【私の視点 観光羅針盤 160】脱プラスチックと観光業界 北海道大学観光高等研究センター特別招聘教授 石森秀三


 財務省が8月に発表した2018年上半期(1~6月)の国際収支速報によると、経常収支の黒字額は10兆8411億円であった。そのうち、旅行収支の黒字は前年同期比42.2%増の1兆2011億円で、比較可能な1996年以降、暦年半期としては過去最大を更新している。インバウンドの増加による観光立国の本格化は誠にめでたいことである。

 世界的に観光が隆盛化しており、いまや観光はグローバル・フォース(世界を変える力)となっている。ところがいま世界的にプラスチックによる海洋汚染が深刻化している。

 プラスチックは世界で年間に4億トン生産され、毎年800万トンが海へ流出している。

 特に5ミリ以下で回収が困難なマイクロプラスチックが深刻な海洋汚染を引き起こしている。これらのマイクロプラスチックが海に流出し、有害化学物質の運び屋になるとともに、海洋生物(魚、貝、鯨、海鳥など)がそれらを誤飲し、そのような魚介類を人間が食することで有害化学物質が体内組織に吸収されて悪影響を及ぼす可能性が指摘されている。

 使い捨てプラスチックの1人当たり使用量は日本が米国に次いで世界2位。25年にはプラスチックが15年と比較して10倍になると予測されている。EU(欧州連合)は30年までに全てのプラスチック容器をリサイクルし、使い捨てプラスチックを削減すると発表している。また数多くのグローバル企業が「脱プラスチック」の動きを活発化させている。

 脱プラスチックが世界的課題になっているために、カナダで6月に開催されたG7サミット(先進7カ国首脳会議)の際に「海洋プラスチック憲章」が策定された。プラスチックゴミが沿岸部や海に流出し、生態系破壊や人体への健康被害、沿岸部の経済社会へのダメージが生じており、それらを食い止めるために自国でのプラスチック規制強化促進を図るための憲章であったが、米国と日本だけが署名せずに批判された。

 来年夏にはG20サミット(主要20カ国・地域首脳会議)が日本で初開催されることになっており、脱プラスチックは主要課題の一つになる。開催国の日本はこの問題で率先して世界をリードすることが必要だ。

 国連は、17年を「持続可能な観光国際年」に指定したが、日本では業界団体の間で話題になっただけで、一般市民はほとんど知らないままに国際年が終わってしまった。その反省を踏まえて、日本の観光業界は「脱プラスチック」を重要テーマにして頑張るべきだ。

 プラスチックゴミは至るところで美しい景観を台無しにしているし、日本食で重要な魚介類の汚染問題も看過し難い。この際に観光業界として声を大にして「脱プラスチック」運動を展開すべきであろう。

(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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