日本では長らく「広域連携」が重要課題であった。しかし現実には構想倒れに終わることが多かった。総務省は人口減少・少子高齢化が現実化する中で、新しい広域連携のあり方として「地方中枢拠点都市圏」の推進を図っている。
地方圏において相当の規模と中核性を備える圏域の中心都市が近隣市町村と連携して、いわば「地方が踏みとどまるための拠点」として機能することが期待されている。
具体的には圏域全体の経済成長のけん引、高次の都市機能(高度医療、高等教育・研究開発など)の集積、圏域全体の生活関連機能サービス(病院群輪番制の充実、地域公共交通ネットワークの形成など)の向上が期待されている。
私は新しい広域連携のあり方として「日本遺産」の動きに注目している。2015年に始まった日本遺産は、地域の歴史的魅力や特色を通して日本の文化・伝統を語るストーリーを基礎にしている。
そのようなストーリーを語る上で欠かせない魅力溢れる有形・無形の文化財群を地域が主体となって総合的に整備・活用し、国内外への戦略的発信によって地域活性化を図るために日本遺産が認定されている。15年に18件、16年に19件が認定された。政府は20年までに100件の日本遺産を認定する予定だ。
認定された「日本遺産」の中で広域連携に寄与するものがある。いわば「ストーリーによる広域連携」といえるものだ。
例えば「近代日本の教育遺産群」は水戸市の旧弘道館・日新塾跡、足利市の足利学校、備前市の旧閑谷学校、日田市の咸宜園跡による広域連携だ。
同様に「四国遍路:回遊型巡礼路と独自の巡礼文化」「鎮守府 横須賀・呉・佐世保・舞鶴:日本近代化の躍動を体感できるまち」、「北総四都市江戸紀行・江戸を感じる北総の町並み:佐倉・成田・佐原・銚子 百万都市江戸を支えた江戸近郊の四つの代表的町並み群」、「日本最大の海賊の本拠地:芸与諸島よみがえる村上海賊“Murakami KAIZOKU”の記憶」(今治市、尾道市)などである。
日本遺産は、地域の知名度の向上、地域住民のアイデンティティの再確認、地域のブランド化が意図されているが、おのずと地域観光振興に貢献できる。「ストーリーによる広域連携」を目指す日本遺産の場合には当然のことながら広域観光に寄与できる。
観光産業は日本遺産を支援して、新たな「より望ましい文化観光」の推進を図るべきだ。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)