【特集】宇奈月温泉開湯100周年記念トップ座談会


 宇奈月温泉(富山県黒部市)は今年開湯100周年を迎える。100を越える記念事業が予定されていることに加え、新観光ルートの「黒部宇奈月キャニオンルート」(以下キャニオンルート)の旅行商品販売も始まる。その後は北陸DC、北陸新幹線敦賀開業が控えており、黒部や宇奈月温泉と歴史的につながりが深い関西地域ではいよいよ大阪・関西万博が開幕する。100周年をきっかけに始まる黒部や宇奈月温泉の取り組みについて黒部市の観光関係者トップと意見を交わした。

出席者(順不同)

武隈 義一 氏
黒部市 市長

河田 稔 氏
開湯100周年事業実行委員会 委員長
宇奈月温泉自治振興会 会長

濱田 政利 氏
宇奈月温泉旅館協同組合 理事長

鈴木 俊茂 氏
黒部峡谷鉄道株式会社 代表取締役社長

川端 康夫 氏
(一社)黒部・宇奈月温泉観光局 代表理事

 

 ――宇奈月温泉の観光について武隈市長からお願いします。

 武隈 私は黒部には18歳までおり、その後東京へ。全国を点々とし中国北京にも3年いた。去年黒部に戻り4月に市長になった。黒部と宇奈月との合併で、山から海まである街となったことをアピールしていきたい。例えば温泉街と海岸を結ぶサイクリングを提案していきたい。自然の良さも知られているので黒部産の食材のブランド化も進めたいと考えている。

 黒部市は黒部ダムがあることで全国的知名度が高いと感じる。黒部峡谷だけを目指す観光客が多いが、白馬など広範囲で周遊する観光客もいるので広域連携を進めたい。とくに北陸新幹線では金沢との連携や相互交流にも力を入れている。地元には観光や食、街づくりなど素晴らしい取り組みを行っている人が多いと感じる。そういった人たちに話を聞くなど「人に会う観光」を新たに取り組んでいきたいと考えている。

 インバウンドについては日本のホテルは施設が整っていて今は円安でお得感があると思う。中国人観光客からすると海があり山があり、空気が綺麗なだけでも観光になる。地元の私たちにとっては当たり前だと思っているが重要な観光資源だ。中国に赴任していた時期もあるので、そういったネットワークも生かしながら、インバウンドの拡大を図っていきたい。

 

 ――宇奈月温泉100周年はどうか。

 河田 宇奈月温泉は1923年(大正12年)に開湯。日本の温泉の歴史としてはそれほど長い歴史ではないが、100年の中には宇奈月温泉ならではの様々なストーリーがあり中身の濃い100年だ。出発が明確で電源開発から始まったのも特徴。電車は電源開発の為の資材輸送と近隣の交通にも役立てようと走り出した。宇奈月には新しい温泉郷を作ろうと温泉が引かれた。単なる温泉郷ではなく大正時代にスキー場やテニスコート、遊園地などを備えた開発が進められた事は他の温泉地にはない。日本の皇族や政治家、文人墨客が多く訪れた。これだけの知名度の温泉地になるには電力会社が中心となり温泉郷づくりを進めたことや地元の努力があった。

 順調に来たわけではなく、昭和初めの世界恐慌の時は落ち込んだこともあった。例えば宇奈月の花火大会が毎年8月にあるが、厳しい時期に元気をつけるために花火をやろうとスタートしたものだ。戦争中も戦火にこそ見舞われていないが、「宇奈月温泉は全部休業します」と旅館が連盟で新聞広告を出したこともある。戦後は大火に見舞われたこともあった。日本の高度成長期に乗り多くの旅行客が来た。関西電力が地方鉄道業法の許可を得て「黒部鉄道」として営業をスタート。昭和40年代になり黒部鉄道が独立し「宇奈月温泉は観光で行く」となった。昭和30年までは黒四(くろよん)の発電所作りで工事関係者が来るなど様々な恩恵があったが、それが終わり観光一本となり、トロッコは独立、温泉は大型旅館化や施設を改善していく、そういった時代の流れや景気の動向、観光のニーズに連動しながら宇奈月温泉は歴史を辿ってきた。近年は北陸新幹線金沢開業で観光客が回復し主に首都圏からの観光客が増加した。今年は開湯100周年を迎え、来年度にはキャニオンルートの一般公開、北陸新幹線敦賀開業、その後大阪・関西万博などに繋がる。この2、3年は次の100年に向けて大事な時期だ。

 

 ――キャニオンルートについては。

 鈴木 キャニオンルートの一般公開を決めたのは関西電力。ルートそのものは関西電力の水力事業の施設。黒部峡谷鉄道としては水力事業も手伝っており、観光事業としては観光客を安全に運び感動してもらい、無事帰ってもらうことをしっかりとやりたい。

