【私の視点 観光羅針盤 203】世界水準のS級観光地に向けて 地域ブランディング研究所代表取締役 吉田博詞


 私は1981年、日本三景・世界遺産の安芸の宮島がある広島県廿日市市に生まれた。筑波大時代は社会工学類都市計画専攻で、まちづくりや地域活性化を中心に学んでいた。将来は地域活性化分野でプロフェッショナルとして生きたいという志をたてた。

 大学の勉学や研究そっちのけで各地に旅に赴くのと併せて、当時地域活性化の第一線で活躍されていたプロデューサーの方々の本やインタビューを読んで感銘を受けた。すぐに弟子入り志願の手紙を書き、実践の現場を学ばせてもらい、プロとして生きていく覚悟や必要な技術を徹底的に叩き込んでもらった。

 当時まだこの分野も今ほど盛り上がっている時代ではなかったが故に、多くのプロデューサーが可愛がってくれ、コーディネート力や行政予算の在り方、営業ノウハウ、課題解決の仕方や生き様を教えてくれた。机上の空論がいやになり、現場に勝るものはないと大学院を中退し、リクルート、地域活性プランニングを経て、2013年に「地域ブランディング研究所」を設立して現在7年目になる。

 地域の独自の魅力を最大限に活かして、事業化し、持続可能なまちづくりの応援をしていきたいという思いで立ち上げた会社だ。地元広島やせとうちエリア、オフィスのある浅草を中心に全国各地で、稼げる、そして持続的な地域づくりに向けて、地域の観光戦略の立案、インバウンド向け着地型体験プログラムの造成、人材・組織づくりを一貫してサポートしている。

 おかげさまで各地から引き合いをもらい赴いている中で感じることや、世界水準を学ぶべく、世界の主要な観光地をリサーチする中で、日本の観光において課題として感じていることは、(1)地域らしさの戦略不足(2)内需発想から外需発想への切り替え不足(3)中長期的戦略の不足(4)マーケティング・ブランディング発想の欠如―だ。日本を世界に通用する観光立国、S級観光地にしていくために、各地の事例から何をどう取り組めばよいか、その視点をここでお伝えしていくことにしていきたい。

 特に昨今は政府も誘導しているが、ターゲットに合わせたプレミアムな体験の造成と世界の流通チャネルに載せるという発想の欠如は非常にもったいなく感じている。国内向けには良かったものも、世界水準で動くとなると大きな違いがある。

 「世界のOTAでは何が売れているか」「富裕層は現在どんなことをしたくて、日本に何を期待しているか」「日本に来るルートはどんなルートで、どの空港から入り、どこを経由して、わがまちに来てくれるのか」といった視点が欠如したままで、とりあえず旅行博やユーチューバーを呼んで広告を打ったところで誰一人として呼べないだろう。

 大事なのは徹底的な地域のポジショニング・差別化戦略であり、ぶれない地域のブランディングであり、いかに地域アイデンティティと結合して展開できるかにかかっている。

 次回以降、世界のブランド力のある観光地のより具体的な実態やサービス概要などを、もっと掘り下げて日本に必要な要素を考察していきたい。

(地域ブランディング研究所代表取締役)

 
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