【特集】草津温泉の観光まちづくり その変遷と未来


 「にっぽんの温泉100選」で、20年連続第1位という偉業を成し遂げた草津温泉(群馬県草津町)。他の温泉地からは「どうしてこんなに強いのか」というため息が漏れる。行政・議会、観光業界、商工会、そして住民が一体となっての「観光まちづくり」が旅行業者の支持を集めている。これまでの歩み(取り組み)や将来像をキーパーソンに語っていただいた。

 

20~30年前の草津温泉

市川薫さん(湯の華会初代会長、ホテル一井)

 

アクセス

 草津温泉のネックは交通アクセス。見放されていた場所と思っていました。最寄りの駅は隣町で草津には電車もなく、新幹線整備も草津を囲うように行われ、車利用でも最寄りのインターから時間がかかります。こんな環境下、お客さまに来ていただけるのか不安でした。

湯の華会

 特筆されるのは1996年に女将の会「湯の華会」ができたことです。背景には、(1)女性をターゲットとしたマーケティングの必要性(2)宿の中にとどまるのではなく、積極的に話し合える雰囲気づくり―があり、地域一丸となるため、施設の規模を問わず、多くの女将さんに出席を呼び掛けました。

 

黒岩裕喜男さん(草津温泉旅館協同組合理事長、草津温泉望雲)

 

ブランディング

 地域をどうにかしたいという思いは観光関係者共通のもので、ブランディングのため、「草津温泉ブラッシュアップ計画」や「草津の冬を考える会」を発足させました。

 どのようにしてお客さまに来ていただけるか、満足してもらえるか―を考え、いろんな視点から話し合った結果、「温泉しかない、ではなく、温泉がある」という考えにたどり着きました。そして2001年、「泉質主義」を打ち出しました。

 草津の温泉力として、(1)自然湧出日本一だからこそできるぜいたくな源泉掛け流し(2)研究に基づいた殺菌力の高い酸性で、希少価値の高い成分が含まれている(3)自然の恵みである温泉をより大切にするマインド(4)観光関係者だけでなく、町民もおもてなし精神でお客さまを迎える―などが挙げられます。

 

まちづくり

 まちづくりについては、温泉+アルファの重要性を、行政と連携しながら、地域ごとに景観を整える大事さを話し合うことを基本に据えました。それが高い評価を受けるまちづくりにつながったと思います。

 

100年先を見据えたまちづくり

黒岩信忠さん(町長)

 

歴史をなぞる

 草津温泉の中心は何といっても「湯畑」。まちづくりのスタートはここから始まりました。湯畑を再整備することにより、シャンパンタワーのように町は形成され、人流を生むのです。

 初めに取り組んだ再整備は、湯畑周辺の宿の跡地にあった駐車場と「熱乃湯」、江戸から明治の建物を再建した「御座之湯」。湯もみ会場である熱乃湯を大正ロマン風の建物にリニューアル。昭和レトロを感じる憩いの場である「湯路広場」を3カ年にわたり再整備しました。

 時代の変遷を描くことで草津温泉が古くから栄えた場所としての象徴としました。そして現代や未来に建設される建物と融合させる。ここから100年先も進化を続ける温泉街の地域全体の再整備が始まったのです。

 

夜のまち歩き

 次に取り組んだのは各所をライトアップする事業。湯畑、西の河原公園、国立公園内にある丸山と、順にライトアップしました。

 湯畑については、そこにライトを当てるのではなく、湯けむりに当てる。湯けむりは1秒ごとに姿を変えるので、見るたびに、写真を撮るたびに景色が変わります。また、ライトアップすることで夜までまち歩きを楽しめる。夜の湯畑周辺はお客さまの楽しそうな声でにぎわうようになりました。

 

裏草津

 湯畑や西の河原通りなど、にぎやかな温泉街を”表”とすると、静かな時を過ごせる場所として「裏草津」と名付けました。昔栄えた地蔵エリアにスポットを当てることにより、まち歩きの幅を広げることにしました。

