【特集】魅力あふれる精進文化の都・安東


“地方都市”ならではの体験を

「韓国精進文化の首都」をキャッチコピーに、観光開発に力を入れる地方都市・安東(アンドン)。朝鮮時代の伝統文化を学び、体験できる観光地や、現地で味わいたいグルメを紹介する。

韓国の東南部に位置する慶尚北道は、山や海、平原に囲まれた自然豊かな地域。安東、慶州などをはじめとする22の市と郡で構成され、都会と田園地帯のライフスタイルが共存している。

慶尚北道の中でも内陸に位置する安東は、韓国高速鉄道(KTX)でソウルから約2時間とアクセスが便利な地域。朝鮮王朝時代を代表する儒学者・李滉(リ・コウ)氏の故郷としても知られており、現在でも朝鮮時代の建築物や文化がそのまま現存、まるで朝鮮時代にタイムスリップしたかのような歴史を感じられる。1999年には英国のエリザベス女王が、2019年には女王の次男アンドリュー王子が安東を訪問したことでも一躍話題になった。16年には、道庁が大邱から安東に移転。ユネスコ世界文化遺産に登録された「河回村」と同様、道庁の新庁舎も観光名所として定着しつつある。

安東は韓国で面積が最も広い市で、山に囲まれた盆地のため、夏は暑く、冬は寒い気候を生かした名産品がそろう。安東を代表する「安東チムタク」「安東焼酎」「安東塩サバ」をはじめ、リンゴ、山芋、唐辛子、イチゴは国内生産の多くを安東が占めるなど、韓国を代表する農業産地としての顔も併せ持っている。

安東の南に位置する大邱(テグ)は、慶尚北道の南に位置する広域市。もともと慶尚北道の一部だったが、1981年に直轄市となり分離した。現在はソウル特別市、釜山広域市に次ぐ韓国第3の拠点都市としてにぎわう。主要空港の一つである大邱国際空港、KTXの駅など交通のインフラが整備されているため、周辺観光地へのアクセスも良く、慶尚北道への観光拠点として併せて訪れたい。

 

安東チムタク 安東代表するしょうゆ料理

安東は、しょうゆベースの甘辛ソースが特徴の郷土料理「チムタク」=写真=の発祥の地。鳥1羽を丸ごと使い、ニンジン、玉ネギなどの野菜、鷹の爪、弾力のある春雨「唐麺(タンミョン」)などを強火でじっくり煮込んだ、食べ応えのある料理で知られている。同じ鳥料理に粉唐辛子で味付けしたタッポックムタンが挙げられるが、チムタクは辛みが少なく、しょうゆになじみのある日本人観光客にも好まれている。

大皿料理のチムタクは韓国の家庭料理に出されることは少なく、より本格的な味を求めて専門店まで足を運び食事をするのが一般的。また、韓国の食堂で注文すると小皿に盛り付けられたさまざまなおかずが提供されるが、ボリュームのある安東チムタクには白ご飯と大根の漬物のみで、シメには残ったスープにご飯を入れて食べるのが地元流だという。

百年以上の歴史を誇る安東旧市場内、30軒以上の専門店が軒を連ねる「安東チムタク横丁」では、店の前で調理をする様子を見学できるほか、各店舗がしょうゆにこだわった個性あふれるチムタクを楽しめる。

30軒以上の専門店が並ぶチムタク横丁

 

河回村(ハフェマウル) 川に囲まれた世界遺産の村

河回村=写真=は、600年の歴史を継承する氏族村。2010年、村全体がユネスコ世界文化遺産に登録され、今や安東のシンボルともいえる存在となった。大儒学者として知られる柳雲竜や、文禄・慶長の役の時に功を立てた柳成龍をはじめ、多くの偉人を輩出してきたことから、朝鮮半島南部を代表する支配階級「両班」の村として位置付けられているほか、豊山柳氏の発祥地でもある。

村の名前は、韓国最長の川「洛東江(ナクトンガン)」が、村全体をS字型を描くように流れていることに由来する。また、一般的な韓国の家は南、東南向きが多い一方、河回村では樹齢600年のケヤキの木を中心に川に向かって配置されているため、家の向きが一定ではないのが特徴。現在も約100以上の世帯が生活(うち7割は豊山柳氏)しており、人々の暮らしを垣間見ることができる。

