10月、福島県金山町主催で第2回目の只見線シンポジウムが開催された。まず、三角ベースボールの縁で奥会津をこよなく愛し、聖地と呼ぶ作家の椎名誠さんが「只見線の全面復旧への思い」と題して、基調講演を行った。
周知のように、只見線は東日本大震災と同じ年の2011年夏の集中豪雨時に、一気に放流されたダムの水により多くの鉄橋が流され、以来一部が不通になった。その後、鉄道廃止が俎上(そじょう)に上がったが、地元や福島県の熱意で上下分離方式による復旧が決まった。
3年後の全面復旧時には、只見線の新しい歴史を創りたいと意気込む地元は、ワークショップを繰り返しながら観光を中心とした利活用策を探ってきた。その一環で行われたシンポジウムのテーマは「地域資源の掘り起こしと只見線の可能性」だった。
椎名さんは、「皆さんは大切な財産を保有している。虫の声、草木の緑、只見川の水、光る星の中にある夜の暗さ…すごい贅沢(ぜいたく)だ。これを真剣に考えてくれ」と静かに話し始めた。最後に、「財産を生かす鉄道を復旧して、奥会津頑張れ!」と締めくくった。
後半は、観光鉄道としての只見線の可能性について関係者が議論を交わした。岩手県三陸鉄道の中村一郎社長からは「新緑、紅葉、雪景色が美しい只見線は観光の財産だという気持ちを強く持つべきだ」と、自分の経験を踏まえた鋭い指摘があった。一方、地元代表の星賢考さん(奥会津郷土写真家)は、「ひたすら写真を撮って発信した結果、外国人が多数来るようになった」、只見町在住の酒井治子さんは、「只見線について毎日60件の問い合わせがある。発信が足りていない」と述べた。
筆者は、観光への期待とは裏腹に、受け入れ態勢など奥会津の一体的取り組みが足りないと提起した。これに対し、星さんからは「3年後には多くの問題が噴出するのは覚悟している。それまで、日本版DMOのような地域が一体となれる場を作りたい」と決意表明があった。
いま地方では、利用が少ないJRローカル線や民鉄などの鉄道の在り方が盛んに議論されている。しかし、只見線のように廃止が提起されてやっと、地域や観光における鉄道の意義について住民を巻き込んだ議論が始まるケースが少なくない。まさに後手後手だ。
観光地域づくりにとって鉄道は不可欠な資源だ。だから、鉄道沿線地域は鉄道と観光の可能性について普段から論議し、鉄道維持コストについて官民のベクトルを常にそろえておく必要がある。そういう議論の場として日本版DMOが不可欠だ。
奥会津も只見線利活用の論議を契機に、やっとDMOの意義を認識し始めた。
(元大正大学地域構想研究所教授)