【私の視点 観光羅針盤 199】「観光」と「共生」 せとうち観光推進機構事業本部長 村橋克則


 好きな詩がある。

 「夏が来ると冬がいいと言う 冬が来ると夏がいいと言う 太ると痩せたいと言い 痩せると太りたいと言う 忙しいと暇になりたいと言い 暇になると忙しい方が良いと言う 自分に都合の良い人は善い人だと褒め 自分に都合が悪くなると悪い人だと貶す 借りた傘も雨が上がれば邪魔になる 金を持てば古びた女房が邪魔になる 所帯を持てば親さえも邪魔になる 衣食住は昔に比べりゃ天国だが 上を見て不平不満の明け暮れ 隣を見ては愚痴ばかり どうして自分を見つめないのか 静かに考えてみるが良い いったい自分とは何なのか 親のおかげ 先生のおかげ 世間様のおかげの塊が自分ではないのか つまらぬ自我妄執を捨てて 得手勝手を慎んだら 世の中はきっと明るくなるだろう 俺が俺がを捨てて おかげさまでおかげさまでと暮らしたい(『おかげさま』上所重助)」

 観光公害の問題があちこちで噴出している。外国人観光客がやり玉にあがっているが、この問題、昨日今日始まった話じゃない。地域によそ者が入ってくることでゴミや騒音が増え、地域住民の静かな生活が脅かされたり、その対応にかかる労力も含めた余分なコストを地元が負担しなければならないという観光の持つ負の側面は以前から指摘されていた。特に文化の違いや言語面の課題がある外国人観光客の急増によって、ことさらにクローズアップされるようになったと感じている(「観光公害」という言葉は好きではないが、この言葉が発明されたことで、問題が表出・共有化されたことには大きな意味があると思っている)。

 かつて海外旅行先での迷惑行為は日本人のお家芸だった。キャビンアテンダントに悪態をつく、酒に酔ってホテルで大騒ぎをする、重要な遺跡や建造物に落書きをする…。「旅の恥はかき捨て」は万国共通なのかもしれない。かといって、お互いさまなのだから我慢しましょうという話では全くない。

 地元にとっては死活問題だ。観光による経済効果と引き換えにストレスフルな生活を強いられるようでは元も子もない。そもそも地域の文化や生活そのものが今や重要な観光資源。それが侵されるような事態は看過できない。

 でもピンチはチャンス。今、起きている問題の解決を一部の観光事業者や行政に任せっきりにせず、住民全体が自分ごととし、知恵を出し合い、持続可能なまちづくりを目指す良いきっかけと捉えることが大切だ。キーワードは「共生」。文化や慣習の違う外国人とどう折り合っていくのか、地域として観光で収益を追うことと生活を守ることの接点をどう見つけるのか、地域として譲れるところと譲れないところの境界線はどこなのか、かかるコストは誰が負担するのか。しっかりと議論したい。

 その際、皆が「我」を少しだけ脇に置いて「おかげさま」の心持ちで臨めば答えは自ずと見えてくるはずだ。地域の「光」を「観る」という観光本来の役割に大いに期待したい。

(せとうち観光推進機構事業本部長)

 
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