の手配は人を介さない、ウェブへさらにシフトするのだろう。そのニーズへの対応に加え、われわれはOTAでは担いきれない、人の知見を必要とするコーディネート機能をもって宿や地域の方々に貢献するというのも重要な役割であると考えている」
――今後の旅行市場について。
「今は旅行業が成り立たない状況だ。ただ、国を挙げてのワクチン接種が進めば、秋口から市場が動くのではと、希望的観測を持っている。私自身もそうだが、みんなリアルに動ける日常を渇望している」
「しばらくは感染症対策を平行して行わなければならない。旅行に関わる一つ一つの行動に安全を担保した新しいスタイルを考えなければならない。密を避けるなど安全策を徹底的に講じた安心できる旅行は、従来に比べて費用が割高になるかもしれない。サービスの価値というものを明確にし、われわれが再認識した上で、お客さまにもしっかりとご納得をいただき、ご利用いただければありがたい」
「インバウンドは秋以降に国が実施予定の『小規模分散型パッケージツアー』の実証事業を契機に早い時期の再開に期待している。相手国の立場になって、われわれの安全に関する受け入れ態勢がどうなっているかなど、しっかりと情報発信をする必要がある」
――旅館・ホテルなど、関係機関との関わりは。
「日旅連(日本旅行協定旅館ホテル連盟)の皆さまとは、リアルでお会いできる機会が少なくなり、今はほぼリモートになっている。それだけに、一方通行ではなく、より双方向で会話をできるようにと心掛けている。お互い生き残りを懸けて、知恵を出し、励まし合って、この過酷な状況を乗り切りたいと考えている」
「地方創生については、宿単独や、行政単独でできないことがあると思う。広域や、同じテーマを持つ複数の自治体をマッチングするなど、当社のコーディネート権能を発揮し、新しい価値を共創していきたい」
小谷野 悦光氏(こやの・よしてる)1958年生。慶応義塾大学卒業後、82年国鉄入社。01年日本旅行入社。国内旅行部長、経営管理部長、営業企画本部長などを経て20年副社長。21年3月26日付で現職。埼玉県出身、63歳。
【聞き手・森田淳】