村を訪れた人に伝統を知ってもらおうと、現在でも伝統芸能が披露されている。毎年秋に開催される「安東国際仮面舞フェスティバル」では、重要無形文化財にも指定、ユーモアのある表情の仮面をつけた踊りが見どころの「河回別神グッ仮面劇」、伝統花火「ソニュウチュルブルノリ」が開催され、人々をもてなす。

豊山柳氏の大宗家。男性が生活する空間(右手)と、女性が生活する空間(左手)が段をつけて建てられ、儒教の厳格な男女の区別が明確に表れている

村の所々で見ることができる仮面劇のお面

 

月映橋(ウォリョンギョ) 月に照らされた夜景スポット

 安東駅から車で約5分、象牙洞と城谷洞をつなぐ安東湖にかけられた月映橋=写真=は、2003年に開通した長さ387メートル、幅3.6メートルの木造人道橋。先だった夫のために自分の髪の毛で作った一足のわらじの形がこの橋の形になったと伝えられており、橋の真ん中には「月映亭」と呼ばれるあずまやが存在感を放つ。湖の周りには桜の木が植えられ、春には花見客でにぎわう。

夜には橋全体がライトアップされ、三日月型の「ムーンボート」に乗りながら月に照らされた美しい夜景が楽しめる。

 

安東カルビ カルビ横丁で骨まで味わう

 安東カルビ=写真=は、鮮度の高い牛肉を手ごろな値段で楽しめる安東名物の一つ。店のメインメニューは注文後ににんにくをもみ込んだ「にんにくカルビ」、しょうゆで味付けした「味付けカルビ」などで、炭火でしっかり焼き、うまみを引き出す。サンチュやエゴマの葉の上に焼いた肉、にんにく、緑唐辛子、みそなどを包んで食べるのが一般的で、肉を楽しんだ後は、カルビに付いた骨と野菜を一緒に蒸した「カルビチム」で、心ゆくまで食欲を満たしてくれる。

 安東駅の近くの路地にある「安東カルビ横丁」では、長さ約100メートルの路地に約10店舗のカルビ料理店が集い、地域住民にも親しまれている。

 

ユッケビビンバ 韓牛の産地でユッケを堪能

 慶尚北道は韓国を代表する韓牛産地の一つ。中でも鮮やかな紅色の肉が入ったユッケビビンバは、安東でしか味わうことができないと、多くの観光客が訪れる。

 ビビンバは牛肉や野菜など、さまざまな具材を「混ぜて(=ビビン)」食べる具入りご飯。生ものであるユッケは鮮度が命であるため、周辺のと畜場で1~2日内にと畜された新鮮な肉のみを使用、あえて脂身の少ない赤身を使うことで味の全体バランスが保たれる。また、通常のビビンバと違い、火の入っていないユッケが入っているため、あら熱が取れた状態でご飯と具材が提供されるのもユッケビビンバならではの特徴。

 安東にある人気肉料理店「景福宮」のユッケビビンバ=写真=は、素材本来の味を引き出すため、化学調味料は一切使わず、自家製のみそやしょうゆなどで味付けしている。

 

慶尚北道の観光拠点大邱 思惟園(サユウォン) 考える庭園で人生を回顧

 広大な樹木園「思惟園」は、緑豊かな自然環境に囲まれたウェルネス観光地。大邱市の財閥企業が山を購入後、50年もの歳月をかけ整備し、2021年9月に開業した。「思惟=心で深く考える」の意の通り、「考える庭園」の名を持つ園内には、瞑想(めいそう)スペースが至る所に設置され、自身の人生を振り返る貴重な時間を過ごせる。

 園内の設計、施工には、日本の建築家・川岸松信氏も携わり、松や紅葉など日本庭園の要素を散りばめ、四季ごとに異なる表情を見せるよう設計した。建築と自然の調和を大事にしているため、飲食物の持ち込みは禁止されており、ごみ箱や看板も最低限のみ。入場者までも1日300人までと制限されている。

 園内を1周すると約3時間。入り口から約40分の登り坂を進むと、108株のカリンの木(推定樹齢200年)=写真=が出迎える。元々日本に密売される予定だったが、「この土地の木はこの地に植えたい」という創業者の強い愛国心により買い取られ、園内に植えられたという。園内のカフェでは、カリンを使ったドリンクも楽しめる。

 同園はネットフリックスドラマ「涙の女王」のロケ地となったことで話題になったが、「今後ドラマなどの撮影は予定していない。本来の園の在り方や意義を知っていただき、長く愛される場所でありたい」と担当者は話している。

瞑想スペースが園内の至る所に設置されている

素足で園内を歩く健康法が観光客に人気

 

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