インバウンド観光における地域間競争で「差別化」が重要なことは言うまでもない。ではどこで差別化するのか。3点考えられる。
1、市場選択による差別化
市場をどう絞るか。これが難しい。絞ることによる市場規模の縮小、機会損失への恐怖心が邪魔をする。資源が無尽蔵であれば全方位でやればいいのだが、そうはいかない。限られた資源を有効活用し、成果を確実にするには絞らざるを得ない。ではどう絞るのが正解なのか。
市場規模(潜在・顕在)、今後の成長性、自地域の観光資源との親和性、競争環境、観光消費額への寄与度、ブランド価値向上への寄与度、アクセスのしやすさ(距離および直行便の有無)など、市場選定のために考慮すべき項目は複数あり簡単には決められない。もちろん、全てを満たす市場など存在しない。何を優先するのか。大切なのは「いつまでにどの程度」の成果を得ようとするのかという視点だ。
1~2年でそこそこの成果を上げることを望まれているのと、5年、10年のタームで大きく飛躍させようというのではおのずと選択は変わってくる。短期間で成果を取りたいのであれば、泥沼覚悟で顕在市場に打って出てシェアを取るしかない。
せとうちDMOは後者を選択し、潜在的な市場規模、自地域との親和性(およびブランド寄与度)、競争環境を基準にすえ、欧米市場に決めた。何が正解かは分からないが、何を軸に決めたかという決定のプロセスはとても大切。関係者でしっかりと共有しておきたい。それがないと後でブレまくる。
2、商品・提供価値による差別化
主たる観光資源である自然景観や歴史・文化資産は加工や変更が難しい。また、いくらうらやましがっても富士山は持ってこれないし、TDRは簡単には造れない。ただ、観光資源は地域固有の地理的条件や文化・歴史によって育まれており、そもそも唯一無二のものなのだ。
海はたくさんあっても瀬戸内海は一つしかない。その瀬戸内海だって、山陽側、四国側、見る場所によって魅力は異なる。その唯一無二性が消費者に伝わるか。消費者にとって価値あるものとして認知させられるかが肝。高い表現力が要求される。成功すればブランド力が上がり、高価格での販売が実現する。ぜひチャレンジしてほしい。
3、手法・組織能力による差別化
前述の表現力もそうだが、海外のある都市との特定の結びつきや人脈、活用できるメディアや旅行会社とのリレーション、独自の販売ルートや販売手法などが考えられる。せとうちDMOは欧米各国のマーケティングエージェンシーとのリレーション構築を他地域に先駆けて行うことで、競争優位を築いた。
この領域での優位性の獲得は時間と労力がかかる一方で、追いつかれにくい、模倣されにくいというメリットがある。先行者に知見が優先的に蓄積されるため、有利なポジションを維持できる。
さて、あなたの地域はどこで差別化しますか?
(せとうち観光推進機構事業本部長)