環境省・観光への取り組み
国立公園へ訪日誘客拡大 温泉地新興し全体底上げ
――観光に対する環境省のスタンスは。
「自然を守り、良くすることを考えながら観光振興に取り組んでいる。環境省が所管する国立公園に関しても、観光客は自然を目当てに訪れている。貴重な自然を守ることと観光振興を整合する必要がある」
――国立公園の観光振興については。
「元々国立公園は、訪日客を増やし外貨を獲得することを目的にできた。アメリカでは営造物公園として国が直接的な管理をしているが、日本の国立公園は地域制として公園内で人の営みが行われていることが特徴だ。営みそのものも観光資源であり、自然と調和した生活が観光素材ともなっている」
――今後、国立公園はどう活用するのか。
「高度経済成長期は、ゴルフ場などの開発が進み、乱開発から規制で守る方向へシフトした。現在、開発圧は弱まったが、過疎化が進み、鹿など動物が増え、山の管理も行き届かず、これまで人の手によって守られてきた自然が守れない構造になっている。最近は、地域活性化として安易に開発を行わず、自然資源を守りながら、環境と経済を両立しながら活性化に取り組む地域が増えてきている」
――国立公園への訪日の現状は。
「増加している。2015年の利用者は約490万人だったが、2018年は約694万人へと増えている。中国や台湾、韓国の人をはじめ、欧米からも来ている。2016年から国立公園満喫プロジェクトを掲げ、先行8公園を中心に誘客に取り組み始めたが、今や34ある公園の全ての底上げに取り掛かっている。プロジェクトは、何のための外国人誘致、観光振興なのかを考え、整理しながらスタートした。今では、公園の利用者から協力金を集め、地域の環境保全への費用として使用する取り組みも進めている」
――より一層、訪日を誘客するには。
「各国立公園の特徴やターゲット国に合わせた戦略が必要だ。目的や需要にどう重点を置き、品質、価格、情報発信、インフラ整備などにどう対応するかは地域の考えとも整合性を図りながら、われわれも地域のDMOなどと連携し戦略を高めていく」
――廃屋の撤去の問題もあるが。
「訴訟や予算執行などを積極的に行い、実績は徐々に出てきている。観光旅客税を活用して廃屋を撤去し、民間施設の導入を促す事業を開始するなど、官民一体で取り組んでいる」
――地域活性化に向けた「チーム 新・湯治」の役割とは。
「温泉を所管する環境省では、温泉法など法律を運用するだけでなく、温泉地の積極的な活性化の問題提起をしている。チーム 新・湯治では、温泉地を中心とした多様なネットワークづくりを目指している。地域を活性化することは温泉地の保存につながる。温泉地は、温泉、自然、食、店など資源は豊富だ。温泉振興でなく温泉地振興を行い全体の底上げをしていく」
――温泉地への誘客で特徴的なものがあれば。
「環境省、農林水産省、観光庁、ANAなどが連携し、ONSEN・ガストロノミーの普及活動を行っている。フランスで発祥したガストロノミーウォーキングだが、日本では、自然と食だけでなく、温泉も楽しめるという特徴がある。この独自価値を生かし、今後は海外にもPRしていく」
――温泉地では地熱発電への反対の声もあるが。
「以前は国立公園の中で地熱発電の新たな開発は認めなかったが、規制緩和を行った。地熱発電の側でも高さを抑え、景観に配慮するなど、自然を守りながら開発できるはずだ。地元の人は見えないことに対してリスク、不安を感じている。地下の水の流れの分析や工事の手法など、しっかり説明しながら取り組んでもらいたい」
――政府が掲げる「観光立国実現」の関わり方は。
「二つある。一つは、国立公園や温泉などフィールドを生かした取り組みを進めることだ。地域が元気になることで、自然環境の保全につながるストーリー、仕組みづくりを大事にして進めていく。もう一つは、環境省が所管する自然や生物多様性にかかるPR活動だ。多様な日本の動植物など、自然の価値を伝えることを通じて観光に貢献する。各国立公園事務所にいるレンジャーを中核に、自然保護、利用推進のマネジメントも重要と考える」
――観光業界関係者に向けて一言。
「訪日客が急増するなど、観光は外貨獲得が見込める一大産業として成長している。この勢いは大事にするべきだ。ただ、なぜ増えたのか、日本の値打ちはどうなのかを今一度考えてほしい。また、各所が連携を深めながら、歴史や文化、自然、食、ホスピタリティなど求められるものを磨き上げてもらいたい」
※もりもと・ひでか=大阪府出身。東大法卒、1981年環境庁(当時)入庁。大臣官房廃棄物・リサイクル対策部企画課長、大臣官房審議官、原子力規制庁次長、大臣官房長などを歴任。2017年7月に環境事務次官。19年7月に退官し、現職。
【聞き手・内井高弘】