ニュージーランドでは、欧米からの遠隔地というハンデを跳ね返し、観光産業のブランド力強化を図るために、宿泊施設やアクティビティその他観光サービスを提供する事業者全般を対象に「クオールマーク」という品質認証制度を導入している。
クオールマークは安全、設備、カスタマーサービスなど業種別の品質基準を満たす公的な認証マークである。筆者が初めてニュージーランドを訪れた時には、このマークがついた施設などを利用することにより、質の高いサービスを安心して受けることができた。
周知のように、品質認証制度は希望する宿泊施設に対して公開された調査項目に基づいて第三者の調査員が中立的、客観的に評価・認証する仕組みだ。この認証により、同じタイプの施設において「その品質が信用できる施設である」ことを証明できる。
品質認証は、第三者が非公開の調査項目を用いて調査する「格付け」とは異なるし、集約機関の依頼によって消費者がそれぞれの視点で評価し、公開される「口コミ評価」とも違う。また、施設自らが調査項目を記入・整理して情報公開を行う「情報開示」とも違うのである。
国内の品質認証制度として初めて取り組んだのが「サクラクオリティ」だ。これは、中部圏社会経済研究所(現在は観光品質認証協会)がクオールマークを手本に始めたものだ。2011年には雪国観光圏で導入され、現在は37軒の宿泊施設で活用されている。
この制度は、宿泊施設などさまざまな観光サービスに対して利用者から求められる価値を極力具体的に記述し、客観的な判断基準になるように体系化したチェック項目300以上から成る。調査員による調査を経て5段階で評価され、公開される。
観光、とりわけインバウンドにおける品質認証制度の必要性を一貫して主張してきた雪国観光圏代表の井口智裕さんは、導入のメリットとして「地域にとって観光サービス水準の底上げになるし、他の観光地との差別化のツールになる」と力説する。
また、「事業者にとっても現状の強みと弱みを客観的に把握でき、改善のヒントが得られると共に、従業員全体で品質向上を図る際のツールとして活用できる」と述べ、これにより事業者の意識を高め、地域観光の質を向上させることができると評価する。
これらの実績を受け、国土交通相により認定された観光圏13で構成する「全国観光圏協議会」は、先般の会議でインバウンド観光のさらなる促進・定着には「品質認証制度の導入が必須である」と再確認し、全観光圏でサクラクオリティの本格的、積極的な導入を決めた。
観光圏協議会のアドバイザーを務める筆者としては、この動きが観光圏以外の地域にも品質認証制度を広げるきっかけになればと期待している。地域自らが品質保証にコミットすることにより、量ではなく質重視の観光へ転換することは急務の課題だ。
(大正大学地域構想研究所教授)