JR東日本、JTB、立教大学を経て、現在大正大学に籍を置いている。この間、常に現場に寄り添うことを信条としてきた。そのためか、一度関わった現場にはずっと通い続けているところが多い。福島県の只見川、伊南川流域にある只見町など7町村から成る奥会津もそうだ。
JR東日本在任中に、只見線のSL(蒸気機関車)復活を契機にお付き合いが始まり、「新編“歳時記の郷”奥会津活性化計画」策定のアドバイザーを務めた後は、現在に至るまでトータルコーディネーターとして観光振興などのお手伝いをしている。
奥会津は、自然景観や秘湯を楽しむ観光などで大きく盛り上った時期もあった。とりわけ、紅葉や雪景色が美しいローカル線として名高い只見線は観光の目玉で、東日本大震災直前の2010年秋にはツアーバス332台、1万2千人が紅葉を楽しんだ。
ところが、震災、福島第1原発事故に遭遇し、あっという間に風評被害に見舞われた。追い討ちをかけるように夏の集中豪雨により流域は大きな損害を被り、只見線も流された。いまだに会津川口駅と只見駅との間が不通だ。
JR東日本はバス転換を主張したが、地元は上下分離による復旧を選択した。しかし、鉄道の不通は観光のイメージを大きく低下させた。11年の紅葉を愛でるツアーバスはゼロに、只見町の教育旅行も5校709人が全て取り消された。
観光客は戻ってきてはいるが、フクシマ発の国内向けプロモーションに対する反応はいまだに良くない。そういう中で、前途に一縷(いちる)の光明を見いだしたのが訪日外国人(インバウンド)観光客の動きだ。別世界の話だと思っていた観光関係者に「インバウンドってなに?」というテーマで勉強会を始めたのが2年前。自治体職員には上海や台北に行ってもらった。
外国人が来訪するきっかけは、皮肉なことに廃止が俎上(そじょう)にのった只見線だった。ネットで飛び交う沿線の美しい写真に触発され、台湾などの観光客が訪れるようになった。外国人が、会津宮下駅で降りて、第1橋梁を俯瞰(ふかん)する山の中腹まで大きな望遠レンズを抱えて登る光景はかつて目にしたことがなかった。
最近は、中国や韓国のツアー客も訪れるようになった。昨年の外国人宿泊客は800人程度だが、今年3月11日のシンポジウムでは、旅館経営者から確かな手応えを感じるという笑顔あふれる報告が相次いだ。
奥会津を見ると、インバウンドの波が地方の奥深くまでひたひたと押し寄せていると実感する。まだ、さざ波程度だが、この波が国内観光客の回帰というリバウンド効果も含めて、奥会津の観光再生のきっかけになればいいと思う。
(大正大学地域構想研究所教授)
※しみず・しんいち=東大卒。JR東日本取締役営業部長、JTB常務、立教大学特任教授などを経て、2016年4月から現職。長野県出身、68歳。