 キャニオンルートの一般公開に向けて大きな盛り上がりは予想できる。立山黒部アルペンルートとともに世界の観光地としてのポジションは絶対に上がると考えている。世界から旅行者が来てどう対応していくかを考えると、「黒部ダムが有名」だが、私自身は広範囲で考えている。私は関西の出身でもともと電力事業に携わっていた。電力事業は川筋全部でやっていること。歴史でいうと下流から順番に開発されてきた。私が黒部を案内する時も、いきなり黒部ダムが出来たわけではなく、まず宇奈月の街が出来て、鉄道、下流から発電所が出来ていったという経緯を考えて話す。目指すポイントはダムかもしれないがもっと手前の話をしても良いと思う。

 もう一つ思う事はもっと周辺も紹介すればよかったという事。宇奈月温泉の泉質の良さや浜の方には生地(いくじ)というところがあり湧き水が沸いているとか。

 先ほど転換点という話があったが黒部峡谷鉄道の乗客は平成6年の137万人をピークに100万人を超えていたが、今60万半ばまで減った。ずっと右肩下がり。旅行のトレンドが会社の慰安旅行から個人旅行へ変わり、来る人が減った。

 トロッコだけでなく、トロッコプラスアルファというか「黒部宇奈月エリア」で勝負しないと競争に負けると考えている。

 またキャニオンルートには、電源開発の歴史の中では尊い犠牲もあった。関西電力としては、畏敬の念や、想いを馳せてほしいという気持ちがあることを知ってほしい。

 

 ーー地元の状況や取り組みについては。

 濱田 北陸新幹線金沢開業から右肩上がりで在来線と比較して300%と、いかにインパクトが強いか分かる。逆に言えば東京からいかに日本海側へ来ていなかったかだ。この効果は勢いがついたところに2019年の台風で落ち込んでしまった。復旧は早くJR東日本とJR西日本にはとても感謝していたが翌年からコロナ禍へ突入し温泉街は危機的な状況となった。復活を掛けるのが100周年記念事業であり、今後の取り組みと言える。宇奈月温泉の各施設は国からの高付加価値推進化事業を取り入れてリニューアルを実施し質の向上を図っている。旅館で黒部ブランドの話にも繋がる地元の野菜をもっと使う取り組みも検討されている。小さな温泉街だが様々なタイプの宿泊施設があるのが宇奈月温泉街の強みだ。また、コロナ禍で富山地方鉄道のアルペンルートに接続する直通電車が廃止された。行政からの支援で宇奈月温泉から室堂まで直通バスを走らせるようになった。今年も4月末から10月中旬の土・日と夏休み期間の毎日運行する予定。観光客には便利なものになっている。北陸新幹線の開業で宇奈月温泉での滞在時間も伸びる。宇奈月ダムまでいくことや元気な人はさらに露天風呂のある温泉施設「とちの湯」まで行ける。宇奈月温泉の泉質の良さや透明感をもっと体感してもらいたい。電気バスを利用するのもおすすめだ。黒部川電気記念館もリニューアルされる。

 川端 私は個人的にも旅行が好きでANAの「ワンダーアース」という商品などでヨーロッパの様々な場所へ行った。ホテルに泊まらず原野に泊まるとか南極にいくとか様々なツアーがある。富裕層向けの旅行商品や特別な体験を提供している。観光庁がアドベンチャーツーリズムを推奨しているが、黒部や宇奈月で考えれば、閉鎖時の冬のアルペンルートや冬の室堂が思いつく。スキーが得意な人であればスキーで滑降したり、スノーモービルで移動するなどが思いつく。これであれば世界の富裕層に提案できるのではないか。

 色んな旅をしてきたが宇奈月のポテンシャルは高い。旅はストーリー性だと思う。ポイントも大事だがどういう風にストーリーを作っていくか。黒部はストーリーを作りやすい。歴史もあるし自然もある。魅力ある商品が作れる。北海道に比べるとアクセスも非常に良い。高付加価値化や、文化観光も推進したい。

 ――セレネ美術館を高く評価する声もある。

 河田 美術館に関しては30年前に平山郁夫氏をはじめとする日本画家に黒部峡谷の大自然を描いてもらった。それが評価されている。音楽でも芸大と繋がりが出来てきた。そういうところから宇奈月の価値が生み出せるのではと期待している。

 

一般社団法人 黒部・宇奈月温泉観光局
〒938-0802 富山県黒部市若栗3212-1
黒部市地域観光ギャラリー TEL:0765-57-2851
https://www.kurobe-unazuki.jp/

 

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