 草津温泉で唯一「顔湯」を楽しめるのは裏草津地蔵だけ。「漫画堂」「百年石別邸」「伝統湯地蔵」といったここでしか味わえない独自の施設があり、定番の温泉旅行にアクセントを加えました。

 

温専門

 温泉街の入り口に当たる道路は構造が複雑で渋滞が起きやすい。改善するために立体交差を設けることにしましたが、無機質なコンクリートでは町の趣に沿わない。木造りの門とすることで歓迎の意を表し、来訪者の到達感を高揚させようと考えました。

 門の側にはミニ湯畑を整備、道路向かいには100台止められる無料駐車場を備える。バスターミナルに続く通りは植樹をし、歩道を設置します。

 

スキー場

 草津温泉スキー場は2018年の噴火によりコースが半減しました。これを受け、初心者、ファミリー、そして訪日客をターゲットとした親しみやすいスキー場にすることにしました。

 グリーンシーズンにも利用できるスキー場としてジップラインやブランコを設置。来シーズンまでには連結式ゴンドラを麓のゲレンデに設置します。ジップラインの横には眺望に優れたレストハウスを建てる。お酒も飲め、星空観察を楽しめるような施設にします。

 草津温泉のまちづくりにゴールはありません。常に進化を続け、この先もずっと、何度もお越しいただいても楽しめる温泉観光地とするのが夢です。

 

草津温泉は進化する

山本剛史さん(草津温泉観光協会会長、㐂びの宿高松・和える宿高松)

 

協会の役割

 草津温泉はさまざまな発展を遂げてきました。行政だけでなく、民間も外観、内装、ソフト面で多様な進化をしています。

 現状、20~30代を中心とした若年層のお客さまが多い。一度だけでなく、何度でも足を運んでいただける仕組みづくりが協会の仕事です。

 「草津のドレスコートは浴衣でしょう」といわれるぐらいの温泉情緒あふれるまち並みにするのが目標です。

 まち歩きを促すためにARを活用したイベント、アプリを活用した音声ガイド、手形を購入して参画施設を訪れると特典を受けられる「まち歩き手形事業」などにチャレンジしています。施設もコンテンツも多様化し、バラエティあふれる温泉地にします。

 

草津の人々

 観光しかない、温泉を大事にするマインドから、草津の人はとても仲がいい。一丸となってまちづくり、おもてなしをやってきました。

 

魅力と進化

 温泉そのもの、浴衣歩きの楽しいまち並みは写真スポットもたくさん。旅館・ホテル、ペンション、民宿など多様な宿泊施設も選び放題。飲食店でのお酒や食事も充実。自然に囲まれて、まさに温泉旅行のすべてを体感できる場所なのです。

 温泉文化を世界に発信できるような温泉地になりたい。これから先も、日本人、外国人双方がご満足いただける町にしていきたい。飽きさせないよう、これからも進化を続けていきます。

 

拡大

 

 
新聞ご購読のお申し込み

注目のコンテンツ

第37回「にっぽんの温泉100選」発表!(2023年12月18日号発表)

  • 1位草津、2位下呂、3位道後

2023年度「5つ星の宿」発表!(2023年12月18日号発表)

  • 最新の「人気温泉旅館ホテル250選」「5つ星の宿」「5つ星の宿プラチナ」は?

第37回にっぽんの温泉100選「投票理由別ランキング ベスト100」(2024年1月1日号発表)

  • 「雰囲気」「見所・レジャー&体験」「泉質」「郷土料理・ご当地グルメ」の各カテゴリ別ランキング・ベスト100を発表!

2023 年度人気温泉旅館ホテル250選「投票理由別ランキング ベスト100」(2024年1月22日号発表)

  • 「料理」「接客」「温泉・浴場」「施設」「雰囲気」のベスト100軒