アイヌ民族の歴史・文化を未来につなぐ
来場者26万人、教育旅行で道内外から748校 5万8354人
先住民族アイヌの文化復興拠点として国が北海道白老町に設置し、アイヌ民族文化財団が管理運営する「民族共生象徴空間」(愛称・ウポポイ)が7月12日、開業1周年を迎えた。
新型コロナウイルスの感染拡大で、開業が当初の4月から7月にずれ込み、開業後も感染防止対策のため1日の入場者数を制限。さらに今年6月には、緊急事態宣言を受けて一時休園とするなど、苦心の運営を余儀なくされてきた。
こうした状況の中で、来場者数の実績は、約26万人(7月12日現在)と、当初目標の4分の1にとどまったが、コロナ禍で制約が多い中、多くの人がウポポイを訪れ、アイヌ文化の世界に触れる機会を持った。
なかでも教育旅行での利用が目立ち、道内外から748校、5万8354人の生徒たちが来場。
博物館の展示やユネスコ無形文化遺産に登録されている古式舞踊の見学、ムックリ(口琴)の制作体験などを楽しみ、アイヌ民族の歴史・文化に対する理解を深めた。
また、地元白老町においても、ウポポイの影響は大きく、隣接地での大型ホテルの建設や、町中心部での土産品店や食事処の開業、ガイド組織の結成など、観光や町の活性化に向けた取り組みが活発になっている。
開業1周年、そして、2年目がスタートしたウポポイ。
博物館では、7月3日から8月22日まで、アイヌの少女らが活躍する人気漫画「ゴールデンカムイ」の特別展を開催。7月17日から夜の営業日には、アイヌ神話をテーマにしたプロジェクションマッピングも始めた。
財団では、引き続き、感染対策と同時に、来場者のニーズに応えたホリディイベントや体験メニューの充実、予約システムの改善など、より多くの人に足を運んでもらい、理解の深めてもらう取り組みに力を注いでいる。
そこで、開業1周年を迎えたウポポイを紹介する。
愛称「ウポポイ」
民族共生象徴空間の愛称の「ウポポイ」は、アイヌ語で「おおぜいで歌うこと」の意。アイヌ文化の復興拠点にふさわしい愛称として選び、一般投票を行って決められた。
ウポポイは、白老町ポロト湖畔10・6ヘクタールの敷地に国が2017年から総工費約200億円をかけて建設。昨年7月12日にオープンした。
国立アイヌ民族博物館のほか、体験交流ホール、体験学習館、工房、伝統的コタン(集落)などがある民族共生公園と慰霊施設で構成。
博物館では特別展も
入場して正面にあるのがアイヌ民族博物館で、ポロト湖と広場を前にして建つ2階建ての近代的な建物。アイヌ民族をテーマとした初の国立博物館で、アイヌ民族の歴史や文化をたどる貴重な資料約1万点を収蔵し、常時800点を展示。
30年ほど前に道東の厚岸町で発掘された江戸時代の丸木舟「イタオマプチ」も展示されており、随時、特別展なども開催する。
交流ホールなどで
博物館の左手には、体験交流ホールと体験学習館があり、半円形のステージを囲む客席の体験交流ホールでは、ユネスコ無形文化遺産に登録されているアイヌ古式舞踊を上演。ステージが近く、出演者の表情を身近に感じ取ることができる。
隣の体験学習館では、教育旅行での食体験のほか、来場者が伝統楽器の演奏や調理などの体験ができる。
工房やチセでは
博物館の右手には、木彫り、刺しゅうの製作実演の見学や体験ができる工房と、茅葺き家屋「チセ」でつくるアイヌ民族の伝統的な集落「コタン」がある。「チセ」の中では、アイヌの暮らしの解説や口承文芸の実演も行われる。
中央部にあるのがポロト湖からの爽やかな風を受ける広場と野外ステージで、ここでも伝統芸能などの披露が行われる。
また、入場口のあるエントランス棟には、案内所のほか、アイヌの伝統料理を出すレストランや記念グッズを扱う売店がある。
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